ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-13
ユリアシティのテオドールと話しがしたい。
イオンたっての願いで、次の目的地は決まった。
今日はもう遅いため、出発は翌日。
ケセドニアにて一泊することに、誰からの反論もなかった。
カラン
氷がグラスに当たる音。
薄暗い店内、漂うのは酒のにおい。
愛しい青いその人
部屋にいないから、と探し回るまでもなく、彼がいたのは宿に特設されたバーカウンター。
バーテンダー以外に人のいない静かな店内でただ一人、グラスを煽る。
酒に酔う、そんなこの人は今までに見たことはないけれど。
それでも、速すぎるペースはいくら酒に強くてもとめなければ、と感じるもので。
「お隣よろしいですか?軍人さん」
彼に声をかければ常にはない、気だるげな赤い瞳が向けられて。
「どうぞ、お嬢さん」
その薄い唇から了承の返事がもたらされ、イスが引かれた。
けれど言葉にもいつものような覇気はなく。
横に座ってから気づいたけれど、白いだけの肌がかすかに色づいて見えて。
「同じものを」
私の意見を聞くでもなく、勝手に注文してでてきたのはロックのウィスキー。
甘党の自分からすると好みではないけれど、飲めないわけではないのでおとなしく受け取って。
「さて、どうしましたお嬢さん」
互いに一度グラスをあわせて一口、口の中に流し込んで。
そうしてもたらされた言葉に思わず笑いが漏れた。
「夜遊びをする軍人さんにかまってもらおうかと思いまして」
おどけたように返せば、横のジェイドさんも小さく笑ってくれて。
「悪い子ですね」
そう言いはするけれど、頬はゆるんでいて。
他愛のない話しを交わして。
そして、ふ、と二人で息をついた。
カラン
ジェイドさんがグラスを揺らした。
琥珀色の液体が、中で揺れて。
赤い瞳がゆっくりと細まる。
「ジェイドさん」
彼の沈んでいく表情を止めるように、名前を呼ぶ。
そうすればひどく緩慢な動作ではあれど彼は私を見てくれて
「前も言ったと思いますけど、」
赤い瞳は宝石みたいに綺麗。
「私はフォミクリーの技術を生み出したあなたに、感謝しています」
何度だって繰り返す。
あなたが信じてくれるそのときまで。
「ルークたちをこの世界に誕生させてくれて、ありがとう」
あなたが自分を信じられるようになるそのときまで。
「あなたのおかげで、私はルークの笑顔がみれた」
優しい不器用な少年。
7年前突然世界に放り出された幼子。
それでも、彼は今、しっかりと両の足でたち、まっすぐに前を向いている。
「あなたのおかげで、私はイオンと言葉を交わせる」
最高指導者でありながら、自らの意志を持つことを許されなかった子。
ふわりと笑うその裏に隠れた秘密は、生まれてから重く枷となり彼を締め付けて。
それでも、彼は今、確かに自分の意志を抱き、足を進めている。
「あなたのおかげで、私はシンクとふれあうことができる」
皮肉気に笑い、すべてを嫌って、自分をあきらめていた子。
仮面で隠した素顔を誰よりも嫌い、誰よりも恨み、何一つ信じはしなかった。
けれど、彼は私の手をとってくれて、少しずつだけれど私を意義に、生きようとしている
それは、どれも、全部、ジェイドさんがいなければできなかったこと。
「ジェイドさん、私はあなたに何度だって言います」
たとえほかの誰があなたを恨んでも。
「ルークたちを生み出してくれて、ありがとう」
イオンではない、”イオン”
その存在が、今、あなたをひどく傷つけている。
それでも、私だけはいつだってあなたを肯定したい。
「、ジェイドさん」
こてり。
右肩に重み。
そこには色素の薄い、茶色。
頬をくすぐる髪がくすぐったくって。
でもその存在がただ愛しくて。
ぐりぐりと肩にある頭が押しつけられる。
少し痛い、けれども、声を上げればこの雰囲気は消え去ってしまいそうで。
「___」
頭を動かし続けるのはそのままに、私を呼ぶ。
「これは酔っぱらいの戯言ですので、聞き流してください」
酔っぱらいという割に、しっかりとした口調でジェイドさんは続けた。
「、私はいつだってあなたの言葉に救われています」
小さな声。
それでも、確かに響く音。
「あなたがそう言ってくれるならば、私の生が無駄ではなかったのではないか、と錯覚してしまう」
反論しようとした私の口は、ジェイドさんの堅い手のひらに阻まれて。
「私をあまり甘やかさないでください」
いつの間にか上げられていた顔が、困ったように笑うものだから。
あまりみないその表情に、心臓がどくりと音を立てて。
「ああ、それから」
ぐ、と距離をつめられて、気がつけばほぼ目の前にジェイドさんの顔。
先ほどの笑みとは違う、どこか妖艶な笑みを浮かべて。
「あまり、夜遅い時間に男と会ってはいけませんね」
呼吸がふれあうほどの距離で、めがねの奥の赤い色が、私を貫く。
「特に、あなたに想いを寄せる男とは」
呼吸が、とまる
はくはくと口を開け閉めする私を楽しそうに眺めて、ジェイドさんはさらに続けた。
「いい加減、進展したいんですよ、私も」
触れる手。
私をここに存在すると肯定してくれる、優しい人。
「なにがあろうと私が優先するのは陛下ですが、」
青色をまとう、金色の主
なにがあってもこの人にとって陛下が一番。
「それでも、それを抜きにしたときに、共にありたいと、守りたいと、そばにいたいと、そう願うのは、」
そっと、呼吸をかすめ取られて。
「あなたですよ」
赤い瞳が柔らかくほほえんだ。
※※※
ようやっと!!
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