ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-23









「怪我は?」

イオンとシンクを迎えにダアトにたどり着いて。
導師の部屋をノックした瞬間
音もなく現れたシンクが私の前で発した第一声が、それだった。
見下ろされながら、ぺたぺたと体に触れてくるシンク。
むすりとした表情は心配していると如実に表していて。

「大丈夫だよ、ありがとうシンク」

笑って告げれば、ようやっと彼の表情は和らいだ。
そっと腕を伸ばして柔らかな髪に触れて___
シンクもそれを受け入れるように少しだけ身を屈めて___

「そこまでです」

無粋な声によってそれは叶わなかった。
べり、と引き離されたとおもえば、後ろにぬくもり。
ゆるり、見上げればにこにこと笑うジェイドさんの顔。

「・・・まさか、」

シンクの震える声。
彼の顔は驚愕に染まっている。
ジェイドさんは笑顔をやめない。

「今まではまあ、仕方がないので放っておきましたけれど」

ぐ、と体が温もりに包まれて、耳元で、響く、声。

「嫉妬深い方ですので、あまり気安く私のものに触れないでくださいね」

びしり固まったシンク。
にこにこと笑顔を浮かべるイオン。
挙動不審に視線を逸らすルーク。
顔を赤く染めるティア。
楽しそうに笑うアニス。
困ったように笑うガイ。
瞳をきらきらさせるお姫様。
なんというか、もっと音便に知らせたかった。
一気に騒がしくなった導師の部屋の窓から、遠い空を見つめた。



「いつのまにそういうことになってたの?!」

おかしい。
なんで私は3人のかわいい女の子に詰め寄られているのだろうか。
ユリアシティへ向かうアルビオールの中。
きらきらとした三対の瞳が私に向けられていて。
お嬢さんたち、あまりの熱視線に私は溶けそうです。

「いつのまに、というか、成り行きというか・・・?」

ほう、とうっとりとした表情で頬に手をやるお姫様。

「でも、確かにジェイドもあなたのことを好いていましたものね」

「・・・え?」

鈍いと思っていたお姫様からもたらされた言葉に、思わず変な言葉が漏れた。
あら、とばかりに彼女は微笑む。

「両想い、でしょう??」

それは確かなんだけれども。

「・・・いつから、ジェイドさん、私のこと・・・?」

想っていてくれたのか。

「え、結構前からだよね」

私の問いに答えたのは、アニス。
簡単に返された言葉に、息が詰まる。

「というか、ようやっと、って感じだよねー!」

にたにた、という表現がとてもよく似合うアニスの笑顔。
もう楽しくて楽しくて仕方がない、とばかりに。

「ねえねえ、どっちから、どっちから言ったの??」

べしべしと背中をたたかれる。
助けて、とばかりにティアをみたけれど、彼女もわくわくとした表情を浮かべていて。

「な、なんて言われたの??」

ああ、だめだ、これは話すまで絶対離してもらえない。
あきらめの思いで扉に目をやった、その瞬間。
控えめなノックの音。

「あら、どなたかしら」

「もー、いいとこなのに!」

「・・・ガイ?」

お姫様が首を傾げて、アニスが頬を膨らませて。
そして扉を開けたティアの向こう。
見えたのは金色の髪。

「ええと、申し訳ないんだけど、・・・を借りても??」

拒否の言葉を発そうとしたアニスを遮って、扉へ向かう。

「わ、忘れてた!!ガイと薬のことで話をする予定で!」

無理矢理ひねりだした理由を投げ捨てて、扉の向こう、ガイの元へ。
くるり、部屋の中に視線をやってひらりと手を振る。

「ガイ行こう!」

握った手がかすかに震えたけれど、それよりこの場所から逃げる方が重要だった。



別の部屋に入って一息ついて。
そうして気づく。
つかんだ手の、持ち主の、蒼白な顔に。

「あ、ごめん、ガイ」

そういえば、この人は女性恐怖症だった。



ほっとしたような表情を浮かべて、ガイは私を呼んだ。
するり、
頬にふれないぎりぎりのところに、彼の手のひらは設置されて。
かすかにほんのかすかに温もりを感じる。

「おめでとう」

穏やかな声でもたらされたのは、祝福の言葉。
きれいな瞳にも、柔らかな色があって。

「あ、りがとう」

あの日、ホットココアと共に飲み下したこの人の想い。
私に向けられた熱。
それも全部ひっくるめて、私の後押しになった。

「ジェイドが嫌になったらいつでも俺のところにおいで?」

いたずらそうな色を瞳に浮かべて。

ならいつだって大歓迎だ」

そういって微笑むガイはびっくりするくらい格好よかった。













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