ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 12









「あ」

「・・・」

バチカルにて、薬を店に卸して。
さてさて、ジェイドさんと合流するそのときまで時間をつぶそうか。
そう思っていたそのときに視界の端をよぎった鮮やかな緑。
思わず向けた視線の先にいたのは仮面の少年で。
口をついてでた音は、微かだったにも関わらず確かにその少年に届いて。
ゆるり、彼が足を私へと進める。
まっすぐに、仮面越しだというのに強く感じる視線。
その強さを示すかのように、腕が、きつく、捕まれて。
ぎちり、と腕が悲鳴を上げた。

「っ、痛いんですが・・・!」

「・・・」

無反応ですか!
じっと言葉を話さずに彼は踵を返した。
私の腕を持ったままで、だ。

「え、ちょ、何ですか?何なんですか!?」

「・・・。ヴァンがアンタを邪魔だとさ。だから連れていくよ」

返ってきた答えは想像もしなかったもの。
同時に脳裏に浮かぶのはあの男。
彼の言葉に返した想いは何一つ嘘ではない。
けれどもそれはあの男にとって邪魔な、排除すべきものと判断を受けたようで。

「えー・・・これから用事があったりするんですが、それは全部キャンセルですか・・・?」

「あきらめなよ。僕は別にアンタなんてどうでもいいけど。逃げ出すなら殺せと言われてるからね」

「はあ・・・。まあ仕方ないか・・・。ところでお名前をお聞きしても?名前もしらない人についていってはいけませんって言われてるもんで」

「・・・シンク」

「そうですか。どうぞよろしくですね、シンクさん」

「そんな呼び方しないでくれる?・・・気持ち悪い」

「じゃあシンク。私はです、よろしく〜」

返事はなく、代わりとばかりにため息を返された。
ひどい。
まあ捕まれた手が先ほどよりも緩やかなものになったのでよしとしておきたい。



連れていかれて閉じこめられて、早・・・何時間だろうか。
鞄は取り上げられていなかったので、暇つぶしとばかりにごりごりと薬を煎じる。
と、突如開かれた扉。

?!」

その先にいた人物が驚きの声を上げて。
見ればそこには緑の髪に柔らかな表情を持つイオンの姿。
ぱたぱたと走りよってきた彼は私の体中をぺたぺたとさわって無事を確認する。
怪我はしてないか、どうしてここにいるのか、問われたそれに素直に返せばかわいい顔が微かにゆがんで。

「どうして、を・・・?」

先ほどとは違う、導師としての顔。
それは幼いながらも確かに指導者の姿で。
イオンがまっすぐに私を見据える。
きれいな色を、携えた瞳で。

、なにかヴァンに何かしましたか?」

その問の答えを、私は持っていない。
私は戦うこともできないただの一般人だ。
人よりも少し、薬学に長けている、それだけの。
それでも、あの男が私を邪魔だと認識した
それだけが真実で。
ぐっと眉を寄せて考え込むイオン。
ああ、そんな風に私なんかのことで悩んでほしくなんて、ないのに。

「イオン。あーん」

私の声にぱちくりと瞳を瞬かせるイオン。
それでも、私の声に従うようにそっと口を開けてくれて。
そっとその舌に乗せるのは甘い甘いキャンディー。

「甘い・・・」

ころり、音を立てたそれに、ふわり、イオンの表情が和らいで。
どうか、笑って。
柔らかく、いつもみたいに暖かく。
疲労回復効果も含んだそれが、少しでもイオンの苦しみを和らげてくれますように。

「イオン、これも持っていって?」

イオンに差し出すのはいくつかの薬。
甘い甘い、それらはまだ効果は薄いけれど音素を結びつける効果を含ませていて。

どうか、残酷な未来が少しでも明るくなりますように。

確か、この後イオンは再びあの力を使わなければいけなかったはずだから。

「それから、これも」

障気中和作用を持ついつもの薬を、少し多めに渡して。
これからに備えるように。
どうか、私という存在があることで、少しでも未来が変わりますように。

残酷な世界が、優しい色を帯びますように
















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