ドリーム小説
宵闇 三郎12
「三郎先輩」
居心地の悪い空気の中先に口を開いたのはであった。
なんていおう、どういおう
そんな混乱に陥っていたのにの声を聞いたとたん落ち着いた自分がいた。
仮面越しに顔を向ければふわり笑む。
どくん
それにどうしようもなく胸が高鳴った。
ああ、もう本当に手遅れだ。
そんなことを思いながら先を促すように目を見つめれば眩しげに眼を眇めるのがわかった。
「三郎先輩」
呼ばれた自分の名前がこんなにも甘さを含むものだとは思わなかった。
その口からこぼれるだけでこんなにも世界が鮮やかに見えるとは知らなかった。
「俺は三郎先輩のこと、大好きです。」
その唇からこぼれたのは愛の言葉。
あの時私がさんざん引きちぎった言葉達。
「たとえ先輩が嘘だとののしろうと」
柔らかく柔らかく溶ける心の枷
「たとえ先輩が必要ないと言おうと」
温かく温かく解されていく感情の波
「たとえ先輩が迷惑だと顔をしかめようと」
心の奥から叫ぶように生まれた
「俺は三郎先輩のことが、大好きです。」
声
「、」
名を呼んで
手をつかんで
引き寄せて
きしむほど強く抱きしめて。
耳元で何度も何度も名前を呼ぶ
消えぬように
失わぬように
「、」
「はい、三郎先輩」
返事があることがこんなにも嬉しいことだとは。
「すまなかった。」
謝っても謝っても意味がないことなのはわかっている。
それでも、それでも言わずにはいられない。
そして、まだ言うわけにはいかない言葉。
「私はここを出れば忍びになる」
「闇の世界で生きて行く」
「それでも、その場所にお前がいればと思うのだ」
ぐっと力をさらに強めて。
背中に回った腕が微かに服を握った。
「なあ、。」
「私は先に卒業する。
私を追いかけて来てくれるか?
私を見つけてくれるか?」
そういってそっと顔をのぞきこめば赤い顔。
そのままふにゃり嬉しそうに笑って泣きそうに話した。
「俺だってすぐに卒業します。」
「ずっと追いかけます。」
「絶対に見つけます。」
それらの言葉は胸に波紋となって広がって。
「三郎先輩、俺からもお願い。」
「俺の顔にならないで。」
「俺を記憶だけの存在にしないで」
控え目にそっと告げられた言葉達。
大丈夫もうお前になりはしない。
もう記憶として刻み込みはしない。
だってお前はここにいる。
なくすことは恐ろしい
手に入れた後が怖い
でも、手に入れるまでにもっと私は強くなろう。
君を守れるように
君と共に歩めるように
君が私を見つけてくれるというならば
何も怖いものなどないのだから
愛している
※※※
三郎編終了
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