ドリーム小説







配達ギルドのあれこれ 









「やっぱ、無理でした!超絶に怖い!!!」
「ちょ、お嬢がくっついてくれるのはうれしいんだけどね?」
「鏡になんか映ってるー!!」
「いや、あれ映ってるのお嬢自身よ!?」

ぎゅうぎゅうとくっつく先はレイヴンさん。
耳元で叫ぶ私を引きはがすことなく相づちをくれる。

暗い船内。
ひんやりとした空気。
鏡に映る姿のない魔物。
それらは恐怖の対象でしかない。
先頭を進むユーリさんはどこか楽しげで。
ジュディスさんも新しい扉をあけることが楽しいらしく、生き生きとしている。

そんな二人の後ろをレイヴンさんにくっつきながら歩いていく。
時折止まりそうになる足は、最後尾を歩くラピードによって強制的に前へと進ませられている。

幾度目かの戦闘か。
レイヴンさんは私に気遣ってだろう。
戦闘の時も前にでることはなく、私が一人おいて行かれることもなかった。
先ほどまでは

「あらら、ちょっと数が多いわねぇ」

エンカウントした敵はどうにも数が多く。
レイヴンさんも攻撃に転じて、私の側に誰もいなくなったその瞬間__

耳と目をふさがれる感覚。
咄嗟のそれに、反射神経も何もない私ができることなどなにもなく。
そのまま、ゆるりと、意識は失われた。









大好きな、家族がいる
大切な、友人がいる
暖かい、場所がある

それらは何一つとして、私の中で、過去ではない。

そう、過去では、ないのだ。

どんなに記憶が薄れても
どんなに声が思い出せなくなっても
どんなに表情が浮かばなくなっても

私が、それを過去にしない限り、決して過去には、なり得ないのだ。

だから、私は帰らなくてはならない。
だから、私は見つけなくてはならない。

あの大好きな家族のもとへの帰り方を
あの大切な友人のところへの行き方を
あの暖かな場所への戻り方を

たとえ、手がかりが何もなくても。
たとえ、手がかりがどんな形をしているかもわからなくても。
たとえ、手がかりが悪の道に進まなければ手に入らないとしても。


私は、探し続ける。
それが、今、私にできる精一杯だから。






「、とう、さ・・・・・・」

「およ、お嬢、お目覚めかい?」

暖かな温もり。
安心するそれは、どこか懐かしく。
ゆらゆらと揺れるそれは、どこか揺りかごのように心地よく。

微かに浮上した意識。
同時に向けられた言葉に、ゆっくりと瞼を開く。
目の前には紫。
それからぼさぼさとした髪の毛。

ぼおっとそれを見ていれば、ひょこり、視界のはしに子供の姿。

これは誰だっただろうか。
今は何をしていたのだろうか。
やる気を感じない思考は、巡ってはくれず。
現状把握までたどり着かない。

「配達ギルド、大丈夫??」

視界に入っていた子供が私に訪ねてきた。
幼いのによくできた子だ__ああ、この子は、カロル君、か。

私を背負ってくれているのが、レイヴンさん。
先頭を歩くのはユーリさん。
私と彼らの間にはエステルさんとモルディオさん。
私に声をかけてくれたカロル君のとなりにはパティちゃん。
ゆっくりと視線をやった後ろでは、ラピードとジュディスさん。


ああ、そうか。
ここは、現実だ。
__ここが、今の、現実だ。


「ちょっと、本当に大丈夫なの?」

前を歩いていたモルディオさんの声にゆっくりと口を開いた。

「毎度おおきに、配達ギルドです〜」

「あら大分省略したのね」

後ろからころころとジュディスさんが笑う声。
モルディオさんとカロル君はどこか疲れたようにため息をはいている。

「ため息つくと幸せが逃げるんですよねぇ〜」
「あら、そうなの?おっさん初耳」

ぽろっとこぼした戯れ言。
誰でも、知っていると思っていたそれに、帰ってきたのはレイヴンさんに限らず他の人たちの知らない、という声。

「それ、どこの話です?」

知識欲が刺激されたのか、エステルさんがにこにこと聞いてきた。

「というか配達ギルドってどこ出身なの?」

僕も聞きたい!とカロル君が挙手して。

「それより、あんた何捜してんの?」

モルディオさんがついでに、とばかりに質問をくれた。
たくさんの質問に答える気がないわけじゃないけれど、いささか面倒になってしまって、逆にこちらの質問をぶつけてみた。

「何で私、レイヴンさんの背中にいるんですかねぇ」

とりあえず、現状把握させてください。








配達ギルドと暖かい背中











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