ドリーム小説
宵闇 四十五
思えばあの日からもう決壊は始まっていたのかもしれない。
そう、彼女がこの世界に来た瞬間から。
ようやっと自由に動けるようになった体で久方ぶりの朝錬を終え、井戸に向う。
井戸についている滑車を回して水を汲む。
その水で顔を洗おうと桶を覗き込んだとき、
そ こ に は 誰 も い な か っ た 。
「・・・え?」
心臓が早鐘を打つ。
その出来事は一瞬のこと。
はっきり言って見間違い。
そう思えたはずなのに、
再び覗き込めばそこにはちゃんと自分が映っていて。
ほっと息をついた。
いまだに音が止まってくれない心臓。
その辺りをぐっと握る。
だいじょうぶ まだおれは ここにいる
一度強く目をつぶり、開く。
見えるのは豊かな緑。
いつもと同じ風景。
そっと桶に手をいれ、水を掬い上げる。
そうして桶から手を抜いた瞬間、
その水は音もなく桶の中へと戻っていった。
どくり
再び騒ぎ出す心臓。
目が 見ることを拒絶する。
体が 無意識に震えだす。
頭が 考えるのを拒否する。
手があるはずなのに、そこは向こうにある桶を映す。
水を捕らえたその手なのに、そこに何もなかったかのように。
そこにあった自分の手は、
透 け て 見 え た 。
「っつ、あっ、あ___」
声にならない声が、喉から漏れる。
言葉に出来ない感情が、心に溢れる。
手を二三度握る。
そこに感覚は
な い
(どうして?なんで?なにが?おれは、ここにいれない?)
混乱しているはずなのに、頭が考えることは酷く単純で。
たった一つ導き出した答えは、
自分はこれから消えていくということ。
自嘲がもれる。
これはきっと、自分がこの世界から不要とされたのだろう。
彼女のように、みなの役に立つわけでもなく。
ただここにいただけの存在。
(見放されるのも、当然、か。)
一時の恐怖の後に訪れたのは虚無。
これまでこの世界で自身が築いてきたものは、どれも___
がさり
うしろの茂みが揺らぐ。
酷くだるい。
緩慢な動きで振り返る。
「おやまあ・・・こんなところにがいる。」
そこにいた、大事な大事な友人を見た瞬間、視界がぶれた。
(・・・授業前に水でも浴びようかねぇ。)
そう思い手鍬をもち掘っていた穴から出る。
昨日は目がさえてしまって、ろくに寝られなかったのだ。
なので蛸壺を掘ることにしたのだ。
気がつけば朝日が昇っている。
結構な時間この穴の中にいたのだろう。
この時間だと裏の井戸の方が空いているであろう。
その考えからそちらに向ったのに。
そのときの自分を本当にほめてあげたい。
___でなければ、わたしは再び彼女の痛みに気づけぬままだったろうから。
「おやまあ・・・こんなところにがいる。」
その姿を見た瞬間に出た言葉だった。
酷く緩慢な動きで振り向いた。
その顔は虚ろで瞳は虚無
その顔に表情に雰囲気に心が警鐘をならした。
わたしの姿を認識した瞬間、の瞳を水の膜が覆う。
「っ、?」
そんな姿に思わずぎょっとして、慌てて駆け寄る。
今にも消えそうなの手を握った、 はずなのに
わたしの手は
彼 女 の 手 を す り 抜 け た 。
ひとつ、涙を落とすと、彼女はその場から走り去った。
理解が追いつかない
どういうこと?
今、私は確かに彼女の手を___
※※※
始め考えていたのは実はこっちだったり、です。
44からの分岐。
ちなみにこちらにしなかったのは本編で書いた終わり方のほうがしっくりしたのと
こちら書くと書きたいことが書ききれなかったからです。
・・・しょっぱなからどシリアス。
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