ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 11
ジェイドさんの用事がおわれば、共にグランコクマへ向かう。
話し合いの結果生み出された未来。
それはこの物語の先に、少しでも色を与えてくれるのだろうか。
「!」
呼ばれた名前に振り向けば緋色の髪。
明るい笑み
楽しそうな表情
彼は今、今を確かに生きている。
「ちょっと作ってほしいもんがあんだけど」
少しだけ照れくさそうに、それでもしっかりとこちらを見て言葉を紡ぐルーク。
それに凝り固まっていた思考が、ふわり、ほどけていく気がした。
この子に、悲しんで欲しくはない
この子に、泣いて欲しくはない
ゆるり、ほどけた思考がたどり着いたのは、この子に笑っていてほしいという考え。
この子には、この世界で、生きて、ほしいと。
少しでも、彼にとってこの世界が、やさしくあってくれたならば。
少しでも、彼にとってこの世界が、生きやすくあってくれたならば。
どうか、この子がこの子でいられるような、そんな世界であってほしい。
私が持っている記憶というのはとても曖昧だ。
「これから」起こるであろうこと。
アクゼリュスの崩壊
原因は外見だけが大人になってしまった幼子
戦争の始まり
きっかけは王位継承者の行方不明
預言の消失
それでもなお、指針を求める人々
障気の放出
それを止める方法は幼子の命と引き替えで。
画面の向こう、夢物語であったはずの世界
それは彼らに出会ってから少しずつ現実味を帯びてきて。
彼らに出会う、そのときまでは、何も思わなかった。
作られた物語である世界。
介入する気も何もなく、ただ、死んだらそのとき、そう思っていた。
でも、彼らに出会ってしまった。
この世界で確かに息をする温もりを持った人たちを知ってしまった。
ああ、私は、この物語に関わるのが怖かったんだ。
いずれ死んでしまう存在に出会うことが。
知っている未来が、起こってしまうことが。
愛しい、愛しい、この世界が、ゆっくりと崩壊していくのを、ただ見ているだけのはずだった。
ルークという幼い少年が引き起こす大惨事。
それは、私ごときには止められもしないもの。
それでも、その世界に、私は存在していて。
これから起こる、いくつもの真実。
それは私一人の異分子などものともせず突き進むのだろう
ならばその異分子は異分子なりに抵抗してみようじゃないか。
目の前にある助けられるはずの命を、そのままにしておきたくなんかはない。
数少ない、私にできること。
この頭には、両親から受け継いだ多くの薬草の知識がある。
この手には、様々な薬を作り出せる技術がある。
なにもできないわけじゃない。
「聞いてんのかよ、!」
思考を破る、ルークの声。
そこには不満そうに、でもどこか心配そうな表情を浮かべる姿があって。
「聞いてるよ、ルーク。お母さんに薬を煎じてほしいんだよね?」
ルークを想って倒れた人が、少しでも元気になれるようにと。
「・・・作ってくれんのか?」
ああ、彼は今だってこんなにもやさしい。
その表し方が、接し方がわからない、それだけで。
紅いその髪をくしゃり、撫でてやれば恥ずかしそうにでも、うれしそうに小さく彼は笑った。
「もちろんだよ、ルーク」
私は、彼に、ルークに、生きていて、欲しい
back/
next
戻る