ドリーム小説

















カントダウン 7






降谷、と名乗ったその人によって、私は今病院にいた。
あれよあれよとスウェットから着替えさせられて、ぽいと車に乗せられて。
___良く考えなくても、このイケメンの前で私ずっとすっぴんで寝間着代わりのスウェットだったんだなぁ、って思うと居たたまれない気持ちになる。

気がつけば目の前にはお医者さん
後ろにはイケメンの降谷さん。
彼は私の代わりにいろいろと答えてくれて。
とんとんと診察は進んでいく。

1週間はあまり動かしたりしないように。
その言葉と共に病院を後にした。

背中の、腰のあたりに感じる大きな掌。
私を車まで誘導するそれは、優しさとはかけ離れてどちらかというと痛い。
大きな歩幅のままぐいぐいと押してくるから、私は小走りになるわけで。

「ふ、降谷さーん」

「なんだ」

「足、長いのわかったんで、もうちょっとゆっくり、行ってくれると、嬉しかったりぃ?」

私の言葉に、降谷さんはぴたり、足を止めた。
従って足をとめるけれど、彼とは違い私は少々息が荒い。

「降谷さーん?」

ひょこり下から顔をのぞき込めばどことなく罰が悪そうな表情。

「___すまない」

そう言うと少しだけペースが落ちて、私の歩調に会わせてくれるようになって。
朝から、謝ってばかりだなぁ、この人。
そんなことを思いながらゆるまったペースにひょこひょことついていった。




ふっかふか

さっきはそんなところまで考え行っていなかったけれど、この車、ものすごく乗り心地いい・・・・・・
誘導されて高そうな白い車に乗せてもらって。
そこでようやっと息をついて、そんなことに気がついて。
運転席に乗り込んだ降谷さんも一つ、息をついた。

「___降谷さん、別に、大丈夫ですよ?1週間も面倒見てもらわなくて」

先ほどは流されて病院まで来ることになってしまったが、この怪我がこの人のせいとはいえ、彼の大事であろう休みを費やしてまで面倒をみてもらいたいとは思わない。

ぶっちゃけ初対面の相手と一緒に動く方が辛い。

控えめに告げた言葉に、彼はゆるりと綺麗な瞳をこちらに向けてきて。



私を呼んだ。
それだけで、背筋が伸びるような、彼に集中しなければいけないような、そんな気分にさせられて。

「おこがましいのはわかっている___それでも俺に贖罪の機会を与えてはくれないか?」

少しだけ寂しげに眉を寄せられたら、NOなんて言えるはずもなく。
黙り込んだ私に、彼は小さく笑った。

「正直、突然休みをもらってもな、なにをすればいいかわからないんだ」

少しだけほころんだその笑みは、目を奪うには十分で。

「俺の休日に、つきあうと思ってはくれないか?」

加害者は向こうで、被害者は私で。
彼の休日をもらうことを拒否した私に、別の方法で誘導してくるとは___
じいっと見つめられて、息が詰まる。

「・・・・・・わかりました、仕方がないので降谷さんのお休みにつきあってあげますね」

私の返事に彼は柔らかく眼を細めて、再度口を開いた。

「後、もう一つだけ、意味の分からないだろう願いを、聞いてほしい」

この際なにが来ても一緒だろう。
一つうなずいて続きを促す。

「外で俺を呼ぶときは___安室透、と呼んでくれ」

思いがけない内容で、瞳を一度、二度、瞬かせる。

「降谷さんじゃなくて?」

「ああ」

何か深い理由がありそうだけれども、その内容をしりたいわけでもないから。
まあいいか、とうなずく。

「安室、さん、ですね」

あむろさん、あむろさん、その言葉を口の中で転がしてなじませる。

「すまない」

ぽつり響いた声。
私じゃないなら彼なわけで

「安室さん、謝ってばかりですねぇ。謝罪の言葉より、感謝の言葉の方が私は好きです」

照れくさくて彼をみないで伝えれば、ふわり、空気は和らいで。

「___ありがとう」

「どういたしまして?」

彼の言葉に笑って答えた。







大事をとって今日は大学は休むことにした。
私の言葉に降谷さん___安室さんはうなずいてくれて。
このままお昼ご飯をどこかで食べよう、と話は落ち着いた。

、苦手な食べ物はあるか?」

運転する安室さんを本当にきれいな顔だなぁ、とぼおっと眺めていれば問われて。
少しだけ、考える。

「食べれないモノは、ないんですけど___」

言いよどむ私に対して無言の圧力が向けられる。

「___魚はあまり好んでは食べないですねぇ」

私の返事に彼は少し考えるように宙を眺めて、そして一つうなずいた。

「じゃあ魚介類がおいしいお店に食べにいくか」

「安室さん、私の話聞いてた?」

そう言って連れていかれた先のご飯はびっくりするくらいおいしかったです。











・・・・・・」

「大学生の1人暮らしの冷蔵庫をみてそんな残念そうな声上げないでくださいよ」

家に帰ってきた安室さんは私の部屋に一緒に入ってきて、台所にしゃがみ込むとかぱりと冷蔵庫のドアを開けた。
口を挟む暇もないほどの早業だった。
そのままぐるり、彼の後ろにたっていた私を見上げて残念そうな声をくれた。
卵とウィンナーと牛乳と、チューハイ。
チューハイだけじゃないことを誉めてほしいくらいだ。
というか大学生の冷蔵庫になにを求めているんだろうかこの人。

「自炊はしないのか?」

「私にはコンビニエンスストアっていう専用のシェフがいるんですよ」

「不特定多数に料理を振りまく専用シェフか」

「下手に私が作るよりずっとおいしいんですもん」

「まあ否定はしないな。俺もよく世話になる。地味においしい」

「でしょう?」

降谷さんからの同意を得て、どうだ、とばかりに胸を張る。
___降谷さんにもご飯を作ってくれるような、そんな相手はいないのだと、気づいて少しだけ、こう、胸がふわっとした、とか気のせいにしておく。

「だがまあ万人向けのシェフは一人一人にあった健康のことは考えてはくれないからな」

それはそうだ。
万人においしいと思われるものは、結局のところ体によいかとは別なわけで。

「___だから、この一週間は朝昼晩、全て作ってやる」

「え、降谷さん料理できるんですか?」

「1人暮らし歴はより長い」

「何でその顔で未だに独り身なんです?ご飯作ってくれそうな彼女くらいすぐ捕まえられるでしょうに」

私の言葉に降谷さんは苦いモノを噛み潰したかのような微妙な表情を浮かべた。

「必要性を感じなかったんだ・・・・・・」

その言葉の意味をすぐに知ることになる。



「むちゃくちゃおいしいです・・・・・・」

目の前に並べられた料理。
こう、見た目的にはお洒落なイタリアンとか出してきてくれそうな降谷さんが出してくれたのは、大皿に乗った肉じゃがに茸の炊き込みご飯、白和えにお出汁のきいたわかめのお味噌汁

手際よく作られたそれらはまさかの純和風だった。
しかも、とても、おいしい。

これは確かに彼女とかいらないだろうなぁ・・・・・・
だって自分で作ったほうがおいしいってなるに決まってるし、彼女よりも料理うまい、ってなったら、こう、いたたまれなさそう。

「口にあったなら、よかった」

満更でもなさそうに降谷さんも肉じゃがを口に運んでいる。

イケメンで、車の運転もうまくて、機転も利いて、経済力もあって、さらには料理も上手とか

ハイスペックイケメンって本当にいるんだなぁ・・・・・・


もぐもぐと炊き込みご飯を口に運びながらそんなことを思った。





食べ終わった後の食器を運ぶのも、洗うのも、あれよあれよと降谷さんの手によって行われていて。

「頼むから、じっとしててくれ」

そう言われれば動くわけにも行かないわけで。
そんなに大したことはないというのに、降谷さんに懇願されるように言われれば、NOなんて応えられず。

食後のデザートまでしっかり完食してしまった。

おいしかった。


、風呂に入ってこい」

いつの間にかわかされたお湯。
確かに暖まりたいとは思っていたけれども、さすがに親しくはない男性がいるこの場所で風呂に入るわけにはいかないんじゃないだろうか。
私の微妙な顔を見て、降谷さんは再度口を開いた。

「今更だろう?」

いやまあそうなんだけど。
なんかこの人、どんどん私への対応雑になってないかな?

「___夜寝る前の傷の手当は、させてほしい」

先ほどまでの積極性はどこにいったのか。
ぽつり、こぼされたその言葉が本当だと疑うことすらできない。
ああもう、断れるはずなんかない。




ほかほかした体で彼の前に向かえば、綺麗な瞳が私を写して___細められた。

「髪、乾かしてこい」

「基本タオルドライなんで」

「・・・・・・ドライヤーは?」

「まあ一応あるんですけどね」

無言で手を差し出された。
そっとその手に自分の手を乗せてみれば、じとりとした瞳が返ってきて。

「ドライヤー」

ですよね、知ってた。

大人しく持ってきたドライヤーは降谷さんの手にわたって。
べしべしと彼の前を叩かれて。
座ってみればうるさい音と共に髪に向けられる温風。

わー・・・・・・きもちいい・・・・・・?

「ふ、降谷さん、ちょっと、ちょっといたい」

ぐわしぐわしと結構な力で頭を振り回されるから、気持ちいいというより、ただただ痛い。
ドライヤーの音で私の声が聞こえないのか、降谷さんがやめてくれそうな気配はなく。

「もしもーし、降谷さぁん!!ちょっといたい!」

声を張り上げてみれば、はっ、とこちらに気がついてくれて。

「、わるい」

気まずそうに眼をそらされた。
この人は自信満々なところもあるくせに、自分のミスには敏感なようで。

手を伸ばして色素の薄いその髪に触れる。
びくり、一度からだをふるわせた降谷さんは、それでも逃げることはなく。
なにこの髪めっちゃ手触りいい。
さらさら。
ゆるり、その髪に触れて、一度、二度、撫でる。

「降谷さんが思ってるより、私か弱いんです」

戸惑う瞳、それをまっすぐに見つめ帰して笑う。

「だから、にゃんこを撫でるように優しくしてください」

私の言葉に、彼は瞳を瞬かせて、そして柔らかく眇めた。

「善処しよう」

再度触れてきた掌はぎこちないながらも、とても優しいものだった。

















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