ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-28
「みんな、必ず俺たちの世界を守るぞ」
あのころとは違う。
自分の意志で。
自分の足で。
彼はこの場所に立っていて
紅色を風に揺らしながら、ルークはまっすぐに言葉を紡いだ。
「うわっ!」
「え、」
突如ぽっかりと開いた足下の穴。
持ち前の逃げ足が発揮されることはなく。
ぐらり、もたらされる浮遊感にさあっ、と血の気が引いた。
「!!」
そのまま地面にたたきつけられるかと思った体は柔らかな温もりと軽い衝撃に包まれて。
おそるおそる目を開ければ、間近にシンクの顔。
ゆっくりと見渡せばルークはべしゃりと地面の上で潰れていて。
そして、もう一つ、きれいな、紅。
「アッシュ!?」
ルークの呼ぶ声に、扉をにらみつけていた彼は振り向いて。
私たち3人をみて嫌そうに表情をゆがめた。
「なに、アッシュ。あんなのに引っかかったの?」
「お前こそ落ちてるじゃねえか。」
「僕は落ちたんじゃないよ。が落ちたから降りたんだよ」
元、六神将同士、思うところがあるのだろう。
何ともいえない表情をしながら言葉を交わす。
そんなアッシュの視線が、私を通過して、ルークに流れる。
「___ファブレ家の遺伝子は相当間抜けなようだな」
ルークをきつく睨みつけてアッシュは言った。
「・・・そんな言い方するなよ!」
よく似た二人の言い合いは、まるで鏡を見ているよう。
「、怪我は?」
二人をみていれば、我関せず、とばかりにシンクが問いかけてきた。
「シンクのおかげで大丈夫だよ、ありがとう」
私の言葉に彼は満足そうにうなずいて。
「この戦いが終わるまでは、僕はを守る武器だからね」
今までとは違う、すっきりとした顔で、シンクは言った。
「行くぞ!劣化レプリカ!!」
突如響いた声。
剣同士が重なる鋭い音。
手と手に刃をもった二人が、交互に術を繰り出して。
「まったく・・・」
あきれたようなシンクの声。
イオンを弟と認めたシンクからすると、この戦いは馬鹿馬鹿しいものなでしかなくて。
「」
端っこの方に座り込んだシンクが横をたたいたのでおとなしくそばに行って座った。
「危なくなったら止めてね」
「面倒」
それでも、この子は私の意見を尊重してくれるって、知ってる。
どれくらい続いたのだろうか。
激しい音を立てて、アッシュが持っていた剣が弾きとばされた。
二人して肩を揺らして。
そして、
アッシュがあきらめたように、小さく笑った。
扉を開ける譜陣に力をそそぎ込んだアッシュ。
さっさといけ、と言い捨てて、こちらにも目を向けてきたから。
シンクがさ、っと立ち上がりアッシュをその場所から蹴り退けた。
「何しやがるシンク!」
「僕が残るから、さっさと行ってよ」
ひらひらと手を振るシンクのそばに立つ。
「私とシンクは大丈夫だから」
「・・・も行きなよ」
ひらひらと手を振ってルーク達を送ればシンクのジトリとした目。
さらりと笑顔で流す。
「「俺がっ、」」
ルークとアッシュ、同時に発した言葉は互いによって遮られて、二人顔を見合わせてアッシュだけがそっぽをむいた。
「___先がないんだ、俺には!」
はき捨てるような言葉。
それにルークが驚いたように反応して。
「だから、だから俺がっ」
がらん
大きな音を立てて、アッシュに投げられた仮面は地面に落ちた。
「の薬が、信じられないとでも?」
顔面でそれを受け止めたアッシュは痛みでうずくまり、シンクは瞳を怒りで満たす。
「が作り出した薬は、あんたを僕らを生かすため」
静かに広がるシンクの声。
それは、心臓に響いて。
放り投げられた仮面を手に取りシンクのそばへ
「それを飲んでおきながら死ぬなんて、許さないよ」
言い放つ、シンクの瞳を、背伸びをしてそっとふさぐ。
途端、四散する怒りの気配。
残るのは気まずそうな表情。
「アッシュ、ルーク」
そのまま二人に目を向けて、笑う。
「大丈夫だから、行って」
まだためらう二人に、私の手から奪った仮面をつけ、シンクが言い放つ。
「いいからさっさと行ってくれない?」
シンクによって音を立てて開かれた扉の先、幾人もの騎士の姿。
アッシュとルークはそれをみて揃い、剣劇を繰り出す。
「シンク、、待ってるから!!」
ルークが叫んぶ。
アッシュがルークの後ろふりあげられた剣をはじく。
「っもたもたすんじゃねえ!!」
アッシュの叫び。
それにルークはうなずいて。
二人はこちらに背を向けて走り出した。
半分はそれを追っていき、半分はこちらに向きなおり刃を構える。
それに対応するように、シンクが私を後ろに下げて、姿勢を低めた。
騎士の一人が剣を構えた、その瞬間___
その剣は、私たちではなく彼の周りにおろされて。
味方だと思っていた相手からの攻撃に、構えることなどできなかった彼らは一様に倒れ込んだ。
何事かと一歩前にでようとする私をシンクがさりげなく押さえて。
「誰」
端的な言葉と共に警戒を強めるシンク。
それをものともせず、騎士はまっすぐに私に足を進めて。
「久しぶりだな、」
発せられた声は、聞き覚えのあるもの。
でも、こんなところで聞くはずのない声でもあって。
思わず一歩、前にでる.
とがめる視線をむけるシンクをそのままに。
顔を隠している甲冑へ、手を伸ばす___
重たいそれは相手の手によってはずされて。
「・・・クレイ」
現れたのは紺色の髪。
幼なじみであり、金色のお姫様を守る騎士である彼。
私が写ったその瞳が、柔らかく笑む。
それは、まぎれもなく、クレイ、で。
「久しぶり」
柔らかい声。
そっと髪に温もりが触れる。
どうしてここにいるの
その言葉を聞かなきゃいけないのに。
「___久しぶり、クレイ」
でてきた言葉はありふれた言葉。
そして私の言葉に、クレイはほっとしたように、息をついて。
「・・・知り合い?」
触れていた温もりが離れて、別の温もりに抱きとめられる。
シンクの疑問に一つ、うなずく
「___私の幼なじみだよ」
キムラスカ軍だとか、姫様の護衛だとか。
彼を形容する言葉はたくさんあるけれど。
今の彼にふさわしいのはその一言で。
「無事でよかった、」
心からの言葉。
それはじわりと私にしみこんで。
「クレイこそ」
同じように返す。
一歩、私との距離を取り戻そうと動いたクレイに、シンクは私を抱えて後ずさる。
それに対して困ったようにクレイは眉を寄せて。
「の無事を触れて確かめさせてはくれないのか?」
「あんたがに危害を加えないと言う保証がないからね」
後ろ手に私を包むシンクの腕。
それはこの世界で二番目に安心できる場所。
はぐらかすように言葉を操るクレイ。
いらだつシンクをそっと押さえて、まっすぐにクレイを見つめる。
「ねえ、クレイ」
呼びかけに、彼はゆるり、首を傾けて。
「その格好も、全部、お姫様のため?」
彼が行動することは、すべて、あの金色のお姫様の。
強いては彼が守る国のため、だと。
彼が私を裏切ることが、この先あったとしても。
お姫様を裏切ることは、絶対にないから。
「___」
クレイは、淡くほほえんだ。
※※※※※
久しぶりにクレイ登場。
そして終了までもう少し。
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