ドリーム小説








 宵闇 四十六










触れられた感覚は



 どこにもなかった



暖かいはずのその手は___



その場を逃げ出した。

ただ、喜八郎の姿を見ているのがつらかったから。

木をつたってその場所から離れる。

地面に降り立ったそのとき



ちゃんっ!」



そこにいたのは、一番会いたくない人だった。






「今日もいい天気!」

ぐっと伸びをして、箒を手に取る。

最近の日課にしている、入り口近くの掃除をするためだ。

温かい日差しの下、ゆっくりと起き立ての体を覚ますように動く。


(今日の食堂の朝ご飯は何かな?昨日の夜、おばちゃんがなにか仕込んでたよね。)


そんな他愛ないことを考えていれば、がさり、木の上から誰かが降ってきた。

一瞬、以前のような曲者かと思って体が無意識に固まる。


そしてその場に降り立った人の姿を目に止めて思わず安心の笑みを浮かべその名を呼んだ。



ちゃんっ!」

















ぱたぱたと笑顔で走りよってくるその姿にどうしようもない感情が芽生えた。




___そうか、俺が消えてしまうのは、この子のせいだ。



    この子に、俺の居場所を、とられたんだ。



「どうしたんですか?」

そう言って傾げる姿は本当に愛らしい。

でも今のにとってはそれすらも嫉ましい。


ちゃん?」

何も言わないを不思議そうに見てくる雅。

その視線から逃げるように彼女を視界から外す。


「・・・ねえ、藤堂さん・・・。」


「なんですか?ちゃん。」


柔らかいその声がの心を蝕むようで。


「どうして___」


「え?なんて?」


どうして?

どうしてどうして?

疑問をぶつける子供のように



「どうして、

  あなたはこの世界に来たの?」



そのきれいな瞳を睨みつけた。



「え・・・?」


口元が歪む。

きっとは今酷い顔をしているのだろう。


答えられるはずのない問いを、彼女にぶつける。




「どうして、あなたは、この世界に来たの?」


一字一句、彼女の心に刻むように問いかける。


「そ、れは・・・。」


答えられるはずのないそれなのに答えがないことに苛立つ。



「・・・んで?なんで?この世界に、きたんだっ?」


困惑した顔。


そんなの気にもならなくて。


、ちゃん・・。」


そっと腕に触れてきた手を感覚のない手で思わず捻り上げた。


「っ!?、ちゃ、痛っ!」


「ねえ、どうして?」


どうして、君はこんなにも、もろくて、



「ねえ、どうして?」


どうして、こんなにも折れそうで、



「ねえ、どうして?」


どうして、それなのに、この世界で


「ねえ、どうして?」


どうして この世界でこんなにも明るく



「どうして、」




  あなたは 必要とされているの?




「あなたのせいでっ、俺、はっ、わたしは___っ」



   き え て し ま う の に  



「雅っ!?」

っ!?」



その声がしたと同時に手が離されて。


(痛みなど感じないその手でも、圧迫されるのはわかった。)


「何をしているんだっ!?っ!彼女は一般人だ!お前が全力で捻り上げれば、簡単に折れるのだぞ?!」


文次郎の声がどこか遠くで聞こえる。


っ!どうしたんだ?」


手を掴んでいる声は恐らく仙蔵で。






でもそんなことよりも


    ねえ


掴まれているはずのこの手が何も感じないのは

 
       な ぜ ?



    ねえ



頬を流れるこの冷たい感覚は、



   一  体  何  の  所  為  ?



























※※※
こちらは10話前後で終わる予定・・・だといいな。
うん。











back/ next
戻る