ドリーム小説
Q”今、どういう状態なのか、20字以内で答えよ”
A”ドアが開いて見知らぬ人に抱きつかれた”
今日と明日の境目。
その狭間の時間。
悠々と暮らす1人暮らしのマンションの一室
セキュリティはばっちり、とまでは言わなくても入り口はオートロック、鍵も二重。
そんな物件だったから安心していたのだけれど___
がちゃがちゃ
入り口のドアをあけようとする音。
お風呂も入って1人愉しく果実酒をちびちびとやっていた時。
程良く回っていた酔いが一瞬で醒める音がした。
あ、しまった、チェーンかけ忘れてる
玄関に視線を向けた先、チェーンが仕事をこなしていないのを発見。
これはやばい。
鍵を突破されたらそれまでだ。
ぐるり、1LDKの部屋を見渡せど、武器になるようなモノは見つからず。
唯一、目の前の果実酒のはいった瓶が目に付いた。
それを両手で握り持ち、ゆっくりと玄関に近づいていく。
せめてチェーンを、チェーンをかけねば。
そおっと近づいて手を伸ばして、後すこしでチェーンに手が___
がちゃり
伸ばした手は空を切った。
無情にも吹き込んでくる外の冷たい風。
外開きの扉の先、月の光をきらりと反射させる髪。
グレイ色のスーツからのびる手は褐色。
整った顔立ちに綺麗な瞳___はどこか据わって見えて。
「あ”?」
その男は私を目に入れると、低い声で音を発した。
あ、だめだ、私ここで死ぬんだ。
短い人生だったな
せめて、彼氏とか作ってみたかったなぁ
大学の友達にかえしぞこなった本、どうしよう
バイト先にも迷惑かけちゃうよねぇ
せめて今月分のお給料もらってかっら死にたかった
走馬燈のように駆けめぐる思考。
微妙に暢気なことを考えてしまっているのは、現状にリアリティを感じていないからだろうか。
それを中断させるのも目の前の男。
褐色の手がこちらにのびてきて___
「っ」
思わず眼を閉じた次の瞬間
ぼすり
温もりが体に広がった。
「・・・・・・は?」
ゆるゆると目を開ければ目の前には色素の薄い髪。
体に回されたのは褐色
久方ぶりに感じたその温もりに、思わず息を吐く。
「はぁ・・・・・・」
耳元で響いた声がくすぐったくて身をよじれば、それを咎めるようにぎゅう、と体に回された腕の力が強くなった。
その拍子に武器代わりにでもなれば、だなんて持っていた果実酒の瓶がごとりと地面に落ちて。
___なにこの人なんかすごくいい匂いする・・・・・・とか言ってる場合じゃない
「も、もしもーし・・・・・・?」
どういう状態だ、これ。
思わずその体をぺしぺしと叩いたけれど、彼はびくともせず。
あ、だめだ、これは私じゃ手に負えない。
すぐさまHELPを求める、と脳内会議は判決を下した。
道具はスマホ。
幸いな事にスウェットのポケットにその存在はある。
けれど、腕ごと巻き込まれているため。少々動きにくくて。
そのためにはこの男をまず引っ剥がさなければならない。
どうしよう。
頑張って体をひねって、男から距離をとろうと___
「ちょ、ま、い、いたいいたいいたいいたい!!」
ぐるり、視界が回って、同時に衝撃。
目の前に先ほど地面とこんにちはした果実酒の瓶があったことで地面にたたきつけられたのだと、認識。
でもそれよりも何よりも痛い。
ものすごく、いたい。
叫びながらべしべしあいてる方の手で私を押さえつけている腕を叩く。
と、ぴたり、勢いが止まった。
弱まった力はしかし、離すことはされず
「・・・・・・つか、れた」
ぽつり、つぶやかれた言葉があまりにも感情がこもりすぎていて。
痛いと叫んでいた自分の声ですら、彼の前で出すのはなんだかはばかられて
息をのんだ
「ぐえ」
次の瞬間一気に増した背中への重たさ。
つぶれた蛙のような声をあげたけれど、後ろの男は反応せず。
耳元に当たる、彼の吐息。
まるで電池が切れたかのように男は動かなくなって___
すやすやと聞こえてきたのは、これ寝息じゃないですか?
「え、ちょ、まさかこのまま・・・・・・?」
ざわり、体中が警鐘をならす。
彼の重たさに朝まで耐えろと言うのか?
この冷たいフローリングで?
玄関の鍵も閉めれていないのに?
机の上、先ほど飲んでいたお酒もそのままで?
先ほどひねりあげられた腕は今もなお彼との間に存在して、痛みを訴えているというのに。
問いかけたそれに答えは返ってくるはずもなく
私にできたことと言えば、引っ張り出すことに成功したスマホを必死に操作して、着信履歴に残っていた一番上の番号に電話をかけて___留守電につながったそれをそのままに冷たい玄関で押しつぶされて朝を迎えることだけだった。
「本当にすまなかった」
目の前、深く頭を下げているのは色素の薄い髪を持った男。
髪の間から見える肌は褐色。
そして昨日は気づかなかったけれど、とてつもなくイケメンだった。
人の上でぐっすり寝たからだろうか、昨日よりも心なし艶々してみえる。
きらきらしてる、まぶしい・・・・・・
少しよれたスーツでも、なぜか彼をマイナス方向に向けることはなく
昨日の夜私の家に不法侵入した人物と同じだとは到底思えない
が、おんなじ人物なんだなぁ、これが。
曰く
仕事の処理に追われ、5徹だとかあほうなことをしたとのこと
曰く
全ての処理が終わって、気を抜いていたとのこと
曰く
どうやら彼はこの上の階に住んでいて、階数を間違えたとのこと。
久方ぶりに自分の部屋に帰ってきて___見知らぬ人物がいたからひねりあげてしまった、ところまでは記憶があるらしい。
ぺしゃんとつぶれたまま迎えた朝。
寝るにも寝れず、痛みを抱えて悶々とした一夜を過ごした今。
目の前、深々と頭を下げたままのいけめんを眺めながら
じくじくと痛む腕をさすって、こんなイケメンでもそんな失敗あるんだなぁ、と思いいながら首を傾けた。
私の動きに、彼ははっとした表情を浮かべて腕をこちらに伸ばしてきて。
頭にフラッシュバックする昨日の夜のこと。
咄嗟に頭を抱えてぎゅうと体を縮こまらせた。
「、すまない」
私の動きに何かを察したのか、彼はすぐさま言葉を発して。
今度はそおっと様子をうかがうように下から手を伸ばされた。
___まるで野良猫に触れるときのように。
その腕はそっと下から私の腕に触れて、優しく撫でてきて。
「これも、俺のせいだな___」
どんよりとした雰囲気。
硬い表情に、寄せられた眉。
イケメンがそんな表情をしたら、慰めないといけない気分になってくる。
「だ、いじょうぶです、よ」
どこが大丈夫なのか。
自分で自分に問うけれど、答えなんてなくて。
へらり笑って見せた顔に、イケメンはさらに瞳をゆがめた。
「なにからなにまで、すまない」
再度頭を下げた彼はそのまま数秒固まり。
ゆっくりと、あがってきた表情は今までとは全く違う、強い意志を秘めた瞳を抱いていた。
先ほどまでと同じ顔のはずなのに、全く違う雰囲気。
思わず息をのむほどの変化。
「待ってろ」
静かな声で告げると彼は立ち上がり、私に背中を向けて。
携帯を操作しだした。
そのままそれを耳元に当てて___
「ああ、俺だ。先日の件、受け入れることにした。大丈夫だ、心配ない___」
先ほどまでもずっと思っていたけれど、改めて聞いているとやっぱり浮かんだ考え。
すごくいい声だなぁ。
耳障りのよい、しっかりとした声。
その声に指示されれば、すぐに従いたくなってしまうような。
人に指示を出し慣れていそうなそれみ、じっくりと聞き入ってしまいそうになって___
「1週間、有給消化させてもらう」
入ってきた単語に首を傾けた。
ゆうきゅうしょうか
意味は、わかる。
でも、なぜ今それを申請するに至ったのか?
「ああ、じゃあ頼んだぞ」
考えを巡らせるうちに、彼は会話を終わらせて___
私に向き直り、ゆっくりとひざをついた。
例えるならば___姫の前にひざまづく、騎士のように
___私が姫、とはおこがましすぎるが。
「若い娘を怖がらせて、さらには怪我を負わしてしまった。大人としてあるまじき行為だ」
「若い娘って___あんまり変わらない年じゃないんですか、おにいさん」
思わずつぶやけば、目の前の彼は一つ、ため息をついて。
「俺はもう30すぎてるんだが?」
「・・・・・・は?」
え、いまこのひとなにいった?
30すぎてる?
まさか、この外見で?
まじまじと見つめる顔。
「・・・・・・なにか?」
彼はにっこりとここ数時間で一番まぶしい綺麗な笑顔を浮かべることで私を黙らせた。
笑顔を引っ込めると、彼はこほん、ひとつ咳払いをして言葉を続けた。
「見知らぬ男に家に押し入られて、捻りあげられて、怖かっただろう___これが詫びになるとは思っていないが___」
彼は先ほどまでのきらきらとした笑顔ではなく、どことなく困ったように笑って続けた。
「名前を聞いてもいいか?」
「はぁ、、ですが・・・・・・」
「、だな。俺は降谷零だ。」
ゆっくりと痛みを発する腕をとられた。
「1週間、俺が傷つけたおまえの右腕の代わりになろう」
彼、降谷零は、そう言って私の腕を撫でた。
ふれられたところから、あふれていく熱
その人が私に向けるまっすぐな視線
心臓がばくりと音を立てた意味を、私はまだ知らないままでいたい
はじまり
長年追い続けていた組織が崩壊した
最後追いつめたのは、俺たち公安はもちろん、認めたくはないがFBI、そしてどこかの怪盗も手を貸したようで。
でも、それらを結びつけたのは____あの小さな探偵で。
黒の組織の取引を目撃した後、薬を服毒させられて。
気がつけば縮んだ体のまま、奴らと戦うことを決意した。
そんな、幼き、果敢な少年。
彼の助けなしにはこの成果は得られなかっただろうと、そう断定できるほど。
組織が崩壊したという事は___俺の潜入捜査が終わったという事でもあって。
それでも後処理は多く、数年たった今、ようやっと目処が、ついた
後すこしで全てが終わる。
そう思えば睡眠をとる時間さえもったいなくて。
これが終わったら必ず一週間以上休みを取ってください。
部下の風間に言われた言葉がくるくる回る。
休めるものならば休みたい。
それでも、長年休息というモノをとってこなかった俺からすれば、休みというモノをどう使ったらいいのか、考えあぐねてもいたわけで。
5徹に突入した思考回路は支離滅裂なまま意味のない考えをぐるぐるとめぐらせる。
だからこそ、こんな失態をおかしてしてしまったのだ。
肌寒さに身震いして、近くにあった温もりにすり寄る。
その温もりが微かに震えた気がして、なだめるように触れた___と、気づく。
これは、なんだ
瞬時覚醒する思考。
ばっと開いた瞳の先、見慣れたフローリングに散らばる黒い髪。
でん、と置かれた果実酒の瓶。
距離をとるために体を動かせば、まさかの体の下に感じた柔らかな感触。
「おにーさん、起きました・・・・・・?」
弱々しい声。
それはもちろん真下から
慌ててその体から降りれば、みしり、固まっていた体が痛みを訴えてくる。
けれどそれよりも気になるのは、目の前の女の、右手。
不自然にひねられたその腕。俺の手が捻りあげている、細い手。
これは、どういうことだ
勢いよく距離をとる。
ぐるり、巡らせる記憶。
がんがんと鳴り響く警鐘
思い出せ、思い出せ。
指示に素直に従うように蘇っていく記憶。
5徹を終えて、久方ぶりに家があるマンションに入り、押した階数は___
ここじゃ、ない
さあぁ、と久方ぶりに感じた体中の血が下がっていく感覚。
自分の部屋ではない扉を開けて(鍵が開かないと思いながら、早く家に入りたくてピッキングをした記憶がある)
自分のしっている光景ではないそこに(自分のテリトリーではないと認めるのも億劫で)
無理矢理入り込んだ先で(呆気にとられる1人の女の姿も確かにあった)
その腕をねじ上げて、その体を押さえつけて。
久方ぶりに感じた温もりに体中の力が、思考能力が、確かに喪われていって___
もう一度みた目の前の女___否、まだ若い娘だ
俺がのいたことで起きあがれはしたようだが、どこか腕を動かしずらそうにしている。
当たり前だろう。
昨日このマンションに入った時深夜0時をすぎていた。
少なくともその後から俺に押しつぶされたままで一晩を過ごしたんだ。
痛くないわけはないだろうし、ほかの箇所も傷ついていないとは限らない。
なんという失態だ。
組織を壊滅できて気がゆるんでいた証拠だ。
あってはならないことだ。
その場に座り込んで、目の前の女に深々と頭を下げた。
「すまない」
安室透時であれば、すらすらとでてくる言い訳も言葉も、今、降谷零である自分にはなかなか発揮できず。
言葉少なに謝る俺に、女はへらり、笑う。
___俺が言うのもなんだが、危機感というモノがないのか、この女は
大丈夫、だなんて簡単に返しながら、自分の腕にそっと触れる。
部屋着であろうスウェットに隠れた腕はきっと色が変わってしまっているのだろう。
思わずその手に触れようと手を伸ばして___
びくりと、体を大きくふるわせて、腕で自分を守るように縮こまるその姿。
拒絶反応
原因は明らかすぎて。
引っ込めた手を、今度は下からゆっくりとのばす。
怖がらせないように、これ以上おびえさせないように。
そっと近づけたそれに、今度は拒否反応はおこらず。
ゆっくりと自分とは違う細い腕に、触れた。
スウェットに隠れた腕を表に出せば、やはり痛々しいまでの紫色。
傷つけたのは、俺
「これも、俺のせいだな___」
つぶやいた俺に、やっぱり女はへらりと笑う。
「だいじょぶ、です、よ」
どこが大丈夫なものか。
ぐ、っとあふれそうになる感情を、奥歯をかみしめることでこらえて。
___これが終わったら必ず一週間以上休みを取ってください___
浮かんだ、言葉。
任されていた仕事を終えて、身があいた、今。
示されていたこの休みは、この子のために。
「待ってろ」
告げて、すぐに携帯を操作する。
打ち込むのは信頼できる部下の番号。
「 はい 」
「 ああ、俺だ。先日の件、受け入れることにした 」
「 本当ですか?ちゃんと休んでくださいね 」
電話の向こう、心配そうな声。
よく理解されていることに、苦笑が漏れる。
「 大丈夫だ、心配ない 」
この一週間は、彼女のためにあろうと思うから。
「 1週間、有給消化させてもらう 」
だから後のことは、頼んだ。
信頼できる部下の頼もしい返事に電話を切る。
彼女の前にひざをつき、目線をあわせて。
「若い娘を怖がらせて、さらには怪我を負わしてしまった。大人としてあるまじき行為だ」
きょとりと大きな瞳をくるりと回す彼女。
よく見れば、かわいい顔立ちをしていて。
組織潜入中は秀麗な顔ばかりを見てきたため、なんだか非常に親しみ深く。
「若い娘って___あんまり変わらない年じゃないんですか、おにいさん」
けれど帰ってきた言葉に、思わず口を閉ざした。
年相応の顔ではないとよくいわれはするけれど___もう30歳も過ぎているというのに、同じくらい、とはひどいのではないか。
「俺はもう30すぎてるんだが?」
「・・・・・・は?」
ため息と共に吐き出せば、ひどい返事。
「・・・・・・なにか?」
思わず安室透の笑みが漏れた。
黙った彼女をそのままに、言葉を続けた。
「見知らぬ男に家に押し入られて、捻りあげられて、怖かっただろう___これが詫びになるとは思っていないが___」
どちらの名前を告げるか、少しだけ、迷った
「名前を聞いてもいいか?」
「はぁ、、ですが・・・・・・」
だから、少しだけ考えて、先に彼女の名前を問う。
危機感もなく返ってきた返事。
本当は知っているけれど___
大学3回生
とある喫茶店でバイトをしている
大学入学と同時にこのマンションに入居
自分のまわりにくる人物が安全な存在であるかどうか。
それを、知るためだけに調べた、
「、だな。俺は降谷零だ。」
すとん、と簡単に漏れた自分の名前。
本当ならば、安室透でいるべきだったろうに、思わず漏れたその本名。
完璧に気が抜けているな。
ぱちくりと瞳を瞬かせる彼女の腕に再度触れて、撫でた。
「1週間、俺が傷つけたおまえの右腕の代わりになろう」
熱を発するこの腕を、まずは医者に連れて行かなければ
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