ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 68
目が覚めてからの数日は怒号の勢いだった。
ジェイドさんがみんなに手紙を書いてくれたらしく、心配したと、よかったという旨の手紙が多く届いて。
なぜかみんながもう無理をしないようにとかき連ねていた。
・・・無理をした覚えはないけれど。
ジェイドさんの手配で健康状態を診断された。(問題なしだった。)
信託の盾騎士団にて参謀だったシンクはジェイドさんの家に住まうことを許される代わりに、その実力をマルクト軍にて発揮することとなった。
つまり、まあ、彼はジェイドさんの部下になったということで。
私は静養という名目でジェイドさんの家に軟禁状態。
とはいっても彼の家に研究室はあるわけで、あのときのように新たな薬の開発を手がけている。
「目が覚めてよかった」
そういって、金色の彼は、とても鮮やかに笑った。
その笑顔をみるのも、言葉を聞くのも、いつぶりだろうか。
「ちょっと、長く寝すぎただけだよ」
そう返せばガイは少しだけ困ったように眉を潜めて私の額をこづいた。
「寝すぎだろう」
その仕草に笑って見せれば仕方がないな、と暖かなため息が落とされて。
「ねえ、ガイ。あの後、どうなった?」
私の言葉にガイが、淡々と現実を話してくれた。
あの後の結末を、私は知らない。
ずっとずっと暗闇をさまよってたから。
ヴァンの行方
障気の現状
各国の状況
それから、みんなのこと。
ガイは貴族の一員としてこの国に籍を持ったようで、今はピオニー陛下の雑用みたいになっていること。
はじめの方は真剣に、自分のことは少し笑いながら。
心配させまいとする彼の心が、優しくて、少しだけ、痛い。
「ごめんね、みんながつらいとき、一緒にいることができなくて」
ぽつり、小さく謝罪を述べる。
みんながつらいとき、一緒にあれないのはいやだ。
そのために、危険を承知でついていったのに。
いったい何のためにあの場所に向かったのか。
シンクの優しさに甘えて逃げぞこなった。
ようやっと、みんなと同じ場所で、同じ時間を共有して、共にあれると思ったのに。
「」
なだめるような、優しい声。
そっと顔を上げれば、相変わらず優しい笑みを浮かべるガイがそこにいて。
「知ってるか?守りたいものがあれば、守る存在があれば、人間って言うのはとんでもない力を出すんだ」
「・・・私は薬草を煎じる以外、なにもできないのに・・・?」
「の存在があるだけで、俺たちは強くなれるよ」
彼の言葉は柔らかく、胸に落ちていく。
あのとき、あの場所で、足手まといでしかなかった私を、ただ優しく受け入れるように。
「を一人おいていってたら、まずルークが全力を出せなかっただろうな。のことが心配で」
頭によぎる紅の彼。
そのみに宿す罪に、さいなまれ続ける幼子。
とても、とても優しい子供。
「それからジェイドも」
「ジェイドさん?」
ガイの言葉に思わず目を瞬かせる。
「そう。ジェイド」
楽しそうに、それはそれはおもしろそうに、彼は話す。
「あのときみんな離れただろう?合流したときのジェイドがな、全然笑わないんだ」
にこにこと、常に人を小馬鹿にしたように笑うあの大人げない軍人が?
私の表情を詠んだみたいにガイは続ける。
「を見つけた瞬間、一番ほっとしてたのは間違いなくジェイドだ」
じわじわと、顔に、頬に、熱が宿る。
心配をかけていたことはわかっていたけれど、それはふつうの仲間に向ける心配だと、そう思ってた。
_愛していますから_
ふわり、よぎったのは、あの言葉。
夢か現か、わからなかったそれが、突然現実味を帯びて。
「まあ、もちろん俺も心配したけどな」
くしゃり、頭が温もりに包まれて髪をなでられる感覚。
いっぱいいっぱいだった思考が、じわり、溶解する。
「・・・心配してくれて、ありがとう、ガイ」
私の言葉にガイはなでる手を強めた。
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