ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-2









「陛下、我が軍をおそった兵について報告申し上げます」

しっかりと自分の二本の足でたって、アスランは陛下に言葉を向ける。
その瞳も、姿勢も、何一つぶれてはいない。
多少の顔色の悪さはあれど、それでも彼は、生きている。

「我が軍を襲ってきたのはキムラスカ軍旗を掲げた一個中隊ほどの兵であります」

私たちは将軍の後ろで、ジェイドさんは陛下の横で報告を聞く。

「彼らは、我が軍の側面より第五音素をもちいた譜業爆弾で自爆攻撃をおこなってきました」

思いがけない言葉に皆が息をのんだ。

「そんなバカな!」

自国の兵がそんなことをするはずがない、とルークが叫ぶ。

「とても正規軍が行う用兵ではないわ」

ティアが目を伏せてつぶやく。
ゆっくりとアスランはこちらに目をやって一度うなずいた。

「ええ、彼らの大多数は兵士とは思えぬ軽装で軍服を着用していたのは一部のみ。意志を感じない彼らの動きは、攻撃は、とてもキムラスカ軍には思えなかったのです」

苦々しい表情
それはこの場にいる誰もが浮かべていて。

「レプリカ、でしょ」

沈黙を切りさいたのは私のすぐ横にいたシンクだった。
一斉にシンクへと視線が集まる。
それに臆することもなく、シンクは言葉を続けた。

「意志が感じられないのは、作られたばかりの存在だから。簡単に自爆するのは、まだ恐怖を知らないから。何も感じていないようにみえるのは、何も知らないから」

淡々と紡がれる言葉。
思わずシンクに手を伸ばしてぎゅう、と抱きしめる。

「___だって僕もそうだったからね」

私の腕にそっと触れて、彼は自嘲するように笑った。
ああ、そんな顔をしてほしい訳じゃないのに。
ぎゅう、とさらに力を込めればシンクは私をあやすように腕をたたく。

「今は、僕自身の意志を持ってるし、恐怖だって感じてる。知らないことばかりじゃない。___何より、僕を想ってくれるお姉ちゃんがいるからね」

かわいいかわいい、大事な弟。
私の手をつかんでくれた、優しい子。
愛しいこの子を、私は守りたい。



陛下からの呼びかけ。
それにあわててシンクから離れれば周りから生ぬるい瞳を向けられていたことに気がつく。

「シンクと仲がいいのね」

ティアは柔らかく笑って。

「あんまりくっつくと大佐が妬いちゃうよ〜?」

アニスは楽しそうに

「これくらいいつものことですからね」

ジェイドさんはにこにこと。

「この光景にも慣れたからな」

ガイが苦笑しながら

「___うらやましいな」

小さなルークの言葉。
ゆるり、その頭に手を伸ばして、触れる。
指通りのよい、柔らかな紅。
撫でて笑う。

「大丈夫」

私とルークの間でだけ通じる、魔法の言葉。
ルーク、あなたなら大丈夫。

「ルークのことも、守るからね」

自分がレプリカであることを負い目に思う幼子。
ずっとそばにはあれないけれど、それでもあなたも大事な人。

「ありがとう

泣きそうにルークはわらう。



再度呼ばれた。
今度こそしっかりと陛下を見れば彼は暖かなまなざしをこちらに向けていて。

「今回の真相を確かめに、ジェイドたちにはキムラスカへと向かってもらう。__おまえも行ってこい」

_その手で守りたい奴を守ってやれ_


陛下はその言葉を発したときと同じ表情で言った。



※※※※



、ありがとう」

キムラスカへと向かうための準備をしていればアスランに呼ばれて。
振り向けば帰ってきたそんな言葉。
穏やかに笑うその表情はもう常の色をしていて。

「あなたのおかげで、私はまた陛下のそばであの人をお守りできる」

王宮にとどまることが嫌いなあの翻弄な王を
民を思う、あのすばらしき君主を

「あなたのおかげで、私は彼女をまだ想い続けられる」

違う者を君主と仰ぐ、美しい女を
まっすぐに前を向いて生きる強い女を

「預言に詠まれていない未来はこんなにも不安で___自由だと知ることができました」

「・・・自由?」

近くにいたアニスがぽつりと疑問をつぶやく。
けれどもそれは誰に拾われることもなく。

「この自由な世界で生きられることに、心から感謝します」

アスランはそう言って本当にきれいに笑った。
王宮へと戻っていく彼を見送っていれば、ぽつり、後ろからの呟き。

「預言のない世界が自由?・・・不安なだけじゃん」

はき捨てるような言葉に思わず振り向けばアニスの姿。
ぎゅ、とトクナガを抱きしめてつぶやかれた内容は強い感情が見え隠れして。

「それはアニスの見解だろ?少なくともフリングス将軍は預言のない世界で生きていこうとしている」

「預言から逃れようとしている人だって、全くいない訳じゃない」

ガイのティアの言葉にアニスはうつむいて。

「逃れられない人だって、いるんだよ」

血の気がないほど握りしめられた手のひらにそっと触れた。
冷たいその手に自分の体温を移すように。

「大丈夫だよ、アニス」

一人じゃ難しいことは、私だって手伝うから。
もうちょっとだけ、まってて。
イオンと私で、アニスを助けてみせるから。
アニスは私の手を強く握り返した。













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