ドリーム小説





宵闇 三郎1
















おかしい、気がする。


その違和感に気づいたのはいつだっただろうか。







襲撃のときより幾分かの時間が流れた。

学園では通常道理授業が行われるようになり委員会活動なども何時も道理。


そう、いろんなことが元道理になろうとしていた。

多少のことをのぞいて。







「今日は学園長が下さった羊羹を食べよう。」

「・・・頂いたって、本当ですか?」

「・・・また盗ってきたんじゃないんですか?」

うららかな午後。

学級委員長委員会の委員会室では四人の人影があった。

羊羹を手にしてにこにこ笑みを浮かべる三郎。

それにじとりとうろんげな目を向ける二人の後輩。

それを苦笑しながら眺める

「それは珍しくも本当に学園長先生が下さったんだよ。」


そんな状況を打破したのはお茶を持って新たに現れた勘右衛門であった。

「勘右衛門先輩!」

「先輩が言うなら本当ですね!」

「まて、それは私が信用ならないということか?」

それにぱあ、と笑みを浮かべて羊羹に近づいた二人の一年生。

三郎の言葉は総無視である。

三郎のいつもがどのようなものなのか大変わかりやすい構図である。


「勘ちゃん先輩お茶入れるの手伝います。」

「ありがとう。」

立ち上がり勘右衛門の手からお盆を受け取って畳に置く。

そうしてお茶をついで他のみんなに配った。


「「ありがとうございます!」」

にぱり嬉しそうに笑った二人に笑い返し三郎に手渡せば微かに目を眇めて笑われた。

「ありがとな、。」

その表情は一瞬で元に戻り代わりに自らの顔を手でおおい、新たな自分を作り出す。

そこにいたのはまごうことなく自分と同じ顔。




ことん



まただ

感じる違和感

心の奥が早く気付けとせかすように



 
 いつもと同じように悪戯をしながら、雷蔵の顔をして見せる。

 かと思えばいつのまにか後輩だったり先輩だったりすぐに面を変えて見せる。



 そしてその中に以前よりもずっとずっと頻度を増した顔があって。



ただ、気がつきたくないのだ。




何かが壊れてしまうような気がして。






「三郎っ、勘右衛門!!」

すぱん

突然開かれて向こうにはぼさぼさの銀色の髪

手には虫取り網を持って。

「はっちゃん?」

「なんだ、はち。また何か逃げたのか?」

「そうなんだっ、すまんっ手伝ってくれっ!!」

ぱんっと音が鳴るほど手を合わせて頭を下げる八左衛門の姿。

それを見て呆れるのは三郎。

やれやれと立ち上がる勘右衛門。

はお茶をかたずけ出して

二人の後輩は座布団などをしまいだす。


「しかたないから手伝ってあげるよ。」


ふわふわ笑いながら言った勘右衛門に八左衛門は向日葵みたいに笑う。


「ありがとな!」


ぞろぞろと八左衛門の後をついて委員会室からでる学級委員長委員会の面々。



最後に部屋を出たは一番に部屋を出たはずの勘右衛門の姿がそこにあることに驚く。

「何か、悩んでることがあるなら聞くよ?」

ふわり優しく笑うものだから、この想いを言わずにはいられなくて。


三郎たちが先に進んでいるのをちらりと見てから勘右衛門と目を合わせ話し出した。




「勘ちゃん先輩、三郎先輩が最近おかしいんです」

「どうしてそう思うの?」

勘右衛門はそんなことないとは言わなくて。

つまりそれは勘右衛門自身もどこかおかしいことに気が付いているということ。

「今まで以上に変装の頻度が上がってます。」

勘右衛門はただ黙って静かに話を促す。

「俺によくなるようになりました。」


今までとてもまねにくいとの顔になったことは本当に少なかった。

するとしても事前に用意をして、他の人よりもずっとずっと慎重だった。


けれども今は違う。


すぐに顔を変えて

その中にという存在も含まれていて。

たったそれだけのことなのに。



それは何処となく恐ろしいことのように思えて。





勘右衛門の表情はとても柔らかくて。

でも何処となく悲しげで。

「この前の襲撃は良くも悪く影響を与えた。」

訥々と話される言葉。

脳裏によぎる悪夢のような一夜。

勘右衛門はそっとから視線を外して三郎たちの行った方向を見据えた。


はもっと力を、強さを手に入れるため鍛練をさらにするようになった。」

「委員会で言えば作法はもっと実用的な罠の張り方を学ぶようになったし、体育委員では七松先輩が後輩たちに様々な抜け道を、様々な技術を教えている。」

それらははじめて聞くことで。

「そして、三郎もまた___」

再びに向けられた視線はまっすぐとを射抜く。


「すごいね、は。三郎のあれにすぐに気がついた。俺たち五年も、雷蔵でさえも違和感の正体にはなかなか気付けなかったのに。」

ふにゃり

先ほどと同じ笑み。

でも、その裏にある表情は読めなくて。


「きっとは三郎のことをとてもよく見てるんだね。」


  三郎のことをとてもよく見てるんだね


その言葉に、なぜか体が熱くなるのを感じた。

「ねえ、。お願いがあるんだ。」

「なん、ですか・・・?」

顔の熱を冷まそうとはたはたと顔を仰げば真剣な顔の勘右衛門。


「三郎のことをこれからも見ていてほしい。」

「俺たちだけじゃどうにもならないことがあるんだ」

「俺たちだけじゃできないことがあるんだ」

「だから___」

「もちろんですよ。言われたからではなくて、俺は三郎先輩が大好きですから。だから、ずっと見てるんです。」


そう言えば目の前の勘右衛門がすごく驚いたように目を見開いた。

自分ではおかしいことを言ったつもりはなく首をかしげながらもう一度言葉を辿る。



   俺は三郎先輩が大好きですから。だから、ずっと見てるんです。

        俺は
           三郎先輩が
                 大好きですから


その言葉にたどり着いた時、ばふん、と顔から煙が出るくらいに体温が上がったのがわかった。

「っ、せんぱ、これはっまったくそういう意味ではなくてですね、ですからその先輩後輩としての好きといいますか、とりあえずそのですねっ」

くすくす笑われてしまえばなすすべなく。

恥ずかしさで死んでしまいそうになった。

別に異性として好きだとかそう言う意味がないわけではないけれど、それがほかの好きとどれほど違うのかわからないわけで


頭の中でいいわけは山のように飛び交うけれどなんだか言い訳にもなっていないそれはくるグル頭の中をめぐって。





ぽんと優しく頭にのせられた手。

勘右衛門のものだとわかっているが顔が赤いのが自分でもわかるので顔を上げることができずそのままで話を聞く。


「ありがとう。」

「三郎のことをお願い。」

「三郎がこの場所にいる間はせめて温かな時をすごせるように」


くしゃり撫でられたそれになぜか涙が出そうになった。




















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