ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-16
「でき、た・・・」
障気を完全に中和して
音素の乖離を止める
そして個人の体内音素を飛躍的に増やす
その薬は、奇跡。
私の両親が残した、未来への布石。
「陛下に報告に、」
できあがった薬を持って、立ち上がった瞬間、ぐらり、世界が揺れる。
踏ん張りのきかない足は簡単に崩れ、直後温もりに包まれる。
「しばらく寝てないのに、突然立ち上がったらそうなるに決まってるでしょ」
聞きなれたその声はあきれたような色。
それでも支えてくれる手は優しくて。
「ピオニーのところに行くなら少し休んでからにすれば?」
突き放すような口調は、私を心配してくれているから。
それでも、今すぐに行かなければ、と気持ちは急いて。
「すぐに、いきたい」
私の言葉にシンクから帰ってくるのはため息。
それでもこの優しい弟は私の意見を無碍にはしない。
「大人しくしててよね」
労るような優しい浮遊感。
浮いた体はシンクによって支えられて。
そのまま彼は歩き出す。
ぶつぶつと聞こえる小言は、そのどれもが私を心配していると、告げていて。
どこか遠い出来事のように、その言葉を聞く。
「どうした、、シンク」
謁見の間ではなく、陛下の私室。
そこにいた彼は、まっすぐな視線をこちらにやって。
ブウサギをなでる手はそのままに、言葉を紡ぐ。
ゆっくりと地面に足をつけて、シンクに支えられながらも陛下の前に。
「ピオニー陛下」
私の声色に、彼はゆっくりと姿勢を正して。
「おまたせ、いたしました」
私の言葉に、彼は瞳を大きく瞬かせて、そして、とても優しく笑った。
「よくやった」
立ち上がった彼はゆっくりと私に近づいて、とても力強く私を抱きしめた。
その強さにふれた、瞬間、張りつめていた、何かが、切れた。
「へーか、」
口がうまく機能しなくなったかのような、つたない言葉。
答えるように強まる力。
ぼろぼろこぼれだしたのは、涙。
隠すようにその胸に強く引き寄せられて。
「、私のくすりは、」
薬草を扱って、人を治す。
私にできる、たった一つのこと。
「あの子を」
私をまっすぐに信じてくれる紅の幼子を
「彼女を」
凛と佇む強くてとてもきれいな彼女を
「この子を」
私の手を取ってくれたこの子を
「みんなを」
この世界に住む、すべての人たちを
「すくえ、ますか、」
私のこの手は、誰かを守れる?
「ああ」
深く深く、肯定する、この国の王様。
「おまえのこの手は、この国の、世界の、いろんな人を救うだろう」
しみこむ、陛下の声。
この人は、私が信じるに値する人。
「今までも、これから先も」
「へ、か」
すがるように陛下に伸ばした手は、いつの間にか、違う温もりに包まれた。
なだめるように緩やかに上下に振れるそれ。
忘れないで、とでもいうように。
「」
シンクは不機嫌そうな声で、それでも言葉をつづった。
「の薬だけじゃなくて、の存在はいつだって・・・僕を生かしてくれてること、忘れないでよね」
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