ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 14
部屋から突如として吹き出した煙。
それに気がついた兵士達が部屋にはいってきた瞬間、地面に倒れ伏す。
どうやら鎧に包まれた体にもそれは効くようだ。
口元を服で隠しながら、安堵の息をもらした。
このままここにいてもイオンは帰ってこなかったような気がする。
そしてシンク達がいない今しか逃げられるときはなくて。
逃げたらどうなるか、その脅しはとんでもなく怖いけれども、今それに屈してしまうほど私は素直ではないので。
鞄に残っていた薬草たちにちょっと危ない調合をして、そのまま爆発させれば睡眠効果を多分に含んだものができあがるのだ。
そうして思いの外簡単に外への脱出は成功。
その足で向かう、障気にあふれた街。
紫がかったその空気はすでに多分の毒を含む。
私にできること。
障気中和の薬は役立つだろう。
けれどもどうしても消滅の衝撃は防ぐことはできなくて。
「・・・?」
街へと足を踏み入れて。
どうしようかと立ち止まっていれば不意に呼ばれた名前。
振り向けば、そこには一人のキムラスカ兵の姿。
身につけるものが彼の階級の高さを示して。
ふわり、風に揺れる青色の短髪。
目つきの悪い瞳がまっすぐに私を射ぬく。
私よりもずっと高い背をもつ青年。
じわり、浮かんだのは幼き頃今は亡き街で共に過ごした少年。
__
呼ばれた名前が記憶の中で交わって、
記憶の中の彼が、目の前の、彼に、同化した。
「ク、レイ・・・?」
口をついてでたその名前。
その瞬間温もりが体中に広がって。
「、お前、生きて・・・!」
私を抱きしめるその腕の強さが、彼の思いを示すよう。
大事な大事な、幼なじみ。
あまり口数は多くなかったけれど、いつでも私を見守っていてくれた、大事な友。
幼き頃の私を、作りあげていた、掛け替えのない欠片。
最後にあったのはもう何年も前。
私があの日、あの街を出発する前日が最後の邂逅だった。
死んだ、と、思っていた。
あの場所で、生き延びることなど、ないと。
「、、」
確かめるように呼ばれる名前。
「クレイ、も生きてたんだ」
ぎゅうぎゅうと強くなる力に抵抗などできるはずもなく。
「このばか。生きてるならさっさと俺に会いに来い」
小さな声でささやかれたそれ。
幼き頃から素直さをどこかにおいてきてしまっていた彼の、精一杯の言葉。
「っ、ごめん、クレイ」
同じようにその背中に腕を回して、記憶よりもずっとずっと大きくなった彼にすがりついた。
けほり
乾いた咳があたりに響いた。
慌てて距離をとってクレイを見れば小さく咳込んでいて。
同時に紫色の障気があたりに充満していることを思い出して、懐から煎じたばかりの薬を取り出す。
「クレイ。これ食べて」
てい、と口の中に放り込んだキャンディ。
作ってそんなに時間はたっていないから効果は結構高いはずだ。
きょとんとした顔で、それでもしっかりとクレイはそれを口にした。
「障気を中和してくれるから。・・・クレイ、何でここに?」
そういえば、そう思い問えばゆるり、その瞳が瞬いた。
「キムラスカ軍所属第二師団師団長クレイ・ミリアル」
キムラスカの敬礼の形を取り、ゆうるり、瞳がすがめられた。
「先遣隊として、ここにいる」
思いもかけないその再会。
それは私にとって一つの光となった。
薬は、ある。
ないのは彼らをここか脱出させる手段と権力。
「クレイ、お願い。私を信じて」
足りなかったものが、今、見つかった。
※※※
先遣隊云々については大分捏造はいってますね、はい。
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