ドリーム小説







無色透明 18















私以外、誰も乗っていない。

そんな状況で動く船を見るのは初めてで。

操縦の技術など持たない私ではこの船は動かせないというのに、迷うことなく前に進んでいくメリー。

不思議だと思いはするけれど、この世界の常識をもたない私からするとそれがおかしいことなのか、そんなことわからなくて。

私は全身をメリーにゆだねる。

その場所につくまで、メリーはたくさんの冒険の話をしてくれた。

初めてみんなを乗せたときのこと

空島に飛んだこと

操縦が下手な皆のおかげでぼろぼろになることも多かったこと

狙撃手さんの下手な修理の話


そのどれもを、楽しそうに、幸せそうに。


それはまるで私の中に、今までの彼らを教えるために、今のメリーを託すようで。

響く楽しそうな声。

そこに滲むあきらめの色。

その意味は、もうわかっている。


もう走れないのだと、そう言ったカクさんの言葉。

あきらめろと首を振るルッチさんとハットリ。

数時間前、真っ黒な服を身に纏い列車に乗り込んでいった二人。

偽りで身を固めていたであろうその二人だけれど、あの宣告だけは、本当だと、心のどこか気がついていて。

それでも、今メリーが走る様子にその事実を否定したくなる。


___ついたよ、___


さっきより少しだけ強ばった声。

耳に届く、激音の数々。

数多くの戦艦は大きく、メリーの行く手を阻む。

けれどそんな中を彼はすいすいと進んでいって。


近くの艦が攻撃を受けて炎をあげた。

「っ、脱出艦がっ・・!!」

かすかに聞こえてきた、航海士さんの声。

焦ったような響き、けれど、声に宿る覇気は消えていない


間に合った。


不意に浮かんだ考え。

待ってると、そう言ったのに。

信じてると、そう伝えたのに。

砲撃が響いた

結局のところ、私は怖くて、失うことにおびえて。

一人残されていくかもしれない恐怖で、感情は麻痺していて。


きっとメリーが呼んでくれなければ、私は今もあの場所でただ待っていただろう。


この胸の奥浮かび上がる感情の意味も分からないままで




でも、今、私はこの場所に、いる。


彼らのそばに、いられる。



また、一つ大きな砲撃


今、私にできること、は?


何も、ない?

___否、


「っ、皆」


___帰ろう、みんな___


響くメリーの声。

「ルフィさん、ゾロさん、ウソップさん、ナミさん、サンジさん、チョッパー!」

メリーの声よりもずっと小さな声しかでないけれど、それでも、それでも。

___また冒険の海へ___


「っロビンさん!!!」


___迎えに来たよ___


荒れ狂う波の中、必死に見上げた視界の先で。


知っている顔が私たちの方をのぞき込む。

そして目を見開いて、口々にメリーの名を呼ぶ。

「メリー号に、乗り込めええ!!」

叫び声と同時、降りてきた皆の中、見つけた黒色。

一度海へと投げ出されたその体は、だれかの手によって船上へと放り投げられて。

「ルフィさん!!」

手を伸ばして、精一杯声を上げて。

その傷だらけの体を抱き止め___られるはずもなく、どたり、甲板にからだをうちつけた。

「っちゃーん!!」

痛みに打ちひしがれる私からルフィさんを遠ざけてくれたのは、金色のコックさん。

べりり、離されてぺたぺたと体に触れてくる手があまりにも暖かくて。

その背中に手を回して、ぎゅう、と力を込めて告げた。

「っ、おかえりなさいっ」

かすかに体をこわばらせたコックさんは、一度だけ息をのんで、そして穏やかに返してくれた。

「心配かけてごめんね?全員つれて帰ってきたよ___ただいま。」

穏やかに笑むコックさんに、止まっていた感情が動き出す。

「俺やっぱりメリー号大好きだ!!」

チョッパーが泣きながら叫んで

、あんた操縦とかできないわよね・・・」

ナミさんは不可解そうに言葉を濁す

そして、


「ロビン!助かっ___」


私が支えた後、コックさんに吹っ飛ばされていたルフィさんが、にかり笑った。

その言葉はロビンさんによってさえぎられて。

「みんな、ありがとう」

まっすぐに直立したロビンさんはゆっくりと言葉をかみしめて、いった。

その表情には今まで感じていた影はなく、晴れ渡った青空のよう

「おまえ等、いろいろ後にしろ!さっさとここから脱出するぞ!!」

さらに言葉を重ねようとする船員たちを遮ったのは剣士さんの鋭い言葉。

「指示を出すわ!皆持ち場に!!」

航海士さんの的確な指示に、あわただしくなる船上。

そのなか、どこにも居場所を見つけていない私は端に寄ることしかできないけれど。


それでも、前ほどの卑屈な感情は、今はなくて。



先ほどまでとは違う、にぎやかな船上で、メリーが小さく笑ったのが聞こえた。 


海流の中、ナミさんの的確な指示によって進むメリー。

青い髪の大きな男性が、何かをしたかとおもえば、メリーは空を飛んでいて。

浮遊感、後、着水したその先、晴れ渡る空が見えた。


船体にしがみついていた体をゆっくりと起こせば、皆が疲れたようにへたりこんでいて。

でもその表情は誰もが晴れやかで。

「皆、」


私の上げた声に、皆の視線が集まってきた。

すくみそうになる足をこらえて、笑った。


「っ、おかえりなさいっ!!」


私の言葉に、

「おう!ただいま!」

ルフィさんは満面の笑みで、

「ちゃんと戻ったぞ」

ゾロさんは片口をあげて、

「ただいま___なんか照れるわね」

ナミさんは柔らかく、

「ふむ、心配をかけたようだな!今戻ったぞ!」

ウソップさんは得意げに

「ただいま、ちゃん」

サンジさんはふんわりと、

「た、ただいま!、怪我してないか??」

チョッパーは照れくさそうに、

「___ええ、ただいま」

ロビンさんはとてもきれいに、



笑って返してくれた___











back/ next


戻る