ドリーム小説







無色透明 10










びゅうびゅうとすぎていく世界の中、見下ろしたその先で。


見つけたのは目的の麦わら帽子。


がやがやと騒がしいその場所。

角材や大きな機械が鎮座するその一角に、カクさんは簡単に降り立った。

ゆっくりと地面におろされて、足を地に着けた瞬間、へなへなと腰が抜ける。

自分で望んでつれてきてもらったというのに情けない。

「大丈夫か?

柔らかなカクの声。

「楽しい空の旅でした・・・ありがとうございました。」

今頃ふるえる体をそのままに、言葉を伝える。

そうすれば彼は私の頭を静かになでてくれた。

「ん?カクどこに行ってた」

はじめにカクさんに気づいたのは葉巻をくわえた金髪の男。

「査定に・・・客がここにいるか?」

私から手を離して彼は返事を返す。

カクの言葉は非常に静かで。

それは、これから告げる言葉が原因だろう。

「・・・それは?」

ゆっくりと男の目が私に向けられて、怪訝そうに問いかけられる。

「ああ、麦藁のところのクルーじゃ___」

「あ!さっきの人!」

二人の会話を遮るように聞こえてきたのは明るい声。

ここ最近、聞き慣れてきた、と思えるようになった声。

「、て、え??!」

そんな彼女の、航海士さんの目は私を映した瞬間驚きで見開かれる。

ひらり、手を振って答えてみるけれど、腰が抜けた状態じゃたてなくて。

「ん??」

彼女の声が聞こえたのか、ひょい、と高い鉄鋼の間から麦わら帽子が顔をのぞかせる。

私を瞳に映した瞬間、一瞬で満面の笑みに。


その笑顔が、これから、曇ってしまうのか。


ぞわり、と嫌な感覚が胸を支配する。

だから、思わず手を伸ばした。

「ルフィさん、」

名前を呼んで、手を伸ばす。

そうすれば不思議そうな顔をしながらも彼はそばにきてくれた。

伸ばした手の射程範囲内に。

座ったままじゃ頭は届かないから、腰に手を回してぎゅう、と抱きしめる。

「お?お?」

頭一杯に疑問を浮かべる彼が、かわいい。

もう少し力を強くすれば、彼の雰囲気は楽しそうなものに。

「なんだ、。今日は甘えただな!」

___うん、そう。今、私はすごく甘えたくて、あなたを甘やかしたいの。

「・・・なにしてるのよ、あんたたち。___まあいいわ。で、私たちの船、どうだったの?」

あきれたような航海士さんの声。

けれど話は先に進んでいく。

カクさんに対して、望みを、希望をどんどん伝えていく二人。

来るときが、怖くて、でも、こないわけが、なくて。



「__・・・いや、はっきり言うがお前達の船は、わしらの腕でも、もう直せん・・・!___」


響いたカクの声。

航海士さんが、息をのんだ。

抱きついたままのルフィさんの体がふるえた。


凍り付いた空気に、がらり、切り替わった気配に、彼をみることができなくて。


「っメリー号が直せないって、なんでだ!?」

ルフィさんの叫ぶ声。

心の底から、信じられないと、信じたくないと。

今言われたことは嘘で、今告げられたことは偽りで、


そうではないと、困るとばかりに。


淡々と返される返事。

激高していくルフィ。

冷静に状況を判断しようとするナミさん。



それでも、結果はかわらない。


「お前ら、あの船がどんなに頑丈かしらねえからそう言うんだ!!!」

「沈むまで乗りゃあ満足か・・・」

ルフィさんの叫びは、この造船所の社長によって、止められた。


「あきれたもんだ。てめえそれでも、一船の船長か」


その言葉は、ひどく重たく。

ルフィさんの体は動きを止めた。

感情が音をひいてさめていく。

「どうぞご検討を。」

美人なめがねの女性がカタログを渡して背中を向けた。

ルフイさんの両側で握りしめられていた手のひらは、白く、白く。

耐えきれなくなって見上げた先の顔は、今にも泣き出しそうで。



いつものまぶしさは、そこにはなくて。



動かない足を叱咤して、ルフィさんを支えに立ち上がる。

腰に回していた手を首にのばして。

私よりも高いところにある頭をひきよせる。


泣かないで、泣かないで。


精一杯の強さで抱きしめる。


その笑顔が曇るのはみたくなかった。


私が接したこの短い時間でも知っている。

この人が、どんなに仲間を大事に思っているかを。


彼の横に落ちていた手が、腕が、私に回って。

痛いほどの力で抱きしめ返される。


「___めりーっ」


耳元で響いたのは、彼の大事な船の名前。

ああ、忘れていた。

どんなに強くても、どんなに頼もしくても。

この子は、まだ、私の世界じゃ庇護されるべき立場の人間だということを。



強い腕の力をこらえながら、息を吐く。


_お前ら、あの船がどんなに頑丈かしらねえからそう言うんだ!!!_

ねえ、ルフィさん。知らない、それは、彼らに対する言葉だけじゃないよ。
私だって、あなたたちほど、メリーのことを知ってるわけじゃ、ない

だって、あなた達にあったのは、最近で。

あなた達と行動を共にしだしたのは、つい先日で。



___そして、気づいてしまった



ああ、ちがう、私はルフィさんたちが悲しむのがみたくなかったんじゃない。

ほかの誰よりも、つながりの薄い私が、彼らの感情についていけなくなるのが怖くて。

だから、ルフィさんのそばにいることでその感情を享受しようとしてるだけなんだ。



気づいたその感情に、皆と同じように悲しめない自分の冷たさに、体がふるえる。


「アイスバーグさん、ゲートの前にお客人が来てますぜ。」

”世界政府”

「おいおめぇら、隠れろ!政府の役人だ!」

聞き慣れない言葉にぼんやりとしていれば、金髪の男があわてたように
促す。

その言葉にルフィさんはゆるりと動き出して。

私もそっと腕をはずす。

ぼんやりと、隠れるナミさんのそばに移動するルフィさんをみていれば、こつん、と頭に軽い衝撃。

「え?」

視線を向ければ、ばさり、音がなって。

肩にじわりとした重さと熱。

「 お前も海賊だろ?隠れなくていいのかっぽー? 」

そう発したのは、鳩。

まごうことなき、鳩。

鳩が話した内容よりも、話しをしたということに驚いて。

そっとその羽に手をやる。

そうすればうれしそうにすり寄ってくるから、思わず頬がゆるんだ。



カクさんの声。

鳩と戯れながら顔を上げればあきれたような表情があって。

「話を聞いておるかの?」

私は隠れなくてもいいのか、っていう言葉、ちゃんと、聞こえてるよ。

でも___

「私は___まだ、乗って日が浅いですから。」


気軽に彼らに近づく気にはなれなくて。

あの綺麗な瞳の前にたてる気が、しなくて。


小さな声でそう返す。

そうすれば、カクさんは何ともいえない表情をして。

「かわいい鳩ですね。名前なんて言うんですか?」

話を逸らすように、問えば、黒い髪、白のノースリーブの男が私の前にでてきた。

「 ハットリだっぽー。こいつはルッチ。よろしくっぽー。」

鳩は自分を羽指して、次に男を羽指して。

器用なその様子に笑いがこぼれる。


「あああああああっ!!いやああああああああ!!」

「ぎゃあああああ!!!」


突如響いた叫び声。

隠れていたはずの二人の声に、あわててそちらに目を向ける。

そうすれば二つのトランクが大きく口を開けていて。

その中にはなにも入っていなくて。


あれよあれよと船大工たちによって持ち寄られる情報達。

結果、ここにいない狙撃種さんもお金と同じようにつれて行かれたことが発覚して。

「ルフィ急いで探すのよ!」

指示を出した航海士さん。

それに従うようにあらぬ方向に走り出す麦わら帽子。

ナミさんの静止など、あってないようなものだ。

お金を、ウソップさんを連れていったのはフランキー一家という解体屋だと、そのアジトの場所を聞き出したナミさんは駆け出そうと一歩、足を踏み出して___何かに気がついたように振り返った。

「っ、!」

呼ばれた私の名前。

せっぱ詰まった状態だというのに、きちんと”私”をみてくれたことに驚いて。

「私じゃあなたを守れないわ!」

胸を張って言うせりふじゃないけど、確かなのだろう。

「だからはここで待ってなさい!」


一緒にこないで、言外にこめられた意味は、私への拒絶


「___わかりました。」

ようやっと追いついたのに、またおいて行かれた。

でもそれは、当たり前で。

私じゃ、足を引っ張ることしかできない私じゃ、当然で。

笑え笑え。

「自分で船に戻りますから、だからナミさん、ウソップさんをお願いしますね。」

待っていて、ということは、迎えにくるということで。

でもなにもできない私のことで、さらに煩わせるわけにはいかないから。

「・・・気をつけるのよ、

「ナミさんもお気をつけて」

私の言葉に一つうなずくと、彼女は走っていった。

「お仕事中に失礼しました」

一つ、息を吐いて、背後の船大工たちを振り返る。

「嬢ちゃん一人で帰るのか?」

葉巻の金髪の質問にへらりと笑ってみせる。

「・・・一人で帰れるのかっぽー?」

ハットリの言葉も笑顔でかわして、くるり、出口を探して視線をさまよわせる。

が、

「・・・カクさん。」

そういえば、ここにはこの人に運んでもらってきたんだった。

「なんじゃ。」

つまり

「出口はどこでしょうか?」

空から入ってきたので出口どころか入り口がわからない。

なんともいえない空気が流れた。

「・・・わしの仕事が終わるのをまっとれ。送っていってやるわい」

静かに、哀れむようにたたかれた肩がいやに痛かった。













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