ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-17
オリジナルの代用品としてこの世界に作り上げられて
導もないこの世界に放り出された。
勝手に作ったくせに、足りないと、不十分だと捨てられて。
捨てられたと思ったら捕まえられて、”シンク”という名前を与えられた。
すべてが壊れてしまえばいいと、そう願った世界で。
すべてを壊してしまおうと、そう思った世界で。
僕はまだ、生きている。
”シンク”
僕の名前を、大切だというように、彼女は呼ぶ。
宝物を抱きしめるみたいにきれいな表情で。
必要ないくらいたくさん、ことあるごとに。
・
何もできないひ弱な女。
だというのに、いつも僕に手をさしだして。
いつだって僕の名前を呼んで。
僕の手を決して離そうとはしなかった。
必要とされる、その意味が理解できない僕に、
武器としての僕がほしいと、そう言った彼女。
シンプルなその言葉に惹かれたのは確か。
だというのに__
だというのに、彼女は僕を家族だと呼んだ。
僕が必要だと叫んだ。
家族であると、僕の帰る場所になると。
居場所であると、世界になると。
痛みの走る頬をそのままに、ぼろぼろとこぼれていく涙はあまりにもきれいで。
僕の存在で、このきれいな女を守れるなら、
それは、僕の存在理由になれるかもしれないと、
そう思えたんだ。
弱く見えるのに、したたかで。
強くないのに、見栄っ張りで
救えもしないとわからないほどバカじゃないのに、
その両手の届く以上のものを守ろうとして。
今だって、そう。
彼女は気づかない。
僕がどんなに救われているかなんて。
の存在が僕にどんな影響をもたらしているかなんて。
彼女はいつも、できることがなにもないと嘆く。
薬を作ることでしか、役に立てない、と。
回復術が使えるようになってからは多少は変わったけれど、それでも足手まといには違いがない、と。
本当に、彼女は自分の価値に気づいかない。
作り上げた薬。
それが、紅のレプリカのためだけじゃないって。
僕をも、守るために、生かすために。
家族を失いたくないと叫ぶ心のまま。
いつしか、そばにいたい、と願うようになってしまった。
この無理ばかりする人を、僕が守ってあげないと、と。
だから、一緒にいるよ。
彼女から伝わる熱。
愛しい、愛しい大事な家族。
”シンク”
呼ばれただけで色づく世界。
触れただけで感じる喜び。
そばにあるだけで生まれる温もり。
これから先も、そばにいてもいいと、そばにあってほしいと。
願う存在。
彼女は、彼女が思う以上に、僕の世界で。
「迎えにきましたよ、」
満面の笑みで、手を差し出す青い軍人。
うさんくさい表情だというのに、淡く彼女はほほえんで。
その手に自分の手を重ねて、小さく息をつく。
僕の世界になった彼女が慕う相手。
彼女の喜びを素直に喜んであげれるほど、僕は人間ができていないわけで。
とられるかもしれない、そう思ったとき、イヤだという気持ちに駆られるのは必然的なわけで。
目の前、笑う男をにらみつける。
いつか僕の世界をとっていってしまう男。
僕はこの青い軍人が大嫌いだ。
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