ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-1









もともと第七音素の素質がなかった私にとって、その音素は毒になるはずだった。
けれど音素は傷つけることなく私の中にとどまり力をくれて。

下手したら、死んでいた。

そう言って私を抱きしめたのはジェイドさん。
珍しくも焦りの滲んだ瞳で。

お願いだから、無茶だけはしないで。

私の目をまっすぐに見て言ったのはシンク。
見え隠れする怯えは私がいなくなることへの恐怖だったら、うれしい。

その力で、大切な奴を守ってやれ。

ぐしゃりと私の頭をなでたのは陛下
柔らかい笑顔ですべてを包み込むように。

私が手に入れた力は、彼らだって守ることができる。
それは、私の自信になった。

私にとどまる第七音素はいつだって不安定。
けれど、外部から取り込まれたその音素が私を形作る訳じゃないから、すべてを放出することができる。
つまり、私はほかの人に比べて、術の効果が大きいみたいで。
すべてを出し切ってゼロにもどった私の体は再度第七音素を接種すればまた使えるようになることもわかった。
幸いなことに、私には第七音素を接種できる薬を作る術をもつ。
充電式の乾電池みたいだ。
ジェイドさんと検証した結果わかったそれに思わずそんなことを思った。

そして、今、私ならばこの優しい人を救うことが___



軍の演習に行ってくる。
そう言って出ていったジェイドさん。
帰ってきた彼は常にはない騒々しさで屋敷の扉をあけはなち、すぐさま私に一緒にくるように行った。
ほぼ駆け足のジェイドさんにシンクと一緒についていって。
たどり着いた先は、修道院。
思い扉を開けた先、そこには見慣れた色とりどりの仲間たち。
そして___

「アスランさん!!」

青いはずの軍服は赤く染まり
柔らかだった笑顔は弱々しく
呼んだ私を見ようとする瞳は、虚ろだった。
駆け寄ってその体に触れる。
冷たさに体がふるえた。

これは、だめな、やつだ。

側に来ていたシンクが同じように膝を突いた。
ゆるり、彼を見上げればその向こう仲間たちが目に入る

「私たちの譜術じゃ、もう___」

ティアが、ナタリアが、そっと目をそらして

、」

ルークが控えめに私を呼ぶ。

「どうする?」

小さな疑問文。
それはシンクから。
仮面の向こうからまっすぐにこちらを見てくる瞳に、動揺が静かに収まる

「シンク」

彼にアスランを預けて。
ゆっくりと立ち上がる。

「頼みます、

、お願い!」

皆がなにをするのかとこちらを見てくる中、ジェイドとアニスだけは疑うことなく私を後押しした。
だから、私は紡げる。

意識を目の前の彼に集中させて。
ジェイドさんによって腕に仕込まれたロッドを呼び出す
かつん、ロッドを地面に突き立てればぶわり、浮き上がる魔法陣
紡ぐ言の葉は、なんでもかまわないのだと、マルクト軍の治癒士は言った。
ただその術を構成するのに必要なのは、その音素を汲み上げる力と想いなのだと
難しい言葉なんて、わからないから。
あなたに向ける想いは、一つ。

「帰ってきて、お願い」

まだあなたとはなしたいことがたくさんあるんです。
だから、

「レイズデット」

ぶわり、沸き上がる音素の力。
それはその人を包み込んで、
放出しきってだるいからだをシンクに支えられながら、わらった。

「お帰りなさい、アスランさん」

私の言葉にただいま、と確かに返事があった。









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