ドリーム小説
無色透明 20
___ごめんね、、限界みたいだ___
幼い声はいまも耳に響く
___後を、僕の代わりに皆を、よろしくね___
託された願いは、重く足枷にもにて。
けれど、同時に私の足を一歩引きだしたんだ。
「ゾロさん」
アクアラグナの爪痕が残る場所で、彼は一振りの折れた刀を眺めていた。
その背中に声をかければ、気がついていたのだろう。
ゆるり、向けられる視線。
「どうした」
厭うわけでもなく、煩わしく顔をしかめるわけでもなく。
ただ彼はそのまっすぐな瞳で私をみた。
いつだって、その瞳が私に向ける感情は警戒だった。
私の本意を計るように。
私の心を見透かすように。
偽ることを許しはしない、と。
なのに、今、彼の瞳には、しっかりと私が映っている。
それはまるで私を認めてくれたかのように、思えて。
「___ナミたちのところにいなくていいのか?」
質問に答えなかった私に、彼は別の質問をくれた。
「あの場所で、今、自分ができることを、見つけられなかったんです」
彼に近づくことはせず、小さくつぶやいた言葉は、それでもしっかりと彼に届いたようで。
形のよい眉がひそめられる。
「サンジさんみたいに、料理はできないし」
眠りながらご飯を食べるという驚くほどの食への執念を見せつけたルフィさん。
そんな彼にサンジさんは次々と料理を作り上げていって。
「ナミさんみたいに、海図をかけるわけでもないし」
これからどうしよう。
そういって机にうなだれながらも、手元には紙や筆記具が広げられていて。
そこに私が介入できそうな空間は、なくて。
だからこそ、一人で外にでた。
そして、その先で、この人に出会った。
がしがしと頭をかいて、彼はため息を一つ。
「ずっと思ってたんだがな」
腰掛けていた瓦礫から飛び降りて
「なにをそんなに必死になる?」
剣を腰になおしながら一歩前へ
「常に自分ができることを探さねえと息苦しいみてえに」
私との距離を詰めていく
「お前は、海賊だろ?」
人一人分の距離をあけて、彼は止まった。
「お前の生きてえように、生きりゃいいんだ。」
大きな手のひらが、私にのばされて。
「やらなきゃならねえことは向こうから勝手にやってくる」
頭への温もり、そして___
「わからねえことは、わかる奴に聞きゃいいんだ。」
不器用な、剣だこだらけのその手は、がしがしと無遠慮に私の頭をかき混ぜて。
私のなかにわだかまっていた感情を、あっさりとときほぐした
「・・・いいん、ですか?」
滲む世界の中、絞り出した声はひどくふるえて、みっともなくて。
「なにもできないわたしでも、」
ふるえるままに見据えた緑。
「こんな、私でも一緒にいても」
小さな言葉は、覇気のないまま彼に届く。
ぐしゃり、再度混ぜられた頭。
ぐわりぐわり、揺れる景色の中、彼がかすかに口角をあげた。
「むしろだれが言った?お前をいらないなんて。」
ぐ、と後頭部を押さえられて、視界には地面しか映らなくなった。
「心配なんだったら、ほかの奴にも聞いてみればいい。」
耳元でつぶやかれたその言葉。
「まあなにより、あの船長がお前を手放すわけがねぇがな」
無愛想なこの人は、あの船のことを、破天荒な船長のことを、よく知っていて、理解、していて。
その間にある絆を、素直に、うらやましいと、感じさせた。
と、
「・・・海軍」
舌打ち、後つぶやかれた単語。
それは、海賊と相反するもの。
顔を上げれば、彼の瞳は海へ。
鋭く見据えるのはそこに浮かぶ船
「ルフィに知らせるぞ!」
そう言って走り出したのは___
「ゾロさん、逆、逆です!そっちじゃない!!」
あわてて声を上げれば、急ブレーキ、後、反転。
でもそっちじゃない。
「っ、私が先導しますのでついてきてくださ、だから、そっちじゃないって!!」
なぜ、前を歩いているのにそっちにいく!!
違う方向に向いたままの彼の腕をつかんで、足を一歩、前へ。
できることなんてわからない。
わからないなら探さなくてもいい。
その言葉は私の感情を優しく押さえて。
やらなきゃならないことは向こうからやってくる。
その言葉の通り、私が今やらなきゃいけないのは___
「迷子のゾロさんを、ちゃんとつれて帰りますから!」
あの船長のところへ、この剣士をつれていくこと。
※※※※
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