ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-14









「送り狼になりたくありませんので」

にっこりと笑ってそう告げると、自称酔っぱらいの軍人は先に部屋へと戻っていった。

「っ〜〜〜〜!?」

それこそ、混乱する私を置き去りにして、だ。
いったいいま、なにがおこったのか。
どういう状況なのか。
ジェイドさんが、私を想っているだとか、意味の分からない言葉が聞こえた気がするけれど、
それは私の幻聴だったんじゃないのか
第一、あの人は酔っぱらいで___

ぐるぐる考えを巡らせていれば、カタン、と先ほどまで
ジェイドさんが座っていた席が音を立てた。
まさか戻ってきたのかと、思わず立ち上がりかけて、視界にはいった金色に、とまる。

「夜更かしは体に毒だよ、お嬢さん」

握っていたままのウィスキーのグラスを自然な動作でかすめ取られて。
代わりに持たされたのは温かなココア。
それは甘いものを好む私にはぴったりの飲み物で。
ジェイドさんが座っていた席に腰を下ろして、ガイはふわりと微笑んだ。

「どうした?

柔らかな雰囲気。

「ガイ、」

グラスを片手で揺らすその動作は、彼にひどく似合っていて。

「ジェイドに何か言われたのか?」

まっすぐに青い色に見つめられて、図星をつかれれば、思わず視線をはずしてしまった。
そうすればかすかな笑い声。
逸らした視線を戻せば、ガイは柔らかな表情を浮かべて。

「はなすと楽になるぞ?」

ほらほら、と促すように言葉を続けられた。
少しはなしにくくて戸惑うけれど。

「想っている、って」

お酒が回った頭は、思った以上に正直で。
ぽろり、と漏れた。

「いい加減、進展したいって、」

そこからさきは、あっさりと

「なにがあっても陛下を優先するけれど、」

真剣な赤い色

「それ以外でそばにいたいって、守りたいって。私に対して想ってくれてるって」

思い出すだけで心臓が音を立てる。
でも、でも、

「その想いは、私と同じ想いなのかな・・・?」

「どうしてそう思うんだ?」

静かな相づち。
ぽつぽつと同じように返事を返す。

「だって、自分で酔っぱらってる、っていってた」

信じていいのか。
本当に酔っぱらいの戯れ言だったら___

「それだけ?」

促されれば本当にぼろぼろとこぼれていく気持ち

「・・・言われてない、よ」

直接的な言葉で、私がほしい、その言葉は。

「ジェイドさんみたいに、頭は良くないから、ちゃんといってもらえないと、信じられない」

「じゃあ、は、どう思った?」

私は、私は__
ジェイドさんのこと、確かに、好き。
ほかの誰にも感じない熱を、温もりを感じる相手。
ただ、彼のじゃまになるのはイヤで、足枷はイヤで。

「好き、なんだろう?」

あまりにもピンポイントで当てられたものだから、思わずガイを凝視してしまった。

「・・・そんなに私わかりやすい?」

ぽかん、と開いた口のまま問い返せば、ガイはかすかに眉を下げて、仕方がなさそうに言った。

「ずっと見てた相手のことくらい、わかるに決まってるだろ?」

「・・・ガ、イ?」

言うなれば、衝撃。
さっきほどではないけれど、それでも、その内容は驚くべきもので。
ぽかん、とそれこそ驚きを全面に押し出す私に、ガイはまた笑う。

「ほら、違うだろ?」

かすかにふるえる手が、頭に乗せられる。

「ジェイドに言われたときと、俺に言われたときと」

緩やかにしみこんでいく、ガイの言葉

「なにを悩んでんのか、なにに迷ってんのかわからないけれど、」

ぐるぐるとしていた思考が急速にまとまっていくのがわかる。

「自分の思うまま、素直になればいいだけだと思うよ」

ああ、そっか。
やっぱり、私はジェイドさんが好きで、ジェイドさんとそう言う関係になりたくて。
一緒に、ありたくて。

「ありがとう、ガイ」

今度伝えよう。
あの人が私に向けてくれた想いを、わたしからも

の役に立てて光栄だよ」

ガイはからりと笑って、私から手を離した。










※※※※
いつだって損な役回りのガイ






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