ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-29
ぶわり
広がる熱量
息苦しいまでのその場所。
向こうは二人。
こっちは多数。
だというのに、倒れているのは自分達の方で。
茶色の髪を揺らし、その男は一つ、息を吐く。
表情は、無。
自らが負けることなど想定していない表情。
否、この結果を当然と受け止めているのか。
「愚かなレプリカルークよ」
”俺”の力を解放するためにあったその言葉は、今はただ鋭く心臓をえぐる。
向けられる言葉すら、感情はなく。
回復の譜術を操れる二人が、早々に攻撃を当てられて。
非戦力のイオンがねらわれるのにアニスがとられて。
アッシュと俺とガイが一斉に向かったけれど、
リグレットの銃が行く手を阻む。
そしてあっけなく放り出されて。
力の差は歴然だった。
師匠と呼んだこの人は本当に強くて。
俺もアッシュも、かなわない。
師匠を倒すのは俺らじゃなくちゃいけないのに。
ゆっくりと向けられる刃の切っ先。
動かぬ体でそれを見上げれば、走馬燈のように、よみがえる記憶達。
巡る記憶の中、ふわり、おいてきてしまった彼女が、
笑った。
かつん
音。
思いがけず響いたそれに、初めてヴァンが顔色を変えた。
その音源へ、走らせた視線の先。
あったのは、3つの影。
手にはなんの武器も持たず。
体中につけた鞄の中にはたくさんの人を救う薬が。
紡ぐことのは。
いつだって俺を、俺たちを導いてくれた優しい言葉。
銀色の髪をふわふわとなびかせて。
まっすぐに向けられる瞳は、ただ、強く。
詠うように、こぼされていく
詠唱。
ヴァンの攻撃を、クレイが止めた。
リグレットの動きを、シンクが防いだ。
その間に構成されていく、癒しの術。
「レイズデッド」
広がる暖かさ。
体に戻る感覚。
遠ざかる痛み。
彼女と同じくらい優しい温もりは、俺たちを包み込んで。
「・・・ヒーローは遅れて登場するもんだよね」
ひどく的外れな言葉をはいて、わらった。
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