ドリーム小説
無色透明 17
列車が進んでいった先を、ただ、眺める。
かつり、横で音がした。
「___んまー、大丈夫だ。」
視線をゆっくりと向ければ、ここにも傷だらけの人が一人。
この街の市長であり、ガレーラカンパニーの社長は、先ほどまで私が見ていた方角を見据えていて。
「待ってる奴がいれば、自然とかえってこれるもんだ。」
ゆっくりと視線がこちらに向けられる。
「お嬢さんという標があれば、あいつらもちゃんと戻ってこられる」
柔らかな色。
それが私を映して、細まった。
「だが___」
そっとのぞき込まれれば、揺れる瞳に気づかれて。
「待ってる方もつらいな」
くしゃり、大きな手が頭に乗って、優しくなでられた。
この世界でよくやられるようになったその動作。
それは不快ではなくて。
「お嬢さん、待ってる間少し俺と話しでもしねえか?」
断る理由もなくて一つうなずけば、彼はふわりと、きれいに笑った。
※※※※※
場所を変えよう。
そんなアイスバーグさんに先導されて歩きだした街の中。
ひどい雨と風の中、不意に聞こえてきた何かの音。
私には何の音かわからないそれも、アイスバーグさんにはすぐにわかったようで。
彼と二人顔を見合わせてその音の方向へ足を進めて。
そこにあったのは、一つのぼろぼろの船。
けれど、その船体は、全体は、よく知っているもので。
船首の羊だったり、折れたマストだったり。
それは彼らがともに過ごしてきた月日を示す。
「これは、お嬢さんたちの船じゃねえか・・・!」
「メ、リー・・・?」
呆然とつぶやいた私の言葉。
そっと労るように触れたぼろぼろの船体。
___はしりたい___
触れた瞬間、ふわり、声が、聞こえた
子供のような、そんな柔らかな声が。
はじかれるように見上げた先、羊を模した船首と目が合う。
___もう一度だけ、はしりたいんだ___
再度聞こえてきた言葉に、思わずアイスバーグさんを振り向けば、彼は躊躇なく、抱えていたボックスをひっくり返す。
中に入っていた様々な道具を手に持ち、メリーに向き直った。
「応急処置しかできねえが・・・」
響く槌の音。
ゆっくりと、メリーの外観は直っていく。
それでも、その船体に受けた傷が消えるはずはなく。
「アイスバーグさん!!」
船をぐるりと一周したとき、彼の名前が呼ばれた。
「高波がきます!早く避難を!!」
「わかった、すぐ戻る!お嬢さんも___」
彼の声が響くよりも先に、私の中に別の声が、入り込んだ。
___ 一緒にいこう___
その声は、確かに私を呼んで。
その声は、ゆっくりと立ち上がった。
「メ、リー・・・?」
___だって、僕は皆のおうちだから。だから、お帰りって、一緒に言いたいんだ___
響く言葉、それは、約束の言葉。
「そうだね、メリーは皆の家だもんね。」
アイスバーグさんに続こうとしていた足を止めて、まっすぐにメリーと向き合って。
いつの間にかおろされていた縄をつかんで、必死に上る。
後ろから聞こえてくる言葉など、今の私には聞こえない。
「アイスバーグさん、いってきます。」
メリーになんとか乗り込んで、振り向いて手を振って。
「気をつけてな」
彼の言葉を背に、船は滑るように走りだした。
___ありがとう___
メリーのささやきに彼も頬をゆるめた。
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