ドリーム小説







無色透明 21













目的の場所は、すでに海軍であふれていた。

それを目にした瞬間、彼の足は速くなって。

引きずられそうになった私を、彼はなんのためらいもなく抱えあげた。

いわゆる俵担ぎ、と言われる奴で。


「、ゾロさん、いた、これおなかいたっ、」

必死の言葉は振動によってうまくでてこなく。

最終的に舌をかんだ。

いたい。

しかも彼は私を抱えあげたそのままで、剣をふるうものだから、

耳元で響く刃の音に恐怖が生まれて。

「っち」

「ちょ、え、」

舌打ち、後、浮遊感。

放り投げられた体はあっさりと宙を舞い。

かろうじて映した世界では、妙な刀を操る男とゾロさんは相対していて。

これ、地面と衝突するしかないんじゃないか、一瞬のうちに自分がたたきつけられるであろう現実を悟り、さあ、と恐怖が浮かぶ

近づく地面にぎゅう、と体を縮こまらせたその時。


金色の柔らかな光が、映った。

暖かな黒に、包まれた。


「んの、クソマリモっ!!___大丈夫かい?ちゃん」

悪態をつく声は激情をはらんでいたけれど。

私に向けられた声はひどく優しい色をしていて。

ばくばくと音を立てる心臓を宥めるためにその黒にぎゅう、とすがりつく。

「うっせー!お前なら受け取るだろうが!」

「あたりめえだろ!!レディを落とすなんて、するわけねえだろが!!」

結構距離があったはずなのに間髪いれずやりとりは交わされて。

いつものそれに、心臓がゆっくりと落ちついていく。

「ありがとうございます、サンジさん・・・。」

そおっとその胸を押せば、心配そうな顔。

私にはもったいないほどの優しい表情。


「___うん、大丈夫」


それはサンジさんに言ったのか、自分に言い聞かせたのか。

まだ微かにふるえる足を叱咤して、立ち上がる。

視線を向けた先には、ルフイさんが、ゾロさんが、それぞれ海軍を一人ずつ倒していて。

そこに響く笑い声。

「あー・・・海軍中将のガープだ。・・・ルフィのじいちゃんらしい。」

サンジさんの言葉に一度、二度、瞬きをしたけれど、目の前で行われるやりとりに血のつながりを感じて納得。

倒されていた海軍二人も、ルフィさんたちの知り合いだとわかり、ひと段落。



偉いらしいガープさんが自分で壊した扉を部下と一緒に直しだしたり、ルフィさんのお父さんが、革命家と呼ばれる人だと発覚したり。

海賊も海軍も驚きの事実に衝撃を隠せない状態であった___。



あった、はずなのに___なぜか、今。

私たちはプールにいる。


この世界の常識を知らない私からすると、何が驚きなのかわからないなあ、と。

そんなことを思っていれば、ぐい、と腕を引かれて。

視線をやった先には艶やかに笑うナミさんの姿。


「・・・ナミさん、この露出はちょっと。」

笑顔のまま連れてこられた先は、ガレーラのプール。

「何いってんの!水着なんか出してなんぼよ!」

手渡された水着は非常に、その、セクシーなもので。

「それもどうかと・・・」

脱ぎなさい、そんな言葉を向けてくるナミさんの手から逃げながら水に足を着ける。

「さっさとパーカー脱ぎなさいよ。」

言葉の追随は知らないふりだ。

「これも水着の一部なんで」

まったく、とため息を吐き出して、ナミさんはビーチパラソルの下ででんでん虫を耳に当てた。

「・・・電話ですか?」

「これは盗聴用のでんでん虫よ。」

あ、そのいつもと違う色はそういうものなんですね。

・・・でんでん虫ってすごいけど、あの世界より技術が発達してるのか、してないのか。

非常に判断に困るところではある。

ぱしゃり、足で水をはじく。

透明なそれは、まとわりついて私を形どる。

感じる冷たさは心地よく柔らかく。


___悪魔の実を食べたものは、海に、水に嫌われるのだと聞いた。

この心地よさを彼らは感じることができないのだと思うとそれは少し残念なようで___

「・・・あ、れ?」

私の体には悪魔の実の攻撃が効かない。

というか、なぜか無効化される。

エースさんやクザンさんには、触れた状態でも彼らの能力は使えた。

けれど、その炎に、氷に触れた瞬間。それは四散して。

代わりにルフィさんの攻撃は私に触れることで消える。

自然系とか、超人系とか、なんかそういうなのの差なのかな、と思いながらもその理由はわからない。

でも___この海は、私を嫌ってはいない。


もしかしたら___


ちらり、浮かびそうになった考えは、目の前に差し出された香ばしい匂いによって止まる。


ちゃん、肉が焼けたよ、どうぞ。」

きらきらと輝く金色。

柔らかな表情で差し出されたお皿。

上に乗っているのは肉汁がしたたるお肉。

反射的に受け取ったけれど、おいしそうなそれに早々に口を付けて。

「どうだい?」

じわり染み出すうま味。

口の中にあふれるおいしさは、もっと食べたいという感情以外もたらさない。

必死に租借して飲み込んで、ようやっと見上げたサンジさん。

「すっごくおいしい」

素直にあふれた感情をそのままに伝えれば、ふんわり、さらにその笑は深まる。

「たくさん食べてね」

その言葉に再び頷いて、また一口。

「サンジー!俺も肉ー!!」

「うるせえ!!今焼いてやるからまってろ!!」

ルフィさんからの催促に叫び返しながらサンジさんは後ろを向いて。

そこでようやっと、そのプール周辺にたくさんの人たちが集まっていたことに気づく。

ガレーラの船大工たちに解体屋の人たち。

町の人たちの姿もちらほらと見えて。

いつの間にか始まっていた宴に無意識に笑みが漏れる。

ぐるり、視線をさまよわせた先きれいな姿勢で飲み物を傾けるのロビンさんの姿。

あまり顔色がよくない彼女に何かあったのかと近づいていけ、ば___


「___」

小さく聞こえてきた声。

それは、私も知っている、声で。

ロビンさんと壁をはさんだ反対側。


思わずそちらに足を向けた。

「っ!」

こちらに背を向けて歩いていく長身の男。

それは見間違えることなんか、ない。

あわててその背中を追いかけるがそもそも足の長さが違う。

どんどん距離は離れていく。

角を曲がって___

「・・・ちゃん。」

困ったような表情を浮かべた彼は、そこにいた。

「クザン、さん」

微かにあがる息で名前を呼べば、一つ、ため息。

「・・・海賊が海軍を追いかけちゃだめでしょうが。」

ぽん、と頭に大きな手が乗った。

子供にするみたいな優しいそれに、じわり、暖かい感情が生まれて。

「ごめんなさい、クザンさん」

あのとき、優しく導いてくれようとしたあなたを、私は簡単に裏切った。

うそはついていなかったけれど、本当のこともいえなくて。

「でも、ありがとうございます。」

ルフィさんたちに、本意ではなくても出会わせてくれた人。

クザンさんによって押さえられた頭は彼の表情をみることを許してはくれない。

「・・・迷子は家を見つけられたか?」

小さな問いかけ。

それに一つ、首を振る

「私の家は、このせかいにはありませんから。・・・でも、お帰りっていってくれる、いわせてくれる人はできました。」

私の返事に、彼はまた一度頭をなでて。


「もしそこが耐えられないくらいつらい場所になったら、いつでもおいで。」

優しい言葉を、優しい色で、彼はくれた。













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