ドリーム小説











カウントダウン 6





腕に湿布と包帯を巻いて、おやすみなさいの挨拶をして、降谷さんは上の部屋に戻っていった___
はずなのに。


「おはよう」


なんでこの人ここにいるの

シャッとカーテンを引く音。
同時に入ってくるまぶしい光。
それから逃れようと布団に潜り込もうとすれば、ぺいっと引き離されて

仕方なく体を起こせば朝の光をきらきらと反射させながらたっている降谷さん。
朝から隙のないイケメンで。

いや、だからなんで朝からこの人部屋に入ってんだろう
そう思いながらも回らぬ頭は、まあいいか、と落ち着いていく。

「朝ご飯にサンドイッチ作ったから、さっさと身支度を整えろ」

そういいながら降谷さんはキッチンの方へと向かっていく。
その後ろ姿を眺めていれば、微かにおいしそうなにおいが漂ってきて。
本能に忠実な体はあっさりと布団から離れることを決断した。

サンドイッチ一つでもおいしい。
この人、できないことないんだろうか。

今日は夕方まで大学といっていただろ?」

昨日の夜一週間の予定を伝えたため、今日の予定もばっちりだ。

「ほら、弁当」

大学に入り1人暮らしを初めて3年。
初めてお弁当というものを手に持った。



いつもは自転車で走る道を彼の高級感あふれる車に乗せられて。

「夕方も迎えにくる」

そんな言葉と共に放り出された大学にて。

「昨日の一昨日電話でれなくて悪かった、!」

ぱん、と目の前で両手をあわせて謝る友人の姿。
思い起こす一昨日の夜。
そういえば、HELPコールをかけた相手は彼だったか
たまたま履歴の一番上にかけたのだけれども、まさかちょうどいい相手だった。

「何のようだった?」

へらり、笑いながら、下手に聞いてくる工藤君。
高校生探偵、と名を馳せた彼は今では大学生活の傍ら、立派に探偵業をこなしていて、非常に多忙である。
そんな彼がすぐ捕まらないのも当然なわけで。
おそらくまた何かの事件を追っかけていたのだろう。

ちょうどいいところにある彼の額に一つデコピンを与えて。

「工藤くんって、なんていうか、こう、間が悪いよねぇ」

「突然の悪口だな!」

貶めるつもりはなかったけれど、感想を一つ。

「んんー見知らぬ人が部屋に入ってきて、どうしようかなぁって思って電話したんだけどねぇ」

用事の内容をかいつまんで伝えれば、瞬時に真剣な顔になる工藤君。

「どういうことだ?___その腕の包帯に関係があるのか?」

服で隠れて見えないはずなのに、めざとく気づくなぁ。

「まぁ、ある意味丸く、収まった、のかなぁ?」

聞いてくる彼に事細かに返事していけばあきれた顔を向けられた。

、電話にでれなかった俺が言うのはどうかと思うけどな___もう少し危機感を持った方がいいんじゃないか?」

「え、でもいい人だよ、降___安室さん」

「___安室、さん?」

私が呼んだ彼の人の名前。
それに対し、工藤君の顔色が変わった。

「うん?」

「___外見って、すごくイケメンだったり?」

「うん、綺麗な髪と、褐色の肌で料理上手」

私の返事に工藤君はうなだれて

「・・・・・・なにしてんだあの人」

「知り合い?」

「ちょっとな」

工藤君って本当顔広いよねぇ、と思いながらふと浮かんだ疑問を口にする。

「___一応確認したいんだけど、いい人だよね?」

「すげえ今更じゃねえかそれ」

あきれた声、でもなんか最近よく聞く類のモノだから慣れてきた。

「まぁ、大丈夫だ」

ぽん、と頭に手を置かれて一度、二度、撫でられた。
自分よりも大きくて温かい手に思わず眼を細める。

と、

!お昼食べるわよー!」

遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。
そちらをみれば、ショートカットの元気いっぱいの女性が走ってきていて。
その後ろ微かに笑いながらゆっくりと黒髪ロングの女性も見える。

「鈴木さん、毛利さん」

「だから名前で呼んでって言ってるのに!」

すぐ近くまできた二人を呼べば、鈴木さんは怒ったようにそう言ってきて。
でも実際に怒っているわけじゃないって、わかるほどにはつきあってきた。

「なんか呼びにくくて」

そう返事すればしかたがないわね、って言ってくれるのを知ってるから。

「あれ、お弁当なの?珍しいわね」

鈴木さんの言葉にうなずきながら弁当箱を、あけ、た

、なにこれ!」

「すごくおいしそうだね」

「おおおおおおいしそう!」

両側からのぞき込んできた女の子二人と一緒に感嘆の声を上げる。
綺麗にまかれた卵焼き
鮮やかな緑のアスパラは艶やかなお肉を引き立てて
茄子のお浸しに、ノリの巻かれたおにぎり。
彩りよくかつバランスよく並べられたそのお弁当は感嘆の一言に過ぎる

「まさか、自分で作ったとかないよね?」

「私にそんな能力があると?」

「思ってないわよもちろん」

まあ答えは分かってたけどな!

「作ったのってまさか……」

工藤くんににっこりと笑って見せれば乾いた笑みが帰ってきた。

「あの人本当になんでもできるな」

そうだね、工藤君。
それには私も同意する。










本日の講義を終えて、いつもであればバイト先に直行するのだけれど。
迎えにくる、と言われているの向かうこともできず。
バイトまで時間の余裕はあるのだけれど、微妙に心配性な彼がバイトを許してくれるのだろうか、とぼんやりと考えて。
私に付き合うように、工藤君たちも庭のベンチでまったりと時間をつぶしていた。

「あ、本当にお迎えだ」

「え?」

「あー・・・・・・やっぱり本人だった」

ざわりと空気が揺れたので、皆が視線を向ける方へたどっていけば、こちらに向かって歩いてくるイケメン。
基、安室さん。

すらりと伸びた足がまっすぐにこちらに向かってくる様子は、なんというか、こう、優越感みたいなの感じたり?

さん」

___さん、づけ?

ちょっとした違和感を感じながらも返事をしようと立ち上がれば___

「きゃー!安室さん?!」

「わー!お久しぶりですー!」

私よりも早く立ち上がった女の子二人。
それはどう聞いても知り合いに出会ったときの反応なわけで

「お久しぶりですね、蘭さん、園子さん」

にっこりと笑顔で言葉を返す、安室さん・・・・・・だれこれ
え、待って私の知ってる降谷さんじゃないんだけど?
思わず後ろにいた工藤君をみる。
あ、眼そらされた。

「___それと、新一君も」

ゆらり、安室さんの視線がくるり、回って工藤君にむけられる。
そうすれば彼はへらり笑って。

「お久しぶりです、安室さん。お元気そうで何よりです」

「君もね」

突如始まった再会を喜び合う会みたいなのについていけずぽけぇ、と1人それを眺めて

「どうしてここに?」

「探偵のお仕事ですか?」

きゃっきゃとはしゃぐ二人はかわいい。

「今日はさんを迎えに」

するり、綺麗な瞳が私に向けられる。
宝石みたいなそれに一瞬、息が止まりそうになった。

、安室さんと知り合いだったの?」

鈴木さんの言葉にへらりと笑う。

「私からすると、皆が知り合いなんだびっくり、状態なんだけどねぇ」

さりげなく横にきた安室さんがさらりと私の背中に手を当てた。
___昨日とは違ってとても優しい力で、スムーズに誘導してくれて。

「これからバイト、でしょう?」

昨日予定を伝えたときには、バイトの話をしていなかったから、彼の口からそれが出てきたことに驚く

「安室さん、行っちゃダメですか・・・・・・?」

黙っていたことに何か言われるかな、とそぉっと聞けば、にっこり、笑顔

「もちろん、僕が代わりに入りますよ」

なんですと?





「え!?安室さん?!」

からり
音を立てて入った店内。
毛利探偵事務所の下にあるその喫茶店が私のバイト先なわけで。
中に入った瞬間バイト先の先輩である梓さんが私をみて___安室さんをみて、叫んだ。

え、ここでも知り合い?

「お久しぶりです、梓さん」

炸裂する安室さんスマイル。
昨日一日で降谷さんの笑い方に慣れた私には少々荷が重い。
思わず一緒について来てくれた工藤君を見上げる。
浮かんでいるのは苦笑。
ねえそれどういう感情?
ちなみに鈴木さんと毛利さんは予定があるという事で一緒にくるのを断念している。

___明日根ほり葉ほり聞かれそうですごく怖い。

ちゃん、怪我したの?2、3日くらい休んでもらっても大丈夫よ?」

安室さんが話を通してくれたのか、梓さんから向けられるのは心配そうな表情。
別にそんなに大きな怪我とかではないから、バイトくらいふつうにできる___

「ダメです」

応える前に安室さん本人によってストップが出てしまった。

「安室さん・・・・・・」

「言ったでしょう?その怪我は僕が原因なんです___贖罪の機会をください、と」

そっと掌をとられて。
そのまま包帯が巻かれたままの腕に触れられる。

「僕の安心のために、じっとしててくれませんか?」

イケメンに至近距離で、じぃっと見つめられて、平常心でいられるような免疫などもっていない。
思わず目をそらしてうなずいてしまった。

「以前ポアロでバイトしてたんだよ、安室さん」

工藤君と二人テーブル席に座って、びっくりするほど手際の良い安室さんを眺めていれば、工藤君からの言葉。
ならば、納得。

「安室さんってなにしてる人なの」

「むしろ知らないままで来ていることにびっくりだな」

私のつぶやきを、工藤君はいちいち拾ってくれる。

「あー・・・・・・俺が知ってる範囲ではアルバイト兼探偵だったかな」

「その二つは両立が許されるんだ・・・・・・」

テキパキと動く安室さんと梓さん。
梓さんも綺麗な人なので眼福だ
と、

さん、工藤君、お待たせしました」

ことり、目の前に置かれたのはサンドイッチ。
差し出してきたのは褐色の肌の安室さん。

「どうぞ、お召し上がりください」

特に注文もしていないけれど、ここポアロのサンドイッチは絶品なので遠慮なく手に取る。
ぱくり、口に入れた、ら、え、なにこれ、おいしい。
私もいつも教えられたレシピ通りに作っててるけどこんなにおいしくできない。

さらに言えば、朝食べたサンドイッチとはまた味が全然違う。

「久しぶりに本場の味、だな」

同じように口に運んでいた工藤君の言葉にサンドイッチに釘付けだった顔を上げる。

ちゃん、知らなかったっけ?このサンドイッチのレシピ、安室さんのなのよ」

きょとんとした顔をしている私に気づいたのか、梓さんがにこにこと笑いながら教えてくれた。
そのまま安室さんへと視線を向ければ、微かに笑いながら人差し指を口の前にたてて、秘密、のポーズ。

うわぁ、様になってる・・・・・・

「僕の働きっぷりはどうですか?しばらく、このバイトを任せてもらえますか?」

「むしろ私より役に立ってますよね、安室さん・・・・・・」

そう応えた私に安室さんは満足そうに笑った








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