ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 8









薬を煎じる用事があると断ったにも関わらず、是非とも聞きたいことがあると、そう言われて。
気がつけばコーラル城にむかう馬車の中に放り込まれた。
目の前には髭と眉が大変立派なヴァンさん。
ぶっちゃけこの人は物語の結末に大きく関わっていたことを記憶するだけに、あまりこちらのことを話したくはなかった。
が、大変残念なことに彼は楽しげに私のことを聞いてくる。
ホドのことは覚えているのか
両親の記憶はあるのか。
この薬を煎じる技術について。
それから、預言について、どう思うか。

もしもホドの崩壊が預言に読まれていたならば、、君は預言を憎むか?

まっすぐに向けられる鋭い視線。
答えをはぐらかすことなど許さないと、そう述べるかのように。
私にとって、

「私にとって預言は、ただの選択肢の一つ。もしも預言を知らないでその預言と同じ行動をとったのならば、それはただの運命。でも、預言を知っていながらそれをまねるだけの生活なんて、何一つ、楽しくなんかない」

だから、その預言を知っていたならばホドの崩壊を避けられたかもしれない。
今更そんなことを言われたところで、何を思うこともない。

「預言を憎むことよりも、今の私にとって毎日生きていくことのほうが、大事です」

私はずっと前から知っていた。
ホドが崩壊することを。
それに気が付いたのは崩壊した後だったけれど。
そして、これから起こることだって、知っている。
それはとぎれとぎれの記憶でしか、ないけれど。
私の言葉にヴァンさんはそうか、と苦く笑って見せた。



無事にコーラル城にてルークたちと合流し、船に乗って向かうのは次の町。
そうして向かう船の上、私は

「さて、。話をする時間をいただけますか?」

否定の言葉など許さないというようににこやかに笑う眼鏡軍人によって船の一室に連れ込まれていた。
部屋に入った瞬間、ざわり、空気は変わる。
表情は笑みを形作りながら、その瞳は少しも笑う様子を見せず。
ただ、まっすぐとこちらを見透かすかのように見つめ続ける。

「瘴気を中和する。その薬について、もっと詳しく聞かせていただけますか?」

案の定。
ジェイドさんの言葉は予想していたものだった。
この薬について、それからほかにも私が持ちうる様々な薬草への知識について。

それは彼にとって、『有益』なものであるから。

「両親が独自に開発した調合方法です。だから、死んだ両親以外でこれを知っているのは私だけになりますね」

「効力については?」

「煎じてから時間がたてばたつほどその効力は低下します。逆に作ってすぐであれば効き目は大きいです。キャンディーなどにすると持続性がありますが、効力としては弱いです。」

「キャンディーにする方法はあなたが?」

「・・・はい、ともいいえ、とも答えられます。もともと苦いのが苦手だった私のために両親が考えたんです。
瘴気中和の薬をキャンディーにしたのは私ですが。基本的に薬草の知識は両親からのものです」

彼の求める答えを、できるだけ的確に導き出せるように。
質問に偽りなく答えを返す。
ゆるり、彼の形のいい白い指がその眼鏡のふちを辿る。
考え込むようなその仕草は自分にとって必要か、不必要か、まるで決めあぐねるかのようで。

。あなたは今どちらに住んでいるのですか?」

「住んでいるところ、ですか?定住はしていませんね。いろんなところに回るので家の必要性があまりありませんから」

かちゃり。
眼鏡を直す音が部屋に響く。
むけられた紅い目は、ただまっすぐと私を射抜く。

「回りくどい言い方は伝わりそうにないので単刀直入に言いましょう」

紅い色が、ただ、私だけを映し出す。

。あなたの薬草の知識。あなた一人で終えるには大変惜しい」

「マルクトならば必要な設備も整っている。資金に関しても手を貸しましょう。マルクトにて、その知識を存分に発揮してくれませんか?」

それはきっと、嘘偽りなき言葉。
彼は国を、強いてはそこに君臨する王を想うのだろう。
王の手助けになるものであれば、どんな些細なものであろうと逃しはしないと、いうかのように。

伸ばされた手。
それはまっすぐに私に向けられている。
私は、国という概念にとらわれたくはない。
一つの場所に定住すれば、そこに起こる摩擦に巻き込まれる。
それは、とても怖いことで。
だから、

「私のこの知識が、誰かのためになるというならば、私は喜んで差し出しましょう。でも、私の知識によって様々なところに亀裂が走るというならば、私はそれを良しとはしたくない。マルクトという国のためには使いたくない。私は、薬を求めるすべての人たちのためにありたい」

私は、薬を必要だと感じてくれる、すべての人のために。

「まだまだ未完成なものがたくさんある。それを成し遂げる場を与えてくれるのはとてつもなくうれしいです。だって、私だけではなしえれないものが、たくさんあるから」

きっと、その場所は、私に新たなるものを広げてくれる。
けれども、それでも、

「それでも、私は、国という大きすぎる世界に、自分の身を預けられるほどの度胸も自信も気持ちもないんです」

私の言葉にゆるり、ジェイドさんの瞳が細まる。

心を見透かすかのようなその鋭さに、思わず息をのむ。

「ならば、

先ほどとは違う、少しだけ穏やかな声。
強張る体をほぐすように手を握ればゆらり、その手がぬくもりに包まれる。
気が付けばなぜか至近距離にいたジェイドさん。
ぬくもりの発信源はどう見ても目の前の人物で。

「マルクトという、国ではなく。ジェイドという人物が、あなたを欲した場合。あなたの心はどこに向きますか?」

それならば、私も答えましょう。
国という単位ではなく、あなたという一人の人間のことを。

「マルクトという国に手を貸すつもりはありません。けれども、私は、ジェイドカーティスさん、あなたの知識が欲しいです」














※※※※
ジェイドさんはまだNOT恋愛。
どっちかというと研究対象とかそんな感じ。
あやふやながらも協力関係になりました。













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