ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-27
いつの間にか暮れだした空の下。
「さて、どこか行きたいところはありますか?」
先ほどとは違う大きな手。
その温もりを感じていれば、尋ねられた。
「___ジェイドさんと一緒なら、どこでも」
その言葉に彼はぴたり、動きを止めて。
困ったように見下ろしてきた。
「___あまり可愛いことを言わないでください」
_可愛い_
その形容しなれない単語にぶわり、顔に熱が上がる。
そんな私をみてくつり、ジェイドさんは笑って。
「では、」
耳元でそっとささやかれた。
「二人きりになれるところにでも行きましょうか」
「わあ___」
見上げた先、満天の星空。
感嘆の声を上げた私を、ジェイドさんは楽しそうに眺めていて。
ケセドニアの街から少しだけ歩いたところに、そのオアシスはあった。
歩いているうちに暮れた空の下。
真っ暗な世界の中、輝く星は世界に明かりを灯すようで。
いつからか、星を見上げることすらしなくなっていたことに、今ようやっと気づいて。
「気に入っていただけましたか?」
ジェイドさんの声に無言でうなずく。
「___気に入ってくださるのはうれしいですが」
言葉と同時、頭をつかまれて
「ちゃんと私もみてくださいね」
ぐるり、視界はジェイドさんでいっぱいになる。
ジェイドさんの膝の上に頭を乗っけて。
いわく、膝枕の状態だ。
私がジェイドさんを、ではなく。
ジェイドさんが私を、だが。
「___ジェイドさん、きれい」
満天の星をバックに、色をたゆらせるジェイドさんの姿は美しくて。
「___ずっと言おうと思っていたのですが・・・」
するり、頬をなでられて。
こそばさに身をよじる。
「ジェイドさ、」
ぴたり、唇に当てられた人差し指。
それによって言葉はとまる。
「私の名前はジェイドさん、ではありませんよ」
まっすぐな瞳。
「ルークやガイは早々に呼び捨てにしているのに」
どことなくすねたような口調。
「いつまで私はその呼び方なんですか?」
つ、ときれいな指が私の唇をなぞる。
ぞくり、泡立つ背をごまかすように視線を揺らす。
「ほら、はやく呼びなさい」
ゆるり、つめられていく距離。
先ほどまできれい、としか感じなかったのに。
熱が上がった瞬間、そんなことすら思えなくなって。
「じぇ、いど」
からからに乾いた唇で、
なぞる、名前。
瞬時、奪われる呼吸。
わけあうようにすり寄せられる唇は、思った以上に冷えていたようで。
「、は、」
そっと離れた先、満足そうな彼の顔。
「これで、許してあげましょう」
くらくらする世界の中、彼の言葉を待つ。
「すべて終わった後、あなたが彼らと家を持つことを」
ああ、聞かれていたのか、とぼんやりと思う。
「私にも優先する存在がある」
金と蒼の王様。
この人がただ一人忠誠を誓う、その相手。
「だから、許してあげましょう。彼らを優先することを」
さらり、髪をなでられて。
ゆるり、それを口元に持って行かれる。
「その後、私と一緒になると誓うならば」
しこうが、とまった。
楽しそうなジェイドさんの瞳。
くるくると、もてあそばれる髪。
ぶわり、上がる熱。
それすら楽しそうに彼は笑う。
「言ったでしょう?これから先、あなたと共にありたいと」
ぐ、と距離が積められて
「もちろん、すべてが終わった後でも」
そして、混乱する思考は、再び降ってきた熱に絡め取られた。
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