ドリーム小説
配達ギルドのあれこれ
「よくやった__配達ギルド、お前にはちゃんと帰り方を用意してやろう。しばらく共に行動するがいい」
アレクセイさんはそう言って私を、シュヴァーンさんをねぎらった。
「シュヴァーンさ〜ん」
待機を命じられた神殿にて。
神殿内のチェックをする彼の後ろをてこてこと追い回す。
用事があるわけじゃないけれど、一人でいてもすることはなく。
かといって、捕らわれたエステルさんのそばにはいつもアレクセイさんがいるので居ずらくて。
私の呼びかけに、シュヴァーンさんは全く応じない。
かといって違う名前で呼ぶわけにも行かず。
結局は何度も答えのない名前を呼ぶことしかできないのだ。
朽ち果てた神殿はところどころ崩れかかっていて。
神に見捨てられたのか、神が見捨てられたのか、そんなどうでもいいことを考えさせられる。
この世界にも、あの世界にも、神がいない事なんてわかりきっているというのに。
「__危ない」
てこてことこりもせずシュヴァーンさんを追いかけていれば、小さく響いた声。
同時に腰に温もりを感じた。
足下が崩れかかっていたのにも気づかず、突き進んだ私をあきれたようにシュヴァーンさんは抱え上げてくれて。
へらり、笑えばため息を返された。
「いい加減、どこかでじっとしていろ」
平坦な言葉。
淡々ともたらされる言葉は決して私を案じたものではない。
それでも、その声は、まなざしは、どこかレイヴンさんと似通っていて。
否、シュヴァーンであり、レイヴンであるこの人は、いくら取り繕うとも、この人であることだけが確かで。
嫌いだと、思えないのだ。
__苦手だと、あんなにも思っていた相手だというのに。
暖かな言葉で、すいすいと入り込んでくるくせに、肝心なところで突き放すこの人が。
柔らかな表情で、ぐいぐいと距離をつめてくるくせに、その瞳が氷のように凍てついているこの人が。
全部嘘のようにからかって、全部嘘だと見せかけて、何一つ信じさせてくれないこの人が。
苦手、だったのに。
苦手、なままでいられればよかったのに。
苦手、なままでいたかったのに。
この世界に、心揺らされる存在など、持ちたくなかったと、いうのに。
__守ったげるから、一緒においで__
この人の優しさに触れてしまった。
__おっさんに飛び込んでおいで__
この人の、温もりを知ってしまった。
__仕方ないんだよねぇ__
この人の苦しみに気づいてしまった。
__ね、お嬢。配達ギルドのお仕事、お願いしても?__
この人の共犯者になってしまった。
へらへらと笑う、胡散臭いその笑顔
言葉少なに、起伏のない表情
どちらも、この人だと知ったときから。
全部、自分のためだったのに。
あの世界に帰るための方法を探すためだったのに。
器用でいて、不器用なこの人を、見つけてしまった。
しらないままでいれたら、どんなにらくだっただろうか。
すべてを隠そうとするこの人のそばが、まるで自分の隠していることも、そのままでいいと許されるような錯覚。
いろんな事を偽るこの人のそばならば、自分が偽っているいくつもの事が、些細なことのように思える錯覚。
居場所を持たないこの人のそばは、この世界に居場所を見つけられないままの私にとって、とてつもなく居心地がいいのだと、そんな錯覚。
レイヴンさんであり、シュヴァーンさんである、この人のそばに、いたいと思っている自分が、いて、しまうのだ。
どうせ、最後に選ぶのは、自分の世界だというのに
そのときには、、すべて切り捨ててその方法を選ぶというのに
「シュヴァーンさ、」
むぐり
抱えられたままのため、そろそろおろしてほしい。
乙女の体重は、片腕に抱えられ続けるものじゃない。
そんな気持ちを込めて名前を呼ぼうとすれば、口を手のひらで押さえられた。
何事かと彼に目をやれば、相変わらずのあきれた表情。
「シュヴァーンでいい」
この世界の人は、なぜ脈絡なく名前の呼び方を変えてほしいというのか、不思議だ。
「__シュヴァーン」
にへら、笑って呼べば、あきれたようなため息が返事。
「__いつまでつきあうつもりだ」
「アレクセイさんがねぇ、一番私が元の世界に還るための方法を作り出してくれそうなんですよねぇ」
シュヴァーンの問いかけに、なにも隠すことなく告げれば、彼は一つため息をついて
「__勝手にしろ」
とだけ返した。
配達ギルドとシュヴァーン隊長
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