ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 




洞窟を利用して作られた街。
陰気な雰囲気ととるか、静閑な雰囲気ととるか。
人によって感じ方は違うだろうけれど、この中に住む人たちを知っているものからすれば、前者と応える物が多いだろうこの街。

所属する配達ギルド<黒猫の足>
とある人からの荷物の配達の依頼で訪れたのは、魔導士達が住む町、アスピオだ。
帝国の管理下でもあるこの街には、許可証がないと入れない。
が、ギルドでありながら、帝国の仕事を請け負うことも多い我がギルドでは特別に許可証を所持している。

いつものように街の入り口に立つ騎士に、許可証を見せて、中に入ろうと一歩踏み出した、その瞬間。

「俺ら、こいつの連れ」

背後に感じた温もり。
肩に回されたのは私よりも逞しい、けれどがっしりとしすぎない誰かの腕。
引き寄せられた際にさらりと揺れた黒。
さらりと流れたそれを視線で追えば、そこにあったのは整った顔立ちの男性が一人。
それから、桃色の女性に大きな鞄をもった子供。

なんだこれは、誰だこれは、何が起こっている。

浮かんだ考えそのままに見上げた顔は、私の視線に気がついてにやりと笑った。

あ、そういえばこの人達さっきここにくるまでにすれ違ったな。
きっとアスピオに入ろうとして、門前払いされたのだろう。
そこに通行書をもってる私がきたからこれ幸いと一緒に入ろうと__

まあ、させるわけもないし、入れてあげる義理もない。
この人達を中に入れて起こってしまうかもしれない事象に責任をとる気もない。

見上げた先、頼む、とばかりに片目をつぶる。
顔が良いなこのやろう。だが解されてやるつもりはない。

「騎士さん、私この人知りませんから」

ぺしり、肩に回された手をたたき落とせば、ひらひらと叩かれた手を振りながらゆっくり私から距離をとる黒。

「だめか」

むしろ何でいけると思った。

「まあ、だよね・・・・・・」

溜息と共に子供の声。
よくおわかりで。

「残念です」

そんな気落ちした声をされると、悪い子としてるように錯覚するけど、たぶん一般的にふつうの反応だからね?

かしゃん
響いたのは金属音。
それは騎士達が、槍を構えた音。
向けられた槍に、やれやれ、とばかりに黒髪は肩をすくめて。
桃色と子供を従えて去っていった。

「・・・・・・お疲れさまです」

騎士の大きな溜息に慰めの言葉を返して、さてさて、では本業に戻りますかと街の中へと足を進めた。




「んー、モルディオさぁん。お届け物ですよ〜」

こんこんとドアを鳴らすが、返事はない。
街の端っこ、少々特殊な場所にある家。
ここが今回のお届け先だ。
__とはいっても、実はモルディオさんはお得意さまだったりする。
我がギルドは頼まれた手紙や届け物の配送はもちろん、依頼主に頼まれた物を探しお届けするのも生業にしている。
その中、モルディオさんは稀少本を求めて我がギルドを使ってくれることが多いのだ。
見た目は可愛らしい女の子なのに、その中身は魔導器ば・・・・・・魔導器の研究に心を捧げるすごい人。
ただし実験に熱中するあまり、お届けしても気づいてもらえないことも多く、手渡すのがいつも一苦労だったりする。
そして、今回も例に漏れず。
叩いても反応がない室内。
今日は外出、というよりも、爆睡でもしているのだろうか。
さてさて、どうしよう。
届け先からサインをもらわなければ、依頼達成にはならないのだ。
と、

「あー、さっきの!」

聞いたことのある声。
ゆっくりと振り向けば、私に向かって人差し指を向ける子供の姿。
大きな鞄を肩からかけるのは、先程入り口でみた子供だ。
その後ろゆっくりとこちらに向かってくるのは黒髪と桃色。
__どうやって入ってきたんだろ。

「また会ったな」
「先程ぶりですね」

よっ、と手を挙げる黒髪に、にっこりと笑う桃色。
何だその既知の仲、みたいな反応は。
返事をしない私を気にすることなく、彼らはモルディオさんの家に足を進める。
ゆっくりとあげられた手が、ドアノブを掴み、遠慮なく押し開けようと、した。
ちょっとまて、ノックが先だろう。
あかないことを確認してから、次いでノックする。
順番がおかしい。
桃色が注意していることから、やっぱりおかしいのは黒髪のようだ。
ひとしきりあかないことを確認すると黒髪は子供を振り返った。

「僕の出番だね!」

意気揚々と扉に近づいた子供はきらりと光るなにかを取り出し、鍵穴をさわり始めた。
うわ、子供なのにピッキングとかしてる?え、まじで?将来怖くない??
がちゃ、っとふつうに鍵が、あいた。
え、まじか。
・・・・・・ピッキング技術覚えたら、ちょっとは配達楽になるかなぁ・・・・・・否、人としてだめだろうやっぱり。

「ちょ、ちょっとまってください。モルディオさん、私の依頼主なんで、目の前で無体を働こうとしてるの見過ごせないんですけど!?」

私の言葉に黒髪が、くるりとこちらを向いた。
その瞳は先程までと違い、どこか鋭い。

「あ?依頼主、って・・・・・・何を依頼されたんだ、モルディオに」
「守秘義務ですから、教える訳ないじゃないですかぁ。我がギルドの信用に関わりますもん」

言えるかこのやろう。
ぱたぱたと手を振りながら拒否権を発動すれば、私の言葉に反応したのは子供だ。

「ギルド?お姉さん、ギルドの人??」

大きな目をくりくりと輝かせながら見上げてくる子供は、まあ、可愛い。
その頭に手が伸びて、よしよしとなでてしまったのは仕方がないだろう。
こほん、と咳をして、のどの調子を整えて。
ゆるりと斜に構えながら右手は腰に結わえた鞄に、左手は胸元に。
軽くお辞儀をして、我がギルドの謳い文句を口にする。

「毎度おおきに、配達ギルド、黒猫の足です〜。ご用命とあれば、例え火の中水の中。ただし配達物の安全は保障しかねます〜燃えない紙、濡れない紙でどうぞ〜。天の上地の下、はたまた砂漠の中だって。運んで見せます。運ぶのは、荷物だけにあらず。信用も一緒にお届けします〜どうぞ配達ギルド黒猫の足をご贔屓に〜」

若干やる気がないのはあきらめてほしい。
こちとらこの口上長くて好きじゃないのだ。だが、我がギルドの長から厳命されているので仕方がない。
これを言った回数ボーナスがでるのだ。

「もう少しやる気だせよ・・・・・・」
「あー!黒猫の足!」

うるさい黒髪。
私の口上で、ギルドの存在を認識してくれた子供はきらきらとした瞳を一変、そらした。

「お?どうしたカロル先生」
「いや、その、なんでもないよ・・・・・・」

カロル、その名前は聞き覚えがあるなぁ。
んー?以前一日だけ入って、抜けた、子に、そんな名前が__まあいいか。

「ま、口出さねえでくれよ、配達ギルドさんよ」

私の話に一度足を止めたものの黒髪はぐいぐい、遠慮なくモルディオ家に入っていく
いや、本当、ちょっとまとうか!
せめて私の目のないところでやってくれ!

止めるために踏み入った、モルディオの家。

「ドロボウは・・・・・・」

聞こえてきたのは何度も聞いたことのある家主の声。

「ぶっとべ!!!」

放たれたのは、赤く染まる火の玉で__その後の記憶は、何もない。






配達ギルドと始まりの話








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