ドリーム小説





towa-oo


「幸村様、幸村様。どうか命尽きるそのときまで、あたしをそばにおいてください。」


それは確かな願い。

それは確固たる意志。

渇望にもよく似た感覚。

きっとそれは切望。

そうすることで、自分を保ちたかった。

そうすることで、存在意義を望んだ。

それはあまりにも不安定で不確定でそして、何よりも真実。




「長。主が呼んでる。」
「はいはい、今行きますよっと。」
木の上。
主が探していた人物を見つけ声を掛ける。
橙の髪。
緑のフェイスペイント。
迷彩柄の忍装束のその人は、どこか飄々とした雰囲気で答える。
俺様仕事帰りなのに〜と言いつつもすぐさま主の下に馳せ参じるは、忍びの定めか。

その男、猿飛佐助はこの上田城城主、真田幸村に仕える真田忍隊の長。
あたし、がこの長に出会ったのは、遠い日のことだった。




あたしが生まれたのは、ある忍村。
そこはちいさいけれどたくさんの優秀な忍を輩出してきた。
そこはあたしにとって、とても居心地がよく暖かい場所。
訓練は厳しかったけど、それ以外はみんな優しかった。
忍にいらないはずの感情もそこでは隠す必要も無かった。

そんなある日。
その村に悲劇が訪れた。
あたり一面広がるは紅。
見渡すばかりに見えるは、先ほどまで人だったもの。
この里をしるものはこの里のものだけ。
つまりだれかが裏切ったということ。
精鋭ばかりの忍者の村だ。
そんな簡単には落とされるはずが無かった。
だが、丁度幾人かの忍が先日村を出て行った。
そのためこの村には普段よりも少ない忍にその卵たちしかいなかった。

あたしたち忍の卵は、他の忍たちの手によって里から外へ出された。

まだ、何も知らない外の世界へ。

そうして、あたしは拾われた。
橙の髪を持つその人に。
その時長は16、あたしは8のときだった。

連れてかれたそこには、赤く燃える人。否、炎のように紅蓮に見える人。
名を弁丸と言った。
それがいまの主、真田幸村様だった。
御頃は10。
幼いがほかの子どもたちとは違い、この年で様々なことを悟り知っていた。
外見から見えるおっとりとした雰囲気とは裏腹に、今の世界を卓越した見方をする人だった。
まだ8つと言う年齢だったあたしを、忍だとわかっていたのに、妹のように可愛がってくれた。

この人を守ろうと思えた。


その頃から約7年が過ぎた。
その間に、弁丸様は元服し幸村と名を改め、御館様こと、武田信玄公に仕えることになった。
また上田城城主であり、幸村様の父である昌幸様がお亡くなりになられ、幸村様がこの城の当主となられた。
それらの全てを、あたしは、長とそばで見ていた。

この人のために生き、この人のために死のう。
そんなことを言えば主は怒るだろうから、胸にそっと誓った。


「ほんっと、旦那は忍を何だと思ってんのかねぇ・・・。」
主の元に言っていた長が帰ってきた。
こぼれる声に含まれるは疲れ果てたような雰囲気。
「・・・団子、か。」
主の大好物の名を上げれば頷く長。
それに笑ってみれば、気配でばれたのだろう。
こちらを向いていないのに咎める声が聞こえた。
「笑わないでよ、。ああ、それと、旦那が久しぶりに3人でお茶したいんだってさ。」
ついでのように言われたそれに、は驚き、次いで、ふにゃりと笑った。
「行く。」



「幸村様、です。」
「うむ、入れ。」
「失礼します。」
「はい旦那。これ団子。・・・一人で全部食べないでよ?」
「うむ!解っておる!」
も。」
「ありがとうございます。」
の返事に主と長は顔を見合わせため息をつく。
きょとりと首を傾げるに二人は苦笑して言った。
。今は某と佐助しかおらぬ。」
「そうそ、昔に戻りなよ。」
その言葉に思わず泣きそうになる。
そして、出会った頃のように柔らかな笑顔を見せる。
「・・・ありがとう。幸村様、佐助。」



穏やかな日、永遠などは無いとわかっていたはずなのに、これが永遠だと思ってしまっていた。


!?!!」

鈍くなっていく思考に、繰り返し呼ばれる、自分の名。
体を流れ落ちていく感覚は確実にあたしを未知なる世界へと導く。
よかった。主を守ることができて。
ごめんなさい。長の手をまた一つ紅に染めてしまった。

感情は止め処なく、懐かしき日々が蘇る。
長に拾われた日。
主に出会ったこと。
長に教わった忍の技。
主に内緒で連れてってもらった城下。
長の困ったようにでも嬉しそうに笑う顔。
二人と一緒に食べたお団子。
二人と一緒に出かけた花見。
初めて人を殺したとき、
ぎゅっと抱きしめててくれた、佐助。
そして、芽生えた小さな心。

戦場にもかかわらず主はあたしを支えた。
長は一瞬にして周りの敵の命を奪った。
そうして覗き込んできた長。
感情を表に出してはいけないと言ってた長の顔が酷く歪んでいる。

始めてみた顔にこんなときなのに笑顔がこぼれた。
「何、笑ってんのさ・・・。。」


あなたに名前を呼ばれるのが好きでした。
あなたの声が好きでした。
あなたの腕の中が好きでした。
あなたの笑顔が好きでした。
あなたの暖かい手が好きでした。
任務の後奪った命にそっとあやまるあなたが好きでした。
あなたが主に振り回されているのを見るのが好きでした。
守るため、命を奪う、忍としては無能だと悲しげに話すあなたが好きでした。
あなたの全てが大好きでした。

この感情はもって行きます。
恋心と言うにはあまりにも純粋なそれは、ただあたしの胸の中だけに。

どうか、どうか、覚えていてください。

あたしと言う人物がいたことを。

どうか、どうか、忘れないでください。

あたしと言う人物を拾ったことを。

どうか、どうか、忘れてください。

言葉の端々に散りばめてしまった、あなたを思うこの気持ちを。

そして、そして、あたしの変わりに主を守ってください。

欲張りなことだと解ってます。

でも、どうか、どうか、未来への約束をここに・・・


「幸村様、幸村様。あの時の願い訂正します。・・・どうか、生まれ変わってもおそばに、あなた様を守れますように。」




(佐助、佐助、大好きでした。今までも、きっとこれからも。もしも再び出会えるのならば、そのときもまた主の傍に・・・。)





__________________________そして、りんねはまわりゆく________________


















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