ドリーム小説
配達ギルドとその後の話
「格好いいねぇ」
いつもあげられているぼさぼさ頭は、肩にさらりとおろされて。
ひょうひょうとした雰囲気は、冷静さに取って代わり。
楽しげに揺れる瞳は潜められ、静かにあたりを見回す。
紫ではなく、橙。
それが今、彼が身に纏う色。
フレン騎士団長の就任の儀があるのだと、お姫様に呼ばれて。
参列できない私たちのために儀式を見下ろせるバルコニーに案内されて。
見つけたのは毎日同じ家で過ごしているはずなのに、全く異なる雰囲気を醸し出す彼。
常とは違うその姿は、彼に想いを寄せる身としては、胸を高鳴らせずにはいられないわけで。
ほぅ、と小さく息をつく。
それは、横にいたクリティア族の女性には筒抜けで。
「いつもと違うおじさまに惚れ直しちゃったのかしら?」
「そうですねぇ、いつももかっこいいですけど、よりいっそう素晴らしいですよねぇ」
ころころと笑いながら問いかけられて、へらり、こちらも笑って返す。
「ずっと思っていたのだけれど__あなた、おじさまとの関係、どうなりたいのかしら?」
笑い声が止まったかと思えば、そんな質問。
どう、と聞かれるとなんとも答えにくいのだけれども__
「__なにも、ただ、共にいられればそれ以上なにも望まないんですよねぇ」
あの人が私と共に住むことを選んだ理由は、私に居場所をくれるため。
それはきっと仲間に向ける”すき”と同じ感情で、そこに特別なものは、ないのだろうと、わかっている。
「あら、進展したい、って思わないのかしら?」
進展だなんて、私たちにはふさわしくはない。
「__私にあの人はもったいないですよ。あんなにすてきな人」
私が願うのは、少しで、でもとても欲張りな願い。
「あの人が笑っていて、怒って、泣いて、ちゃんと生きていこうとしてくれているなら、それでいい」
感情を表にさらけ出せるのならば、そんなにうれしいことはない。
「あなたが笑顔にしたいとは、思わないのかしら?」
「私じゃ、役不足ですよ」
眼下で、フレン騎士団長の元にひざまずく橙色。
紆余曲折ありながらも、彼の下でギルドと帝国の中を取り持つ役目を受け入れたその人。
彼の元に姿を現すのは、桃色を纏う美しいお姫様。
そうすれば、ほら、姫君に忠誠を誓う騎士ができあがる。
「あら、そんなことないと思うけれど?控えめなのね」
「控えめ・・・・・・」
あまりにも似合わない言葉に、小さく笑ってしまった。
「違いますよ、私、すごく欲張りですよ?」
「欲張り?」
見下ろした先、堅く閉ざされていた彼の表情が、お姫様のおかげで少しだけ、溶けて柔らかくなる。
私はいつだって、その姿を、その笑顔を__
「だって、私が笑わせるのじゃないのに、他の人に笑顔にしてもらっているあの人のそばに、いたいって。その笑顔を近くで見ていたいって、言ってるんですよ?欲張りでしょう?」
そういう関係じゃなくてもいい。
ただ、あの人が笑える場所に、共にあれれば、それ以上願うことなどないのだ。
「__確かに、それはとても欲張りね」
私の返事に瞳を瞬かせたクリティア族の彼女は、とても柔らかくほほえんだ。
配達ギルドの向ける想い
もういっこ現実的な話をするなら__
「あとは、こんなに一緒にいても手を出してこないなら、私に魅力がないんだと思うんですよね」
私の言葉に、彼女の笑顔は凍り付いたのだけれども。
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本編でぐいぐいいくように見せかけて、実は現状で十分満足なので進む気がない。
というか、今が壊れるのと天秤に掛けたら現状維持で満足。
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「私、おじさまをほめればいいのか、怒ればいいのか、わからないわ」
「ジュディスちゃんなにごと?」
帝都ザーフィス。
さらに詳しく言えば、ザーフィス城の副帝の私室にて。
男性の目を釘付けにするほどにナイスでバディな女性、ジュディスちゃんの言葉に首を傾げる。
フレンちゃんが騎士団長に就任したのは少し前のことだったけれど。
ある意味どさくさに紛れてのそれだったから、きちんとしたお披露目をしてはいなくて。
周りに正式に知らしめるために催されたフレン騎士団長就任の儀。
参加をするつもりはなかった。
ましてや、帝国騎士団に戻るつもりも、全くなかったのだ。
だというのに、俺の命の預け先がそれを許してはくれなかった。
その結果がこれだ。
二度と見に纏うつもりのなかった橙色の甲冑は、待ち望んでいたとばかりに俺の体に当てはまってしって。
そうなれば、もうどうしようもなく。
「おっさん、その格好の時にうざい話し方されると気持ち悪い」
「リタっちひどい!!」
「あんた人の話聞いてた!?」
「リタに言われたくないよね、ラピード」
「ばう」
「なんか言った!?がきんちょ!」
「ちょ、ラピードも同意したでしょ?!」
「ラピードは呆れただけじゃろ?」
「ばう!」
「パティ、羨ましいです・・・・・・!」
「エステリーゼ様、気を落とさずに」
集まっているいつものメンバー。
聞き慣れたやりとりを笑いながら聞いていれば、夜明け前の綺麗な瞳が俺を射抜いた。
「で、ジュディ。どういう意味だ?」
大きくそれていた話をさらりと元に戻す。
さすが青年、信じてた!
おっとりと首を傾けて、ほう、と息をはくジュディスちゃんはこちらもため息をつきたくなるほど美しく。
「あの子に手を出さない忍耐力をほめるか、あの子を不安にさせているのを怒るか、迷うのよ」
ぴしり、空気が、凍った気がした。
俺も笑顔のまま固まった。
あの子__それが誰を指しているか、わからないほど鈍くはない。
けれど、素直に認められるほど俺の心は正直でもなく。
ちびっ子たちの視線をひしひしと感じる。
そちらを見る気はない__絶対見ないからね!
「どういうことだ?ジュディ」
ですよね、青年はつっこむよね!!
「あの子に聞いたのよ、進展しないの?って。そしたら__」
「そしたら、なんです?ジュディス」
わくわくしないでお姫様!
「あの子、私なんかにあんなに素敵な人、もったいない、って言ったのよね」
もったいない、とか
だから、本当に、あの子は
「あらあらおじさま__」
「__おっさん顔真っ赤」
「ゆでたたこよりも赤いのじゃ」
「耳まで赤いね」
「ばう」
わかってる、自分で理解している、だから__
「黙ってくれ」
「都合が悪くなったらシュヴァーンになるの、どうかと思うぜ?__フレン、今おまえの方が階級上だろうが、従うんじゃねえよ」
フレンちゃん優しい。
ちゃんとお口チャックしてくれた。
「素敵です、ね__」
お願い本当に黙ってお姫様。
「で?どうすんだ、おっさん」」
青年の言葉に顔を上げる。
まだ顔はあつい。
「大事に__思ってるんだけどねぇ」
でも、一つ、言うとしたら__
「おっさんなんかに、もったいないでしょ、あんないい女」
俺なんかよりも、ずっと似合いの相手がいるだろうに。
「__おっさんがいい女だと思うってことは、それだけ魅力的なんだな、は」
にやり、口角をあげた青年は、男の俺から見てもひどく扇情的で__
「あ、あの子はあげないからね」
思わずそんな言葉が口からでた。
そんなこと、思う資格なんて、ないというのに。
「おっさんのじゃないんだろ?」
それはそれは楽しそうな表情で、青年はすい、と視線をここではない遠くへ向けた。
一足先に帰った、と俺が住む家の方向へと。
「まあ、あいつがどんなにいい女かは、理解してるけどな」
「青年!」
あの子に届くわけもないというのに、その視線があの子を捕らえてしまいそうに思えて。
思わず青年の前でその視線を蹴散らすように手を振った。
とらないで、そんな子供じみた感情、いい大人である自分がもっていいわけがないのに。
「次あの子が不安そうにしてたら、私が連れて行っちゃおうかしら」
「やめて、ジュディスちゃん!」
「あら、冗談よ」
目がまじめでした!
「今度お話聞きにいきますね」
「あ、あたしも一緒に行くわよ」
「こないで、お願い来ないで・・・・・・」
「ぼくもいく!」
「だめですよ、カロル、女子会ですから」
人の家にきて女子会しないで__
「ほら、ちゃんと捕まえとかねぇと、とっちまうぞ?」
ぺしり、からかうような動作で、青年は俺の額をたたいた。
そろそろ、観念、すべきかなぁ・・・・・・
あの子を縛り付けるのは抵抗があるんだけれど__それでも、手放したくないと思うくらいには、あの子に情がる。
「ちなみにジュディ、忍耐力っての詳しく?」
「同じ家にいても、手を出されないって言ってたわね」
やめて、冷ややかな視線に変わるのやめて!!
「おっさん、枯れてんのか?」
黙って、青年!!
「だって無防備すぎるのよ、あの子!!」
同じ家に住んでいるというのに、無防備すぎるのだ。
シャツ一枚で動き回るし、平気で横で寝てくるし。
起きたときの寝ぼけた声で呼ばれたときなんかはもう__!!
「据え膳くわぬはなんとやら、じゃの」
パティちゃん、にやにやしないで。
「どういう意味?」
「あ、あたしに聞かないでよ!」
「おしえてあげましょうか」
やめてジュディスちゃん!
ちびっこたち、まだ純粋なままでいて!
「フレン?顔が赤いですよ」
「気のせいです、エステリーゼ様」
フレンちゃん気のせいじゃないわよ!顔赤いからね!
「__ちょっと見直したぜ」
青年に肩をたたかれたけれど、なんかもう、お願い、今すぐ家に帰らせて。
あ、でも、今帰るのちょっと怖いかも!!
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でもおそらくこの後もうだうだいって、進展はしない。
だんだんこのままでもいいかな、って互いに思うようになって、事実上夫婦みたいになってればいい。
書きたいこと書ききった気がすごくするので、次の話が浮かばないかぎり、このお話でおしまいです。
おつきあいいただき、ありがとうございました!!
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