ドリーム小説


あおいとりがわらう 6










「マルコさ〜ん・・・」

本当に無理です、こんなところでご飯なんか食べられません。

必死の訴えをマルコさんはにこやかにかわす。

そのまま腕を引かれ、手を取られ。

あれよあれよとそのレストランの中へと引きずり込まれた

「わ、あ・・・」

豪華絢爛、その言葉が似合う外観とは裏腹に、その店の中は豪華ながらもシックに、穏やかにまとめあげられていて。

その落ち着きやすい空間に思わずため息をつく。

くつり、横のマルコさんが小さく笑ったのに恥ずかしくなりそっと視線をさまよわせれば、店の奥からリーゼントが特徴的な、一人の人物が歩いてくるのが目に入って。

「・・・フランスパン、みたい。」

「ぶっくくくっ」


ぼそり、つぶやいた言葉、それを聞いてしまったマルコさんが盛大に吹き出す。

「ふらんす、ぱんっ・・・!」


その人が近づいてくる間にも笑いが止まる様子はなく。

「マルコさんっ」

慌てて袖を引っ張ればようやっとマルコさんは笑いを止めて。

そして目の前にやってきたリーゼントさんを目にして、

「・・・っくくくくっ」

また、笑いだした。

「おい、マルコお前俺に喧嘩売ってんのか?」


リーゼントさんが親しげにマルコさんの名前を呼ぶ。

それに対しても反応しないままマルコさんは笑いを止めず。


「・・・まあいいや。」

いいのですか。

「初めまして、かわいいお嬢さん!俺はサッチ。このレストランの総料理長をしてるよ!」

にやり、とても愉しそうにサッチさんは笑う。

こちらまで笑顔になりたくなるような、そんな優しい笑顔だ。

「マルコが人を連れてくるって聞いてはいたが・・・こんなかわいい子だったとはな。お前も隅に置けねえなあ。」

顎に手をやりうんうん、と頷くようにサッチさんは言葉を紡ぐ。

「名前、教えてくれる?」

自然な動作で、手のひらを捕まれて。

彼の口元まで持って行かれる。

一連の流れがあまりに流暢すぎて思わず呆気にとられる。

です。サッチさん?よろしくお願いします。」

ちゃん。うん。かわいい名前だ。よろしくな。」

ちゅう、と小さく音を立てて手の甲に唇が押し当てられる。

「っ!?」

「サッチてめえ!」

笑いを止めたマルコさんが慌てたように私を引き寄せて、ごしごしと手の甲を服の裾でこすり出す。

痛い、ちょっと痛いです、マルコさん!

「さっさと仕事しろよい!」

苛立ったように投げつけられた言葉。
それを笑いながら受けたサッチさんはくるり、反転して店の中へと誘導するように手のひらを差し出す。

「それでは、ご案内いたします。」

先程までの楽しそうな笑みを一転、ふわり、とても綺麗なスマイルに変えて。

この仕事が楽しくて仕方がないと、いうかのように彼は歩みを進める。

ちゃん。今日は作法とか、なにも気にせず楽しんでいってくれな。」







、ちゃん?」

「サンジ、くん??」


お待たせしました、その言葉と共に目の前に出された前菜。

鮮やかな色彩が目を楽しませて、ドレッシングが食欲に拍車をかける。

思わず感嘆のため息を漏らせば、ぽつり、名前が呼ばれて。

見上げれば驚いた表情を浮かべる大学のクラスメイトがそこにいて。

「え、何でサンジ君がここに・・・?」

「あー・・・俺の修行先がここなんだよ。」

どこか恥ずかしそうにはにかむ姿はいつも鮮やかに女性をリードする彼にしてはなかなかに貴重だ。

ちゃんは、・・・デート?」

ちらり、相手方のマルコさんをみやって、少し不機嫌そうに眉をひそめながらもそんな言葉をつぶやかれる。


デート


ぶわり、体中の体温が上昇する感覚に陥る。

でーと、だなんて、そんなおこがましい!!

慌てて訂正しようと口を開く。

が、


「そうだよい。邪魔、してくれるなよい」


マルコさんが先に口にした言葉に、訂正の言葉はのどに張り付いて。


「・・・ま、ちゃんが幸せそうなら俺は何にも言うこと無いけどな。」


ふわり、下げていた眉を上げて、サンジ君は綺麗に笑った。

でも、今の私にとってサンジ君の笑みよりもマルコさんの言葉の方が重要で。

それ、は、本当に、
期待しても、



いいの・・・?




サンジ君が中に引っ込んだ後、マルコさんはいつもの家でのようにふにゃり、表情をゆるめて話をする。

私の学校のこと、友人関係のこと、少し苦手な科目のこと、どれもこれも、楽しそうに彼は聞いてくれて。

優しげな表情に、相づちを打つ声に、穏やかなまなざしに、私の体温は上がりっぱなしで。



ちゃん。マルコのご飯の面倒みてるんだって?」

携帯に電話が入ったため席を外したマルコさんを待っていればサッチさんがにょきりと現れた。

コースはもうデザートにさしかかったようで目の前には甘い芳香を漂わせる色とりどりのケーキやアイスが盛りつけられたプレートがおかれる。

それに意識をとられながらもサッチさんの言葉に返事を返す。

「お隣さんなんです。一度縁があって、ご飯を作ったら美味しい、っていってもらえて。もしよかったらご飯、つくりましょうか、って。」

「あいつ、好き嫌い多いだろ?苦労してねえ?」

苦笑しながらそんなことを言うサッチさん。

それに思わず首を傾げる。

今まで作ったもののなかで、嫌いだと言われたことは一つもなく。
どれだって、なんだって美味しそうに食べてくれていた。


「・・・え?今まで出したもの何だって食べてくださいましたよ?・・・え、食べれないもの、多い、んですか・・・?」

何でも食べれると思ってしまっていたため、なにを聞くこともなくいろんなものを作ってきた。

どうしよう、嫌いなものばっかり出してたら。

突然生まれた不安にサッチさんの表情を伺えば、どこか唖然とした表情をしていて。

「サッチ、さん・・・?」

そんな表情をされればさらに不安なんですが?!

どうしよう、と思いながらサッチさんを見つめていれば、
ふにゃり、その厳つい顔が柔らかくゆがめられて。

「・・・ちゃん、あいつを頼むな。」

突然もたらされた言葉。

それに首を傾げればとてもとても穏やかにサッチさんは笑い帰してきて。

ちゃんがあいつの面倒をみてくれるなら、俺は、俺たちはすごく安心できる。だから___」

「さっさと仕事しろよい!」

続きの言葉は戻ってきたマルコさんによって遮られて。

サッチさんにおもいきり入れられた蹴りは非常にいたいだろう。


ああ、マルコさんはとても思われていると、そう思うには十分な時間だった。


















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