ドリーム小説







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俺の体を安心しきった表情で抱きしめて眠る

頬にふれてみるけれど、起きる気配はなく。
さらに幸せそうに頬をゆるめるだけで。

体を休める名目で始めた彼女の専業主夫

それがまさか、こんな結果になるとは。
1週間前の自分にいいたい。

降谷零、この子を、を甘くみるから___とんでもない結果になったぞ、と。







はじめは、ただ放っておくわけにはいかないと、そう思っただけだった

見知らぬ男に進入され押し倒されて怪我をさせられた、というのに、へらりと馬鹿みたいに笑う彼女を、放っておけないと、そう思っただけで。

緊張を見せたのははじめだけ。
打ち解けるのは早く、常に笑顔を浮かべるようになった。

車に乗っただけではしゃぐ姿は子供で。
それでも、人を気遣えるほどには大人で

作った食事を美味しそうに食べる姿。
頬を膨らませて、もぐもぐと租借する姿は小動物のように可愛く思えて。
ペットを飼ったらこんな感じなのかな、とぼんやりと考えた。

俺の言葉に、すぐに消えた警戒心。
風呂に入れ、そう促した俺にも大した抵抗もなくうなずく。

包帯を巻く度に感じるその細さ。
弱い、俺が庇護すべき存在だと、知らしめるように。

夜に一度家に帰って、そうして次の日の朝、彼女の家に。
なぜ部屋にいるのか、不思議そうな顔をしていたけれど、どうでもいいか、と言うところについたようで。
警戒心のなさは問題だが、それが俺に対して心を開いている証明なのであれば、いいか、とも思った。

疑う、という行為をまるで知らないように振る舞うのは時にその年齢よりも幼く見える。
彼女のためにお弁当を作り、彼女を乗せて大学へ送る。
今までの生活の中では考えられないほどに柔らかな時間。

ぽかりとあいた空間に、空気のように入り込んでいく

食に興味があまりなさそうな彼女に何を食べさせようか。
考えるその時間すら、楽しいと感じる自分がいた。

迎えに行った先、見つけたのは組織崩壊の功労者の彼。
そして俺が弟子として入り込んでいた毛利探偵の娘に鈴木財閥の令嬢。

から話を聞いたのか、微妙な表情で俺をみて苦笑いしながらも久方ぶりの再会を喜んだ。

あのころよりもずっと大人びて綺麗になった女性二人に笑いかければ、彼女らは懐かしいと声をかけてきてくれて。

そのそばで知り合いだったことに、ぽかんとする
そんな彼女を誘導して車に乗せて。

向かうのは彼女のバイト先。

そこでも再会の言葉を掛け合い、怪我をしたの代わりにバイトをすることを申し入れれば快く受け入れてくれて。
久しぶりに作った”安室透”のサンドイッチ。

朝とは違う味に、彼女は眼を瞬かせながら、それでも美味しいと笑ってくれて。


両方の味を美味しいと、笑った彼女に

何も知らないはずの彼女に、降谷零を、安室透を、両方を、認められたような気がした。


彼女を起こす朝に違和感を感じなくなってきた3日目。
眠たげな彼女に朝ご飯を用意して、昼からのポアロのバイトに向けて掃除や洗濯を行う。

もう痛くないから、とバイトをしようとする彼女を言いくるめてエプロンをつける。
2、3日で痛みはなくなるということは知っていたけれど、もう少し甘やかしてみたくて。
___否、俺が、この暖かな時間に甘やかされたくて。

「同じマンションで、手違いで怪我しちゃった私を助けてくれる優しい人だよ」

「違いますよ。僕の不注意で怪我をさせてしまったさんのお世話を僕が申し出ているんです」

そこはかとなく事実を隠すの言葉を補足すればあがる叫び声。

「腕をねー少しひねっちゃったんだよねぇ」

「押し倒しちゃいました」

あえて、誤解するであろう言い方をすれば、途端大興奮する彼女たち
焦るに笑ってみせれば、むすりとした表情を返された。

からり、音と共に開かれたドア。
姿を見せたのは”コナン君”の友人たちで。
あの頃小さかった小学生はこの数年で成長を見せて。
”コナン君”がいない中でも探偵団として名を馳せている、と話してくれた。

後ろのテーブル、女子大生4人の会話がかすかに聞こえてきて、一瞬息を詰めた。

「だめだよ、安室さんはわたしが近づきすぎちゃ、いけない人」

聞き耳を立てながらも、安室透である俺はにこにこと笑ってみせて。

「足枷にしかなれないわたしが、邪魔しちゃだめなんだよ」

何も知らないはずの彼女が、何も知る術を持たない彼女が、全てをわかったように、諦めたようにつぶやくのが___聞いていられなくなって。

さん、おかわりいりますか?」
「お願いしてもいいですか?」

そんな言葉で遮った。





晩ご飯を買いにスーパーに寄る。
カゴを持つ俺の周りをちょろちょろと動き回る彼女を邪魔だと思うことはなく。
一つ聞けばいろんな返事をくれる彼女との場所に居心地のよさを味わっていたことを、俺は認めざるを得なかった。

お酒を飲むのは好きか。
その質問はいささか難しいもののように思えた

かつては、___友と飲み明かす夜は楽しかったように思えたが___今は、共に飲み交わす相手もおらず。
潜入中も飲むときは仕事の一環でしかなく。
だからこそ、と共にこたつに入って鍋をつついて___そしてお酒を飲むその行為を、好ましいと思う自分がいることに、どうしようもない焦燥感を覚えて。

アルコールに飲まれることなど、ここ何年も体験していなかったというのに。
暖かな空間で、彼女のそばで、あっさりと朝を迎えてしまって。

彼女が作った朝ご飯をなんの抵抗もなく口に運んだ瞬間、気づいた。

完璧に彼女に気を許してしまっている自分に。



それを、だめだとは思っても、嫌だとは思わない自分に。

  

もだもだとしたこの感情を抱え続けている俺をそっちのけで、今日に限って彼女は帰ってくるのが遅く。
告げられていた時間に迎えに行っても姿は見えず。
連絡をすれども返事がくることはなく。

じわり

わき上がるのは、焦り。

今まで関わった事柄、全てが彼女の危険につながるかもしれない可能性。
それを、忘れていたわけじゃない。

忘れる事なんてできない。

日溜まりにつかりすぎたのは確かで。

いつの間にか集まってきていた女性陣たち。
それを持ち前の笑顔でかわしながら再度かけた電話。

俺の心配をよそに___彼女は相変わらずへらり、笑って現れた。

心配した、その言葉に彼女はみてわかるほど落ち込んだ表情でごめんなさい、と答えて。

自分がどんどん解されて行っているのが、わかった。






大学に彼女を迎えに行ったというのに。
どうして、この男に会わなければいけないのか。
否、なぜがこいつと会っているのか。

女子大生が好みそうなお洒落なカフェ。
その中、窓際の席で異色を放つ1人の男。
全体的に黒い格好。
黒いニット帽、その向かいに座る、の姿。

気がつけばその窓ガラスを叩いていた。

目を瞬かせるとまったく動じずに俺をみてくる赤井と。

何を話している
何をしている

なぜ、お前が、と共にいる!

溢れる感情は、未だに___
あのときからどれほど時が流れても、消えることはない。


逃げるように連れ帰り、無言のまま進める晩ご飯の準備。
うろうろと俺の周りを伺うように動き回るすら、今は苛立ちの一環で。

「___あいつと___赤井と何の話をしていたんだ」

俺の言葉にはふらりと視線をさまよわせた。
俺に言えないような話を、あいつとしていたのか。

じとり、浮かぶのはほの暗い感情。

ああ、だめだ。

このままじゃ俺はこの子を傷つけずにはいられない。

「晩御飯、作ったので一人でどうぞ。もう包帯もいらないでしょう」

突き放すような物言いになった。
これで、彼女が俺に愛想を尽かしてくれたなら、それはそれであきらめがつく。

「約束しましたので、僕の休みが終わるまではご飯を作りに来ますが___いらなかったらどうぞそういってください」

いらないと、切り捨ててくれたならば、もうこんな感情にならなくてもすむだろうに。
意識して変えた、安室透の口調。

「それじゃ、僕は自分の部屋に戻りますから」

そういって、俺は彼女の前から逃げようと____した、のに。
服を引かれる感覚。

引き留められる期待感と、引き留められてしまう恐怖と。

「なんですか」

発した言葉はひどく堅いもののように思えた。

「好きです、って話を」

好き、という言葉がから発せられて、じとりとした感情がまた広がった。
あのときポアロで俺との関係は望まないと、答えたというのに?

何がの意志を変えた?
否___赤井が、お前の意志を変えた。

「安室さん___降谷零さんが、好きですっていう、話を___」

そうであってほしいと願って、そうであってはいけないと戒めたその関係。

「僕の顔に惹かれましたか?」

ひどいことを言っている自覚はある。
それでも、今、切り捨てなければ、俺は、俺は___

柔らかな手のひらが、俺の頬を包み込んだ。

「全部、すき」

至近距離、映る俺の顔

「私を傷つけたことに深く後悔するあなたも

私をこれ以上傷つけないように、気を使うあなたも

朝寝坊するくらい私に気を許してくれたあなたも

あなたが送りだしてくれる表情も、声も

私を迎え入れてくれる表情も、笑顔も

私を甘やかしてくれるその腕を

私のために美味しいものを作ってくれるその掌が

私に触れてくれる、あなたがぜんぶ

にこにこ笑う安室透さんも

微かに笑う降谷零さんも

安室透さんが作る美味なサンドイッチも

降谷零さんが作る大味なサンドイッチも

安室透さんと過ごした柔らかな時間も

降谷零さんと過ごした穏やかな時間も

私に向けてくれる感情全てが

あなたがくれた時間すべてが

あなたがいるというだけで今のこの時間さえも、好きだって思わせてくれたあなたが___

ぜんぶ、すき」

まっすぐに、俺の目を見て、はいった。

「ぜんぶ、好きですよ、降谷零さん」

だめだ、このまぶしい存在は、だめだ

とん、と弱々しい力で肩を押す。

小さな背、細いからだ、俺よりもずっとずっと小さな存在。

「やめてくれ、俺は、君に想われるような、綺麗な存在じゃない」

手のひらで顔を覆う。
俺のこの手は、赤く、染まりきっているこの手は

「俺は___僕は、君には釣り合わない」



君にのばすわけにはいかないんだ












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