ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-31
きれいな月が輝く夜。
レプリカホドの残骸が残るその場所で。
彼らの成人の儀から逃げてきた数人の人影。
あまいろの髪を揺らし紡がれる唄は、第七音素に送る唄。
静かに瞳を閉じて、唄に聴き入る金色のお姫様。
石に腰掛けてぼんやりと空を見上げる黒髪の守護役
そんな彼女のそばに寄りそう導師
遠いホドの残骸を見つめる伯爵に
紅い瞳を瞬かせる青色の軍人
無垢なるもの、の名を抱く少年も今日はおとなしく、兄の横で黙っていて。
紡がれる唄にそっと自分の声を重ねてみれば、じわり、広がる温もり。
「いつまで待たせる気だろうな」
「ほんとだよー!待ちくたびれちゃったよ」
ガイの言葉に、アニスが返事を返す。
むすりとした表情を浮かべたアニスの頭をイオンが愛しげになでる。
「僕らにあうために、きっとまだがんばってくれてるんです」
尊敬する導師にそんなことを言われれば、アニスは黙らないわけには行かなくて。
「二人とも約束してくださいましたわ」
ナタリアの言葉に、ティアがうなずく。
「必ず帰ってくる、って」
皆本当は心のどこかでわかっている。
帰ってこないその可能性の方が大きいと言うことを。
それでも、それでも希望を捨てたくはなくて。
「___まさか、奇跡、というものを願うようになるなんて思っていなかったですね」
ジェイドがため息をつきながら一言。
けれどそれは決していやそうなものではなくて。
「の薬もあったし、帰ってくるに決まってるでしょ」
「シンクの言うとーりだよー!」
すっかり姉大好きっ子に育ちきったシンクとフローリアンが笑う。
そんな二人に和まされたように、皆が淡く笑って。
「___そろそろ行きましょう。夜の渓谷は危険です」
ジェイドの促しに、ゆっくりと皆が踵を返す。
進み出した、その瞬間。
後ろで、小さく音が、なった。
はじめに止まったのは、誰だったのか。
振り向いたのは。誰だったのか。
そこにあったのは、紅色をなびかせる、二つの影。
逆光で顔は見えないけれど、それでも、二人の口元が弧を描いているのが、わかった。
ティアが震えて動きを止めて。
反対にナタリアは一歩足を進めて。
「どうして、ここに・・・?」
その言葉に、ふたりはゆっくりと首を傾けて、答えた。
「必ず、って言っただろ?」
「約束、もう忘れたのか?」
ゆっくりと足を進めたイオンが、笑った。
「お帰りなさい、二人とも」
そして、二人は言った
「「ただいま、みんな」」
鮮やかに、笑みをたたえて____
※※※
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