ドリーム小説
無色透明 19
脱出を無事果たして、進んでいた海の上。
けれど、ガレーラの船が見えた瞬間、メリーは力つきたように傾いで。
「おい、何だ、どうしたんだ急に!」
ルフィさんの叫び。
「・・・急にもなにも・・・!これが当然なんじゃねぇのか!!」
発信源のコックさんへ視線が集まる。
「メリーはも二度と走れねえと断定されてた船だ。忘れたわけじゃねぇだろ」
サンジさんの言葉に、息をのむ皆。
触れた手すりの先、メリーがかすかに声をだす。
___ごめんね、、限界みたいだ___
ぞわりと、した。
別れが近づいているのを、わかってはいたのに。
理解してた、はずなのに。
心の準備なんか、できていなくって。
「や、だよ、メリー」
小さな声でのつぶやきに、メリーはそれでも小さく笑う。
___後を、僕の代わりに皆を、よろしくね___
さらに大きく傾いでいくメリー。
縋るように触れるけれど、彼はただ、笑うだけで。
アイスバーグさんに必死で助けを求めるルフィさんの声だけが、むなしく響く。
皆、心のどこかでわかってしまってたんだ。
メリーとはここでお別れなのだと。
だからこそ、ルフィさんのように叫べはしなくて。
それでも、ルフィさんの言葉が彼らの言葉で。
「だったら、もう・・・眠らせてやれ。」
響く、静かな声。
さとすようにもたらされた言葉はさよならへの布石。
ルフィさんの拳が強く握られた。
「俺はいま、奇跡を見てる」
噛みしめるようにつぶやかれる言葉たち
「もう、限界なんかとうにこえてる船の奇跡を」
アイスバーグさんの言葉は、じわりじわり、心臓に染みていく。
「長年船大工をやってるが、俺はこんなにすごい海賊船を見たことがない」
彼らの今までを、メリーのあり方を、全部ひっくるめて肯定するようなそれに___
「見事な生きざまだった」
「___わかった」
ルフィさんはうなずいた
___その言葉は、彼の胸にどれほどの鈍い痛みを与えたのだろう
___その言葉を発した背中は痛みもつらさも全部背負っているのだろう
___それでも、その姿は確かに、船長を名乗るに値するものであった。
ガレーラの船に乗り直して。
ゆっくりと、ルフィさんが炎を掲げた。
照らされるメリーの表情はどこか穏やかで。
「じゃ、いいか、みんな」
響く同意の声
「メリー、海底は暗くて淋しいからな、俺たちが見届ける!!」
メリーの白い船体が、傷だらけのその船がゆっくりと炎に包まれていく
「長い間俺たちを乗せてくれてありがとう、メリー号」
ルフィさんがメリーに言葉を伝えた瞬間。
ふわり、白いなにかが、記憶のかけらのように降り注いだ
___ごめんね___
聞こえてきたのはどこか幼さの残る、メリーの声。
___もっとみんなを遠くまで運んであげたかった___
淡く滲む世界の中、まるで偽物のような空間の中で
息をのんだのはだれだったのか。
さよならの、色の中
ぼとり、こぼれた滴は自分じゃ止められないもので。
ただ、頬を伝う滴の冷たさだけが現実だと示す
___ごめんね、ずっと一緒に冒険したかった。___
メリー違うよ、違うんだよ。
ほしいのは謝罪の言葉じゃないんだ。
あなたの、そんな言葉はいらない。
「ごめんっつうなら俺たちのほうだメリー!」
叫ぶルフィさんの言葉。
それは滲んで、ひどく聞き取りにくくて。
「俺舵下手だからよー!おまえを氷山にぶつけたりよー!帆も破ったことあるしよー!!」
それでも、メリーにまっすぐに向けられる、本当の想い。
「ゾロもサンジもアホだからいろんな門壊すしよ!」
ごめんも、ありがとうも、全部全部、こちらが言わなきゃいけないのだと。
「そのたんびにウソップが直すんだけど、ヘタクソでよぉ!!」
最後まで一緒にいれなくてごめん、最後まで共にあれなくてすまない。
精一杯の言葉を尽くして。
目一杯の想いを紡いで。
「ごめんんっつーなら___」
___だけどぼくは、幸せだった___
響く、響く、それは奇跡のように
___今まで大切にしてくれて、どうもありがとう___
滲む、滲む、それは魔法のように
___ぼくはほんとうに、しあわせだった___
放たれた言葉は、想いは、世界に優しく染み渡る。
泣き声に反するように、メリーはやっぱり笑っていた。
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