ドリーム小説
記憶を辿って番外 それははからぬ邂逅で
「・・・ここ、どこ・・・?」
学園に入って約一年。
道はとおの昔に覚えていた。
はずだったのに。
見渡せど、目的の学園はかけらもみえず。
町へと降りて、用事を済ませて。
日が暮れるのが思ったよりも早くて。
慌てたせいで道を見失う。
先ほどまでまだ赤く染まっていた空はすでに紺色に姿を変えていて。
いつもはふつうに聞いている鳥の声が、恐怖を倍増させる。
怖い。
夜の森ほど怖いものは、ない。
ほろりほろり
人知れぬその場所で、一つ二つ滴がこぼれる。
怖いこの場所で、きっと私はひとりで___
幼いこの身にこの夜は暗すぎて。
怖くて怖くて、寂しくて。
助けて、と漏らした声はあまりにも小さすぎて届かない。
がさり
小さく揺れる茂み。
びくりと体をふるわせて、懐に潜ませているくないに手を伸ばす。
怖い怖い
それでも私は忍の卵。
ぎゅっと手を握りしめて、その場所をにらみつけて。
と、
がさり
もう一度揺れたその場所に、ひょこりと現れた水色。
思わずきょとりとそれを見返せば、それも同じようにこちらを見ていて。
「・・・にん、たま・・・」
「くのたまだ。」
小さくそれが声を上げたのを皮切りに、ぼろり、先ほど止まったはずの涙があふれだして。
「ふえぇ・・・」
ぼろぼろとこぼれるそれに目の前のにんたまは驚く様子も見せず。
困ったように頭をかく。
「迷子か?」
困った様子のまま問われたのは、今の言葉を実に如実に表すもので。
こくりと一つうなずけば、それは少し考えるように首を傾げて、そうしてにこりと笑った。
「俺と一緒に帰ろう。」
伸ばされた手は温かい。
握りしめた手は豆がたくさん。
背が、自分よりもずっとずっと大きくて。
茶色の髪と違う色の前髪が、空に上りだした月によって照らされて。
たくさんの時間をかけて戻った学園。
泣きそうになりながらを抱きしめてくれた先輩の腕。
にんたまの子にも、同じように先輩が駆け寄って行っていて。
「こんの、バカ次屋!!あれほど縄をはなすなといっただろうが!」
黄緑色をまとった先輩が、そのにんたまの子をばしりとたたいて怒りながら長屋へと歩いていった。
ありがとう、その言葉を言うことはできないまま。
※※※
遠すぎて、幼すぎて、記憶に残らなかった小さな出会い。
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