ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-3









「あれ?シンクは??」

アルビオールにて、バチカルへ向かっていればそういえば、とばかりにアニスが声を上げる。

「そういえば、いないわね」

ティアも今気づいた、と首を傾けて。

「ちょっと別件で動いてもらってるの」

もうすぐ、きてしまう、あのときのために。
元 神託の盾であるシンクにしかできないことを。

「彼は時折私の仕事をこなしてもらってはいましたが、あなたの言葉を一番に考えていますからね」

ジェイドさんが続ければガイもうなずく。

「ちなみに俺の話は何にも聞かなかったけどな」

どことなく遠い目をしてガイがつぶやいた。

「___シンクにとって、のそばが居場所になったんだな」

どことなく沈んだ声でルークが発した言葉。
彼をみれば相変わらず覇気はなく。

「ルーク」

呼ぶ、名前。
それはもう、あなたのものだよ。
借り物でも、あなたが奪ったものでもない。

「私にとって、”シンク”が、”イオン”がただ一人であるように、”ルーク”もあなただけだよ」

瞬く瞳。
きれいな緑
たとえほかの誰と似ていても、それは別の人。

「私をと呼んでくれて、私を守ってくれて、行動をともにしてくれて」

不器用ながらも私を信じてくれる、一緒に罪を背負ってくれる優しいルーク。

「そんなルークはあなただけでしょう?」

瞬間、温もりに包まれて、世界が紅に染まる。

っ」

絞り出すような声。
小さなそれはきっと私にだけ聞こえて。
すがりつく大きな幼子の背中を優しく撫でてなだめる。
その向こう、ガイが、アニスが、ティアがほっとしたように笑って。
ジェイドさんがすごくいい笑顔をしていた。

「ルーク」

語尾にハートでも付きそうなほどいい笑顔でジェイドさんはルークを呼んで、そしてべりりと私から引き離す。

「シンクはいいけどルークはだめなんだ」

「心狭いのか広いのか、わからんな」

ひそひそと小声で会話を交わすガイとアニス。
それに対してジェイドさんは相変わらずいい笑顔なわけで。

「アニース、ガーイ。聞こえてますよー」

ひっぺがしたルークをぽい、とティアに放って。
ジェイドはそっと私のそばにたった。
まるでそこが定位置かのような動作に、じわり心臓が熱を持った。








「どういうことですの!我がキムラスカ王国は平和条約に基づき、軍事活動など起こしてはいませんのよ!」

目的地であったバチカル。
ちょうど良いタイミングで帰ってきた金髪のお姫様は出会うなりジェイドさんの胸ぐらをつかんで叫んだ。
すごい勢いに呆気にとられる周りとにこにこと甘んじてそれを受け入れるジェイドさん。
見事な対比だ。
見事では、あるけれど
ジェイドさんを掴んでいたきれいな白いその手に、そっと触れる。
そうすれば二対の瞳が私に向けられて。

「久しぶりです、お姫様」

私の理想のお姫様にふんわりと笑いかける。

!」

花が綻ぶように開く、笑顔。
彼女はジェイドさんから手を離して私をそっと抱きしめた。

「心配、しましたのよ・・・!」

唯一、お姫様だけがあの日あのとき私が倒れて以降会ったことがなかった。
だからこその言葉に、じわりと暖かい気持ちがあふれる。
たくさん心配をかけてごめんなさい。
それから、ありがとう。
そんな想いをこめて、お姫様にぎゅうと抱きつき返した。


お姫様のおかげであっさりとキムラスカ国王との話し合いは成立して。
やはりあの軍はキムラスカのものではないことがわかって。
再度アルビオールに乗り向かった先は、ダアト。
ダアトから遠ざかりたがるアニスをなだめすかして。
そして、ダアトに着いた瞬間ティアがぐらり、体を傾けた。
あわててルークが支えて、ティアの口に正気中和剤を放り込む。
この数ヶ月、見事に引きこもって調合ばかりした結果、色々と効果が上昇したそれ。
相変わらず甘い味付けだからか、ティアがかすかに笑った。

「イオン様を呼んでくる!!」

走っていくアニスを見送って、ティアにもう一つ薬を渡した。









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