ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 18









走る走る、世界を。
あの刃から、自分を生かすために。
この場所で息を止めるわけにはいかない。
この世界で、まだ私にできることがある、そのうちは。



満身創痍。
ただ逃げ足しか自信がなかったというのに、よくもまああんな喧嘩をふっかけられたものだ。
痛みの走るからだで、乱れた呼吸で思うこと。
中和薬のおかげで障気にふさがれた道を走り抜けることができ、何とか無事にマルクトへと脱出を成功させた。
けれどもまあ向こうも簡単にあきらめるわけもなく、追撃は続く。
体力値、精神値、共に限界を訴える体。
思考回路は残念ながらまともに働かず。
迫る刃におびえて、ただ、足だけが勝手に動く。
ふらり、世界が揺れて、
体に熱が走って
視界が倒れていく
そして
視界の端をよぎった、蒼。
それは確かに見知った色で。
小さく記憶に訴えかかる、その人は___

そこから先、ぷつりと切れた思考は、駆け寄ってきた蒼色も、ふれた温もりすら、認識できなかった。






回復した思考回路。
それを持ってしても、今の状態は理解できず。
窓の外、広がる蒼。
その色は、確かにとある国の首都にふさわしい色で。

「・・・グランコクマ?」

「目が覚めましたか?」

小さくつぶやいた疑問は、誰もいない部屋に落ちる、はずだったのに。
聞こえた声。
それは確かに同じ部屋からで。
ゆるり、向けた視線の先、ふわり、笑う銀髪の姿。
だというのに向けられる視線の強さに背筋は凍りそうになる。

「私はマルクト軍少将アスラン・フリングス。気分はどうですか?」

「助けていただいてありがとうございます。私はともうします。薬をせんじることを、生業にしています」

そうですか、そう合図値を打ちながら彼は一歩、私に近づく。

「マルクト軍の前に突然飛び出してきたときは驚きました」

きしり、小さく音が鳴る。
それは彼が私の横たわっていたベットに腰をかけた音で。

「満身創痍。さらには後ろにダアトの兵を連れて」

ゆるり、あげられた彼の手は、するり、私の頬をなでる寸前で、止まる。

「何の目的で、この国に近づいたのですか?」

少しだって動くことを許さぬように。
逃げる場所を塞ぐように彼は言葉を紡ぐ。
今ここにない鞄も、服も、十中八九彼に、没収されたのであろう。
だって、彼はこの国を、この国の王を守るその一人なのだから。
この国にきたのはもちろん、逃げるため。
そしてもう一つ、理由を挙げるとするならば。

__

瞼の裏、蒼い軍服がはためく。
あまいろのきれいな髪が、風に揺れる。
赤い赤い、こちらの全てを見透かす瞳が、瞬く。
同時によみがえる、この国の王の姿。

ずっと、彼を信じた人。

「ジェイド・カーティス大佐は、生きています」

私なんかの口から語られる言葉は、あまり意味を持たないだろうけれど。
それでもあの王が、真実を見抜く彼が、少しでも早く安心できるように。

「ほら、だから言っただろう?アスラン」

いつの間にか開いていた扉の先、黄金色の髪を持つ、一人の王がそこにいた。










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