ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 最終話
「!今日のご飯何??」
「フローリアン。それ僕の服なんだけど?」
「お手伝いしますね、」
あの日、あの場所で、二人の紅が戻ってきてから、2年の月日が流れた。
私はダアトの近くに家を建てて三人の弟と一緒に住み。
軍人をやめて研究員になったジェイドは暇を見つけては私に会いに来てくれる。
そのたびに一緒に住もう、とうれしい言葉をくれるけれど、緑の三人が笑顔で追い返す。
私としてはこの生活もまだ、手放し辛く思っていたのでその状態を甘んじて受け入れていたり。
”弟”と呼ぶことを許してくれた彼らは、まっすぐと前を向いて生きている。
イオンは導師としての勤めをフローリアンと共に行う毎日だ。
イオンの足りないところはフローリアンが。
フローリアンの足りないところはイオンが。
互いに支えあっている。
そんな二人を守るのが導師守護役のアニスにアリエッタ。
主にアニスはイオンに。
アリエッタはフローリアンに。
アニスはイオンのまっすぐな視線にたじたじになりながら。
アリエッタはフローリアンの無垢な心にかたくなだった心を溶かして。
それから、シンク。
戦いの中に身をおくことのなくなった私より、導師である彼らの方を守ってあげてほしい。
私の願いにシンクはあっさりとうなずいて。
「危なっかしい兄弟だからね。仕方がないから守ってあげるよ」
そんな言葉と裏腹に表情は穏やかだったけれど。
彼は導師守護役総括として、教団を裏から支えている。
戻ってきた二人も、仲間たちも、元気にやっているみたいで。
ルークはファブレ家の次期当主として現当主についてまわり。
旅の間に手に入れた知識を、想いを、生かしている。
アッシュはナタリアと二人で手を取り合い、国を守ると誓いあった。
今は国を支えるために王の元で学んでいて。
ティアはユリアシティの次期代表の期待を寄せられながら、毎日忙しく飛び回っているようだ。
ユリアシティ、ダアト、キムラスカ、グランコクマ、連絡を取る旅に違うところにいる。
ガイはグランコクマで伯爵としての立場を確かに築いているようで。
しかしながら送られてくる手紙には、金色の王様にこき使われる様がありありと記されている。
けれど、端々にいやがっているわけではないのがわかるので、楽しいお手紙だ。
「は今日どちらに?」
朝御飯を食べながら、イオンに予定を尋ねられる。
薬草を使った薬学に携わりながら、研究所と協力して新薬の開発にも取り組んでいる。
そのため、何気なく出張、とまでは行かないけれど、2、3日家を空けることも多く。
「今日は少なくなってきた薬のストックを増やしたいから、家にいるよ」
まあ今日はそんな予定ではないのでその旨を伝えれば、ふわり、イオンが笑う。
「、、」
フローリアンの呼ばれてそちらを向けばふにゃり、いつもの満面の笑みとは全く違う困ったような笑顔。
どうしてかと首を傾けるけれど、返事はなく。
かわりにぽふり、珍しくもシンクがフローリアンの頭をなでた。
「、今日僕たちの仕事が終わったら、話がしたいんだけど」
”話”改まって告げられたそれに、真剣な話なのだろう、と予想がついて。
「わかった・・・おいしいご飯を作って待ってるね」
私の言葉に、3人は同じ色と姿をして、全く違う笑顔をうかべてうなずいた。
真剣な話
そう考えたとき、でてくるのはマイナス方向の考えばかり。
一緒に住むのがいやになったんだろうか。
やっぱり姉、と呼ぶのはもういやだとか。
反抗期、という奴ならば、まだいい。
でも、本当に私という存在が嫌いになった、といわれたら。
それは___
ぐるぐるぐるぐる、回る、巡る。
久しぶりに感じる恐怖にぎゅう、と手を握りしめて。
「薬、作ろう」
現実逃避、ではないけれど。
とりあえず目前の用事に意識を向けて、逃げた。
「・・・」
不意に呼ばれた。
同時にぱっ、と光がともされる。
はっ、と顔を上げた先、窓の向こうは暗く。
あわてて声の方向をみれば、あきれたようなシンクの顔。
「すごく集中してましたね」
くすくすと笑うイオンに思わず顔が赤くなる。
「俺たちが来たのにも気づいてくれなかったもんな」
「挨拶すら返してくれなかったしな」
聞きなれた、それでもこの場所では聞くはずのない声。
ゆるり、そちらに目をやれば、壁にもたれて笑う金色と紅。
その向こうの台所では あまいろと黒色と桃色に金色が見えて。
「きっとこれを入れれば、おいしくなりますわよ!」
「ナ、ナタリア!それは入れちゃ___」
「あー・・・入れてもいいけど、イオン様にはださないからね」
「フローリアン様にも、だめ」
そんな声と同時にがしゃがしゃ聞こえるのはスルーだ、スルー。
「・・・いらっしゃい?」
ワンテンポどころか、タイミングもずれたけれど、とりあえず告げるべき言葉を発する。
そうすればルークはふんわりと笑う。
あのころではみれなかった、大人びた表情で。
そんな彼の頭をなでて甘やかすのはガイ。
弟にするように、優しく甘やかすからアッシュには不評だけれど。
「・・・あ、ごはん」
おいしいものを作って待ってる、そう言ったのに。
「アニスたちが腕によりをかけてがんばる、と」
イオンの言葉と共に響くのは台所の女の子たちの声。
きゃっきゃと響く声が楽しそうだ。
いいな。私も入りたい。
そして、気づく。
「皆、どうしたの?」
話がある、そう言ってきたのは弟たち3人だけど。
気がつけばかつてのパーティメンバーがそろいつつある。
___若干一名を残して、だけれども。
「様子を見に来たんだよ」
「元気にしてるかなーって」
にこにこと笑うガイ。
どことなく挙動不審なルーク。
君はいくつになっても、嘘が下手なままだね。
つかれている嘘も理由もわからないけれど、唯一分かりやすすぎるその幼子。
思わず手を伸ばしてその頭をなでてしまった。
そうすれば、ルークはへにゃりと困ったように笑った。
「!おっきいお鍋ってどこにあるのー?」
ひょこり、台所から顔を出したアニス。
呼ばれるまま彼女たちの元へ。
求められたものを渡せば、にやにやと笑うアニス。
ティアとナタリアは柔らかな笑顔を浮かべていて。
アリエッタも小さくほほえんで___
「アリエッタ、あの人あんまり好きじゃないけど、でも、がうれしいなら、うれしい」
そんなことを言った。
「・・・ん?」
いったいどういうことなのか、なにを言われているのか。
理解できずない私の思考を遮るように響く、声。
「アリエッタ!!それ言っちゃだめ!」
あわてたように叫んだアニス。
こてん、と首を傾けてアリエッタは不思議そうな表情。
「そうですわ!今日のことは、秘密、ですのよ、アリエッタ!」
「ナタリア!!」
ナタリアの言葉にティアがあわててその口をふさぐ。
一体全体何のことなのか。
疑問符を浮かべる私にティアもアニスも二人の口をふさぎながらひきつったような笑みを浮かべるだけで。
私には理解できないこれも、あの頭のいい彼ならば簡単に答えを見つけ出せるのだろう。
ふんわり、脳裏に浮かび上がる愛しい人。
集まっていく仲間たちのなか、何故か一人だけいない彼。
彼も忙しい人だから、そう思いながらも小さな寂しさがのぞく。
「ナタリア、頼まれてた食材だ」
「久しぶり、。悪いけど勝手にあがったぞ」
ひょこり、アッシュとクレイまで現れてしまえば、さらに寂しさは顕著になって。
「お姉ちゃん」
不意に響いた音。
異口同音、発生源は、滅多に私をそう呼ばない弟たち。
ゆっくりとそちらをむけば何故か緊張した顔を浮かべる3つの顔。
それに伴うように、ティアたちが私を台所から遠ざける。
アッシュが、ガイが、ルークが、柔らかな笑みを浮かべて私を三人の前へと誘導して。
「幸せになれ」
クレイが、混乱する私の頭をなでた。
「長い間、ごめんなさい」
イオンがゆるり、頭を下げた。
「僕たち、もう大丈夫だから」
フローリアンが泣きそうに笑って。
「もう、いいよ」
シンクが、柔らかくほほえんだ。
いったいなにを謝っているのか。
なにが大丈夫、なのか。
なにをいいたいのか
私が、いらなくなった?
その考えにたどり着いた瞬間、ぶわり、目の前がにじんだ。
それにあわてたのは三人ではなく、ルーク。
私の顔を見てぎょっとして、うろうろと手をさまよわせて。
動じなかったのは、三人。
にじんだ世界で仕方がなさそうに笑う。
「違いますよ、。あなたがいらなくなったんじゃありません」
「そうだよ、お姉ちゃん。本当はずっと一緒にいたいんだよ」
「できるなら渡したくなんかないんだけどね」
理解しきったような口調の三人。
私の口から音はでてこず、ゆっくりと彼らが動く。
イオンが私の手を引いて。
フローリアンは私の背中を押して。
シンクが、玄関の扉を開けた。
「「「幸せに、なって」」」
開かれた扉、その先にあったのは___
色素の薄い茶髪はかすかに月の光を反射する。
めがねの向こう、紅は柔らかな色を宿して。
皮肉ったような、そんな笑みを浮かべるのが得意なその人は、今までみた中で一番穏やかな笑みを浮かべていた。
「」
愛しい、だいすきなひとの、すがた。
ぼろり、たまっていた滴が、おちた。
「」
一歩、彼が足を踏み出す。
「私は確実にあなたを残して逝く」
さくり、地面を踏みしめて。
「あなたが思っている以上に、やっかいな性格だと思います」
イオンが、フローリアンが私から手を離す。
「今ならまだ、離してあげれますけれど」
紅色の瞳は、私以外にそんな風に甘くはならない
「一緒になることを選んだ瞬間に、あなたを手放すという選択肢は消えます」
差し出された、手。
「それでも」
ひざまずかれたせいで、いつもとは違う、見下ろす距離で。
「私と一緒になってくださいますか?」
紅色を宿す、その人は、あまくあまく、笑った。
生まれ落ちた、この世界
過去、もちえたその記憶のままの世界。
私という異分子で、なにが変わるのか、なにか変わるのか。
わからないまま、手探りで見つけた私の居場所。
罪を背負い罰を受け続ける幼子は、どんなときでも私へ絶対の信頼をくれた。
自らに常に厳しくあろうとした彼女の手は、誰よりも優しく私にふれて。
気高く強きお姫様は、傍観者であることを望まぬまま、共に困難に立ち向かった。
復讐を秘めた従者は、その刃を決して弱きものにふりかざすことはなく、私をも守ってくれた。
誰よりも幼いはずのその少女は、大事なものを守るために傷つけた代償に苦しみ、私と共に涙を流して。
導師として導くことを強制された幼子は、自らの意志をもって、前に進むことを選択して、私の手をつかんだ。
自分をこの世界で生かすことへの意義を見いだせぬ緑色は、私という存在を理由にこの世界で初めて足をつけて
居場所を奪われた紅は、失ったものを求めることはせず、ただ先を、未来を見据えて私に希望を託した。
幼なじみであったお姫様の騎士はたとえ何年たった後でも私のよき理解者で
無垢なるものと名を抱いた少年は、その名の通り無邪気な笑みで私に笑いかけて。
獣に育てられた少女はその生を恨むことはなく、ただ崇高する彼のためだけにいきて、そして、彼のためだけに涙を流した。
青を纏い、紅を宿す軍人は、王のためにだけ存在するその人は、それでも心の片隅に私の居場所をくれて
そして、今
_私と一緒に生きてくれますか?_
私に未来をくれた。
何度も言われていた言葉のはずなのに、こんなシチュエーションで言われたら、感情は爆発するわけで。
ぶわり、先ほどとは違う感情であふれ出す滴。
下からのぞき込んだ彼が私の頬にふれる。
「それは、うれし涙ととっても?」
あふれでる喜びを、感情を、止める方法なんてわからなくて。
だから、その体に飛びついた。
「ジェイド、」
愛しくて、愛しくて、たまらないこの人に。
「どうか」
これからさきずっと、
「私と一緒に生きてください」
あなたと生きていきたい。
極上の笑みを浮かべた愛しい人は、答えるように私を強く抱きしめた。
※※※※
おつきあいありがとうございました。
これにて終幕!
H28.8.29
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