ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-12









「さあ、預言を詠んでほしい人はついておいでよ!」

ケセドニアにて。
響いた音。
聞き覚えのある声。
それに対して、アニスが、シンクがそしてイオンが動きを止めた。
皆でゆっくりと視線を向けたその先に、両腕を広げて叫ぶ、緑の髪を持つ少年。
身にまとうは、導師たる装束。
右手に掲げるは、金色に輝く音叉。
はつらつとした声。
取り囲む信者たちに向けるのは笑顔。
彼らから向けられるのは、盲目までの新興
シンクは顔を仮面で隠していて、イオンはフード付きのマントを深くかぶっていたけれど。
それでも、二人によく似た、少年。

”イオン”ではない、イオン。

息をのんだのは、誰だったのか。

「れぷりか、」

つぶやいたのは、誰だったのか。
それでも私たちの声は確かに彼に届いたようで。
瞳が、こちらを向く。
視線が、合わさった。
一度、二度、瞬きをした彼は、周りの信者をそのままに、器用に合間を縫って私たちの前へ。
至近距離で見つめたその瞳は、やっぱりイオンとは少し違う色。

「だあれ?」

きょとり、首を傾けて無邪気にほほえんで、彼は問いかけてきた。
好奇心いっぱいの瞳で、まっすぐにイオンをみつめて。

「きみはだあれ?」

その言葉にイオンは淡くほほえんで、返した。

「僕はイオンです。あなたは?」

「僕?僕は___」

「預言を、預言を呼んでください!」

彼の言葉を遮ったのは、預言に縛られる信者たち。
言い出した男を筆頭に彼はまた信者に囲まれて。
そのまま流されるように、イオンのレプリカは連れていかれた。
何度もこちらをみてくる彼になにを言うこともできず。

「ヴァンか、モースか・・・」

「いずれにせよ、あれだけ似ているということは・・・」

「間違いなく導師のレプリカですね」

ガイがティアが、イオンが、続けた言葉。
誰一人それに否定することなどできなくて。

「僕みたいに”捨てた”存在をまだいくつ隠し持ってるんだか」

シンクの声が皮肉気に続く。

「勝手に作って、勝手に捨てて。捨てた者をまた使って」

思わずシンクの手をつかむ。
そうすれば鋭かった視線はかすかに弱まる。

「レプリカにも意志はあるんだよ」

さっきとは違う弱い声で。
シンクはつぶやいた。

「あの子はきっとなにも知らない」

アニスの小さな声。

「いいように使われているのですわ」

ナタリアは憤りを露わにして。

「___考えることは後でもできます。今は先に進みましょう」

ジェイドはその一言だけを口にした。













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