ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 67









愛していますから___
きっと、これは夢だろう。
ぼんやりとまだ開かぬ瞳のまま、思う。
だって、あの人がこんなにも優しい言葉を、甘く甘くささやくはずがないと。
それでも現実であればと思ってしまうほどには、私は彼を好きで。
私も、愛しています。
そんな言葉を返せたならば。
それはきっと幸せなこと___

ゆっくりと、すごく重たい瞳を開ける。
写った天井は知っているような、知らないような。
それでも、この香りに覚えはあって。

「ジェイドさんの、匂い・・・」

小さくつぶやいた言葉はひどくかすれていて、ベッドの上にあっさりと落ちる。
拾う人はいないまま、空気に溶ける。
そおっと体を起こすが、ひどいめまいが身体を巻き込んで。
思わず半分だけ体を起こした状態でうずくまる。
苦しい、この身体から逃げてしまいたい。
そんなバカな考えが浮かぶ。
がんがんと痛む頭を押さえて、身体の不快感を消すためにじっとしていれば、がたり、どこかからか音が響いて。
ゆっくりとそちらを見た瞬間、気づいた。
今の自分の現状を。
ああ、そうか。
あの時あの場所で、ヴァンに身体を貫かれて、そのまま意識を失ってしまったんだ。

そう、こちらを見ながら、ただぼたぼたとその瞳から大粒の涙を落とし続ける大事な弟をおいて。

「シンク」

呼べば、小さく身体をふるわせて、そしておびえるように後ずさる。
困ったように笑えば、グシャグシャの顔をさらにゆがめて。

「ごめんね、ただいま」

そういって手を広げれば、一瞬だけ躊躇して、でもすぐに腕の中に飛び込んできた。
力の入らない腕でそのからだを抱きしめれば、その力を補うようにぎゅうと、力を込められて。

「ばか、のばか」

罵倒するその声すら、耳に心地よい。
なだめるように、背中をなでて、言葉を受け止める。

「僕を、拾ったんでしょ?僕が必要なんでしょ?」

彼の叫びが、心臓に刺さる。

「僕は、を守る武器なんでしょ?」

痛いくらいの力が身体を抱きしめてくる。

は僕のお姉ちゃんなんでしょ?」

ぐ、っと今度は距離をとられて、まっすぐに顔を見つめられた。

「なら、ちゃんと最後まで責任とりなよ!」

涙がいっぱいの瞳で、真っ赤な頬で。

「僕より先に死ぬなんて、絶対に許さないからね」

そう、叫んだ。



泣きじゃくるシンクを慰めるように抱きしめていれば、突然ドアがすごい音を立てて開かれて。
その先、蒼い色をまとった軍人が、一度だけ大きく目を見開いて、そうして、そっとめがねの奥に心を隠した。
そのまま部屋に入ってきて、シンクをばりりと引き離して、べたべたと体中をさわられて、そうして、こつり、額をあわせられて。

「生きて、いますね・・・」

赤い瞳が、私を射ぬいて、ただ、まっすぐに見つめられた。

「いきて、ますよ、ジェイドさん」

少しだけ笑ってみせれば、ようやっと、彼は、笑った。

















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