ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 39
ダアトにて拘束されて早数日。
なぜかディストではなく、シンクが私の面倒をみてくれていて。
後で知ったのだけれどどうやらこのときディストはバチカルにいっていたらしい
彼の部屋に居候状態の私。
しかしながら彼も忙しいわけで。
「なぜ、ここにいる」
シンク不在の中手持ちぶさたに彼の部屋にいずわっていた私、今、非常に、緊迫した空気の中にいます。
開かれた扉の先。
そこには鮮やかな金髪が美しい、リグレット。
「ええ、と・・・」
弁解をしようにも額に寸分の狂いもなくつけられた銃口。
それが気にかかって声がでない。
「答えぬのか」
あ、いたい、リグレットさん、痛いです!
ごりって、ごりっていいましたよ!?
思わず涙目になる私だけれど、それにいっさいの感情を彼女は見せなくて。
「閣下のところにつれていく」
簡潔な言葉の後、後ろ手に縛られて、部屋を連れ出される。
ここからでるなって、シンクにいわれたんだけどな・・・。
ごめん、シンク、これ不可抗力だから、許してね。
「生きていたのか」
私をみて第一声がそれって、どういうことですか、ヴァン。
ヴァンの前に放り出されて無様に床に転げる。
痛い。
私基本的にそんなハイスペックもってないんで、もっとお手柔らかにお願いします。
現況の前にいるというのに脳天気なこの思考は現実逃避からくるものなのだろうか。
・・・否、両親からの遺伝だろう。
「こちらにつかぬというならば、殺すだけだ」
スラリ、抜かれた刃。
切っ先は私に向けられて。
冷たい視線。
穏やかな表情。
ああ、あっさり、私は死んでしまうのだろうか。
ぼんやりと考える。
じわりじわり、浮かぶ人たち。
民を思う気高いお姫様。
罪にさいなまれる幼子。
障気に苦しむ少女。
復讐を秘めた青年。
裏切りと信頼で揺れる少女。
誇り高き騎士であろうとする幼なじみ。
優しい笑みを浮かべ、強い意志を持つ最高指導者。
そして、
死を理解することのできない蒼い色の軍人。
だめ、だ。
記憶の中紅の瞳が、揺れた。
わたしがしんでしまえば、かれが、かなしむ
また、かれのいないところで、いなくなってしまうのは、だめ。
目の前に迫る刃を、思わずつかんだ。
「!?」
「なにを・・・」
リグレットとヴァンの驚く声。
でも、それよりも手が、あつい。
痛いなんかを通り越して、熱い。
漏れそうになった悲鳴を歯を食いしばることで耐えて、目の前のヴァンの瞳をきっと、にらむ。
「私は、ここで、死ねない」
荒い息。
それでも、言葉はしっかりと彼に届いて
彼の眉がひそめられた。
「私の計画に邪魔なものは排除するに限る」
手から、ぼたぼたと赤が落ちる。
何の感情も持たない彼。
彼に伝えられる言葉は多くはない。
それでも、一つだけ、ある。
「私ならば、ティアを救える」
ぴたり、再度向けられていた刃がとまる。
「あなたの、ティアの体を犯す障気を、取り除く薬を持っている」
両親が開発した、最後の薬。
それは、確かに人の命を救うもの。
ヴァンにとって、脅威のものかもしれない。
でも、ティアにとっては必要なもののはずで。
「私が死ねば、その調合方法は誰も知らなくなる。ねえ、ヴァンデスデルカ。それでも、あなたは私を殺す?」
苦い表情と共に、刃はおろされて。
「閉じこめておけ」
その言葉と共に、私の自由は消滅した。
幾日がたったのか。
薬を作る道具を渡されて、ただ作り続けるだけの生活。
苦ではないけれど、楽しくもない。
刃をつかんだ手は、熱く、痛く、体を苛む。
そんな暗い小さな空間に風穴をあけてくれたのは緑色だった。
「あんたは、本当にとらわれるのが好きだね」
明るい光と共に、開けられた扉。
その向こう、緑色の彼が、あきれたように笑った。
神託の盾の制服を身につけさせられて、廊下を進む。
すれ違う兵たちは、シンクをみて敬礼をしていて。
「ねえ、シンク。私を外に出してもいいの?」
私の問いに彼は答えてはくれない。
「ヴァンとリグレットは今いない。」
端的に返ってくる、答えではない答え。
それでも、それは肯定と一緒で。
「あんたを、イオンのところにつれていく」
シンクが口にしたそれに、思わず息をのむ。
「僕ももうすぐここをでるからね。まだ安心できる場所にいてよ」
告げられたそれらに含まれる優しさに、どくりと、胸が音を立てた。
嫌いだと、嫌悪の表情しか浮かべなかった彼が、イオンに協力を願い出るという奇跡。
思わず、シンクの服をつかんだ。
「・・・なにさ」
ぶっきらぼうに疲れたような声。
そらされる視線
それでも、目元はかすかに赤くて。
「シンク、ありがとう」
その手に触れて、ただ、笑う。
あなたの優しさに、私への感情に、ありがとう。
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