ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 15









「ここにいれば、みんな、みんな死んでしまうから」

お願い、今すぐにここから、住民達を連れ出して。
私の言葉を疑うことなどなく、すぐさま行動をしてくれたクレイ。
彼のおかげで障気であふれるアクゼリュスに居た住民はすぐに街の外へと連れ出されて。
少しばかり距離をとったところに新たに拠点を作り上げて住民達の一時避難場所をもうけることができた。
すぐさま煎じた薬を住民達に渡して。

けれども、全てがうまくいく、そんなことはない、わけで。

「主席総長殿、こちらにどのようなご用件で?」

病人を寝かせたテントの中まで聞こえてきた固い声。
それはクレイのもの。
主席総長
その言葉で浮かべる人物は一人だけで。

「ヴァンさん」

ゆっくりと、テントの中から姿を現せばどこか驚いたような、けれども納得をしたような表情を浮かべる男。

、やはりお前は私の邪魔にしかならないようだな」

瞬時、きらめいた刃の軌跡。
あっさりと私を切り刻むかに見えたそれは、しかしながら別の刃に阻まれて。

「あなたも先遣隊の一員でしょう?なにがあるのかは知りませんが、___に刃を向けるというならば黙ってはいられない」

あのころ小さかった幼なじみの背中は、会わなかった年月の間に大きく、広くなっていた。

「クレイ!」

キンキンと響く剣のぶつかる音。
それはクレイとヴァンさんのもので。

「主席総長殿に実際にお相手していただけるとは至極光栄」

「こちらこそ、キムラスカ軍にて名高いクレイ殿と剣をあわせられること、嬉しく思っておりますよ」

向けられる口調とは裏腹に、剣劇は強く。
視線は相手を今にも射殺さんばかりで。
ああ、だめだ、よ、だめだよ、クレイ。
その剣は、私なんかを守るために使ってはいけない。
その剣が守るのは、クレイの後ろにいるのは何千人、何万人ものキムラスカの民。

わたしなんかのために、あっていいものではない

「ヴァンデスデルカ・ムスト・フォンデ」

記憶の片隅、
あやふやにもほどがあるその名前。
それでもその名前は、彼を止める一つになって。

「・・・その名前を知っているのか」

ゆるり、向けられた視線は鋭く、足がすくむ。
クレイが油断なく構えつつもこちらに意識を向けてきて。

「私は、今あなたがやろうとしていること、これからしようとしていること、全部知っています」

鋭い視線はそのままに、先を促すように瞬いた。

「一度、全てを見たことがあるから」

その言葉に彼は訝しげな表情へと変化する。
それでもその意味を、話すつもりはなく。

「本当は関わるつもりなんてなかった」

「でも、あの子達に、あの人達に会ってしまったから」

「世界を守りたいなんて、思わないけれど、せめて身近なあの人達は守りたいんだ」

だから

「私の存在は、これから先のあなたにとって邪魔にしかならないと、宣言しましょう」

ゆらり、揺れる、彼の人の瞳。
ほとんどがはったりだ。
覚えていることなんて、本当にわずかで。
彼の邪魔なんて、できるはずがない。

それでも、私が今、目の前を守れる方法は、これしかないんだ。

「ここの人たちに、先遣隊に手を出さないでいただきたい。代わりに、私はあなたに殺されてあげましょう」

!?」

クレイの声を聞かぬふりをして、言葉を続ける。

「薬学しか持たない私を、その刃で切り伏せればいいんです。簡単でしょう?」

「今この場で私が全てを切り捨てれば、そんな条件のむ必要はないのでは?」

どこか、楽しそうに、愉快そうに、あざ笑うように彼は言葉を紡ぐ。
それは確かに本当で、何一つ間違いではなくて。
あとは私の言葉次第。

「確かにそうですね。でも、今戦っていただいたとおり、他の兵士達はともかく、クレイは手強いかと」

それに答えるかのようにクレイは私の前へと、私と彼の間を遮るように立ちはだかる。

「___その間にも、彼らはアクゼリュスに近づく」

私の言葉に、彼はすっと視線を鋭く変えて。

「あなたにも、私にも、あまり時間はないはずです」

「わかって、いただけますね?」

「___どうやら知っているというのは本当らしいな。けれども、今から起こることを止めることはしないのか?」

「自分にできる範囲のことしか、私はできませんから。分はわきまえていますよ」

この世界中の人を救うなんてできない。
この町に住む住民たちを助けるだけで精一杯。
崩壊を止めるなんて、そんなこと私には不可能。
それがあの子が犯す罪となっても、
それを防ぐ手段なんか、今の私は持たないから。

ただ、少しでもその罪が、その罰が、軽くあるように。
今、一番つらいであろうあの幼子を、想う
どうかどうか、壊れてしまわないで。
どうかどうか、仲間を見失わないで。
一番つらいであろう今に、一緒にいれなくて、ごめんなさい。
沈黙の後、ため息と共にではあっても、うなずかれたのは確かで。
少しだけ胸をなで下ろす。
・・・ちらり、みた、クレイの顔が非常に怖いことになっているのは見なかったことにする。

「___今一度問おう。手を組む気は?」

なおも、手を伸ばせと叫ぶその人は、どうしてこんなにも優しいのだろうか。
けれども、何度訪ねられたところで、手を伸ばされたところで、それをつかむことは、私にはできない。

「あなたが預言を嫌う理由も、意味も、理解はできるけれど、私はそれを受け入れたくはない」

「預言だけで生きている人たちばかりではない。現に、私は預言を呼んでもらったことなんて、ない。そんな人、世界にいくらでもいるでしょう。あなたが知らないだけで。多人数のために少人数を切り捨てるそのやり方は間違っているとは思いませんが、それでも、少人数を気にもかけない考えを認めたくはない」

私は、私だ。
決められた筋道を、ただ辿るだけの生など、何の価値もない。
たとえ、作られたであろう物語の筋道だろうと、私の存在はそこには存在しないのだから。

「預言に縛られない世界を求めて、一番預言に縛られているのは、他でもないあなたでしょう?」

ざわり

あたりに立ちこめる、これを殺気と呼ぶのだろう。
ぞくりとする背筋を、ふるえる足を、必死でなだめて立ち続ける。

「あなたの知らない世界を、預言のない世界を、私は知っている」

「その世界で生きる人たちのことを。だからこそ、この世界だってそうなれる、私はそう信じていますよ」

「劇薬だけが全てじゃない」

ゆるり、再びかざされた刃。
それから庇うように立つクレイの背にそっと、ふれる。

「クレイ、私を守らないで」

あなたの生は、私の希望。

「クレイ、ありがとう」

二度とあえないかもしれない、そんなこと思いたくはないけれど。

「あなたの剣は、あなたの国の民を守るために使ってね、大好きだよ」

ふわり、笑って。
距離をとって、そうして背を向けて、全力で、走り出した。

!?」

「殺されてあげてもいいですが、それは全力の抵抗が終わった後でお願いします!!」

「キムラスカ兵はもういい、を、捕まえろ!無理なら殺してもかまわん」

「お前っ、」

「お前が生きているその理由を、はき違えるな」

後ろで交わされる声など耳に届かぬまま、ただ後ろから聞こえる甲冑のすれる音から逃げることに必死だった。






※※※※
おかしい、アクゼリュス前後のルークを助けたかったはずなのに、気がついたらこの夢主別行動してるよ・・・。
あとクレイはホド出身ですが小さい頃はインドアな性格だったため他のホド出身者との面識ないです。





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