ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-30
たどり着いた決戦の地。
なぜかリグレットがこの場所にいたけれど、アッシュやイオン、シンクがいることを考えたら不思議でも何でもなくて。
皆は地面に倒れ伏して。
ヴァンの剣はルークへと向かう。
カツン
小さく音を鳴らして、その場所へ。
驚いたようにこちらをみてくるいくつもの瞳。
傷だらけの皆を見渡して、紡ぐ、ことのは。
癒しの旋律
向かってくるヴァンからの攻撃は、クレイが。
リグレットの攻撃はシンクがたたき落としてくれる。
だから私は安心して言葉を紡げる。
傷ついた彼らを癒すため。
彼らに近づく死を追い払うため。
もう一度立ち上がって、未来をつかみとる、そのために。
「レイズデッド」
広がる光
柔らかな温もり。
「・・・ヒーローは遅れて登場するもんだよね」
彼らに向けて笑えばあきれたような笑顔が返ってきた。
ざ、と地面をする音。
「、クレイ!!」
叫んだのはお姫様。
横にとばされてきたのは大事な幼なじみ。
とっさに体を抱え起こし、紡ぐ癒しの術。
けれど、
「やはり立ち向かうか」
くつり、響いた笑い声。
ぞくり、背中に氷を落とされたような、恐怖。
ゆっくりと見上げた先、見下ろすヴァンの表情は、邪魔なものをみるそれで。
ゆらり、向けられる刃にとっさに反応などできなくて。
「っ、」
キン
止めたのは、ガイ。
「何してんのさ!!」
私を引き寄せたのはシンク。
回復を受けたクレイがさ、っと立ち上がり、私の前に立つ。
「はイオンのところに」
シンクに促されて導師の元へ。
「大丈夫イオン様もも、絶対守るから」
心強い守護役の言葉。
ふるえたままの指先がそっと温もりに包まれる。
「」
こんな時でも穏やかな声。
「僕にできるのは、最後まで見届けることだけです」
だから、
「最後まで一緒に、みていてください」
答えるように強く握って。
ガイが地面を蹴る。
クレイが刃を振りかざし
アニスの拳が地面を穿つ
リグレットが倒れた隙をついて、
ヴァンへと向けられる剣劇
アッシュが前に飛び出して
ジェイドが術を発動して
シンクが懐に飛び込んで
ナタリアが癒しを紡いだ先に
ルークがヴァンへと振り降ろす。
そして、ティアによって紡ぎあげられた大譜歌が___
ひときわ目映い光が当たりに広がった。
「ヴァン師匠、ありがとうございました!!」
「ありがとう、ございました、師匠___!!」
ルークの叫び。
アッシュの声。
「さよなら、大好きだった、兄さん___」
そして小さなつぶやき。
ティアによってもたらされたその言葉が何よりの結果で。
ぶわり
収束した世界の中。
ぐらり、静寂に包まれていた世界が、突如揺れた。
「・・・みんなは急いでここから脱出してくれ」
そんな中、響いた、ルークの声。
「っ、ルーク!」
叫んだのはティア。
口元に手をやって、震える声で。
「俺は、__俺たちはここでローレライを解放する」
いつにない落ち着いた声で、アッシュが。
「アッシュ!!」
ナタリアの声は響く。
大きな瞳を見開いて、ふるえる体で。
「ローレライとの、約束だから」
ふんわりと、すべてを受け入れるような、そんな優しい色で。
ルークの前に進んだジェイドが、そっと手を差し出した
「ジェイド・・・?」
「あなたは本当に変わりましたね」
「俺、ひどかったもんな」
困ったように笑うルークを、ジェイドは穏やかに見つめて口を開いた。
「ですが、どれだけ変わろうと悔いようと、あなたのしてきたことのすべてが許されはしない」
淡々と紡がれる、事実だからこそ。
彼の言葉はルークに響く。
「だからこそ、生きて帰ってきてください。いえ、そう望みます」
ジェイドの言葉に、ルークは虚を突かれたように瞳を開いて___
泣きそうに、笑った。
「無茶言うなよ___って、そう言おうと、思ってたのに」
うつむいたルークの後頭部をばしり、たたく手が、一つ。
「ジェイド、お前が好いてる女のことが信用できないのか?」
低いアッシュの声。
うつむいたままのルークをそのままに、ジェイドの瞳が私にむく。
「」
かすかに呼ばれた、それに、ふわり笑ってみせれば、まぶしそうに彼は瞳をすがめて。
「待ってます、ルーク。___それからアッシュも」
そう言って、後ろを向いた。
アッシュが不意をつかれたように固まるのをそのままに。
入れ替わるのは、ガイ。
「待ってるからな」
にこやかに笑う。
「ご主人様のいない使用人って言うのも寂しいもんなんだぜ」
「おまえ、もううちの使用人じゃないだろ」
軽い口調にルークはあきれたように返す。
「ま、侯爵家の使用人じゃないがおまえの心の友兼使用人でいてやってもいいんだぜ」
からからと、声を上げて笑うガイ。
けれど、ぴたり、彼は笑いを止めてもう一つの赤をみる。
「それは、ルークだけじゃなくて、お前にもいえることだからな、アッシュ」
一歩、後ろに下がっていたアッシュは居心地が悪そうに視線をさまよわせる。
けれどもその瞳は結局ガイへと向けられて。
「すべてをゼロに戻して、なんていわない。それでも、俺はもう一回、お前とやり直したいと、そう思うよ」
ゆっくりと伸ばされた手が、くしゃり、アッシュの赤に触れる。
うつむくアッシュの表情はわからないけれど、それでも、かすかに耳が赤くて。
「だからさくっともどってこいよ。このまま消えるなんて許さないからな」
アッシュから離した手はルークの額に。
「・・・気づいてたのか?」
驚きの色を乗せながらも、わかっていたのだろう。
ルークはへちょり、眉を下げる。
「帰ってきたら心の友に隠し事をするような根性ただしてやるよ」
ぺしり、一度だけ弾いたその額の痛さに、ルークは涙目だ。
そんな彼をおいたまま、ガイはアニスとバトンタッチ。
「アニス!?」
小さな体を全力で進ませて、がばりと抱きついたルークの腰。
衝撃に耐えながら、見下ろすその旋毛。
「私も知ってたよ、ガイみたいな確信じゃないけどさ」
年相応の可愛い声で。
ぐりぐりとルークの腹筋に頭をこすりつける。
「なんだよそれ」
穏やかにその頭をなでながら、ルークは返答する。
「えへへ。だってルークってわかりやすいし、でもね私としてはルークに生き残ってもらわないと困るんだよね」
必死に自分に笑え、と指示するように。
その声は震えていて。
「・・・まさかと思うけど俺に乗り換えるの?」
あ、イオンが動き出した。
「まさかー!私イオン様と一緒に教会を建て直したいんだ」
あ、イオンが止まった。
「そのためにはあ、パトロンが必要でしょ?ちゃんと帰ってきてね。___パトロンは、多い方がいいから。もちろん、アッシュもだからね」
ちらり、向けられた視線を受け止めたアッシュは小さく息を吐いた。
「子守なんざ、する気はねえ。・・・全部こいつにやらせるからな」
ルークを指さして、アッシュは告げた。
「アニス」
ルークの腹筋に顔を埋めたままのアニスをそっと引きはがしたのは、イオン。
穏やかな声で、仕草で、表情で、アニスを引き寄せて。
そのまままっすぐにルークとアッシュを、見つめた。
「僕はもっと話がしたいです、ルークとアッシュと」
ふんわりと、この場所にひどく不釣り合いな笑顔を浮かべて。
「そのためには、二人が生きていてくれないと困るんです」
「「イオン___」」
二人に同時に呼ばれたイオンは、”導師”ではない笑顔で笑った
「僕に、言わせてください」
とても鮮やかに。
「あなたたち二人に、おかえりなさい、と」
アニスの手を引いて下がるイオンと替わったのはミュウ。
「ご主人様」
ルークの足下、ぴょんぴょんとはねながら彼を呼ぶのはチーグルで。
「もうお前の役目は終わったよ胸張って仲間のところに帰れ」
優しい言葉にも、ミュウは首を振る。
「ミュウもご主人様が帰ってくるのを待ってるですの」
困ったように、それでもルークはうれしそうに頬をかいて。
「そっか・・・ありがとな」
その返事に、ミュウは満足したように動きを止めた。
そんなミュウをそっと抱き上げて、二人の前に。
「ルーク」
いつもみたいに名前を呼べば、柔らかな表情が帰ってきて。
「。最後まで一緒にいよう、ってそう言ったのは、まだ、有効?」
首を少しだけ傾けて問われた内容に、もちろん、と首を縦に振る。
ルーク、君が望むならば。
たとえ、今、この場所で一緒に残ってほしい。
その願いにだって答えてみせよう。
弟と呼んだ、彼は怒るだろうけれど、
最愛のあの人は、ため息をつくだろうけれど。
私を理解してくれている二人なら、最後は仕方がないと笑うから。
「なら、」
肩に重み。
首に触れる、紅い色。
「あれ、訂正するね」
小さな声。
私にだけ聞こえるような。
「最後の時は、一緒にいてほしい」
でも、そういってあがった表情は、晴れ晴れとしていた。
「まだ、最後じゃないから」
まぶしい笑顔で。
強い瞳で、
ルークは言った。
「だから、行ってきます」
とん、と肩を押されて。
後ろにぬくもり。
そこにあったのは、緑。
「シンク、をお願い」
「ルークに言われなくても」
背中に触れた手が、慰めるようになでてくる。
「」
同じ音、でも、違う色。
アッシュに呼ばれた自分の名前。
同じ紅、でも、違う色。
目の前に伸ばされた手。
何事かと彼を見上げれば、不機嫌そうな表情。
「帰ってきてやる。二人揃って、な」
だから、
意味が、わかって。
理解ができて。
あわてて鞄ごと、腰から取り外す。
アッシュの手に、重たさとともに渡したのは、私が作った薬達。
彼を、彼らを、生きながらえさせてくれるかもしれない、きっかけ。
「お前が信じなくて、ほかに誰が信じるんだ」
髪に、頭に手が乗せられて。
ぐしゃぐしゃにかき回した後、アッシュは小さく笑った。
「いってくる」
そして、よく似た、全く違う二人はゆっくりと、二人の女性に目を向けた。
「生き延びてください」
意志の強いお姫様。
けれど今、瞳は不安でいっぱいで。
「私はもう大切な人を失いたくはありません」
大きな瞳から、ほろり、滴があふれた瞬間
「ナタリアっ」
彼女の体はアッシュの腕の中。
ぐ、と込められた力。
それに彼女は息をのんで。
アッシュの服の裾をそっとつかむ。
「どちらか、だけでは、意味がありませんのよ」
アッシュに抱きしめられた姿勢で、ルークに視線をやって。
「どちらも、”生きて”帰ってきてくださいませ」
お姫様の言葉に、ルークは深くうなずいて。
「ルーク」
緊張にふるえるその声は、いつもの彼女とはまったくちがって。
は、っと気づいたように、ルークはティアをみる。
けれど、彼女はそっと背を向けて。
「二人とも、必ず帰ってきて」
震えているのに、強がって。
怖いのに、押さえつけて。
「ティア」
彼女の名前を呼ぶルークの声も同じように震えて。
「必ず、必ずよ。待ってるから、ずっと・・・」
だんだん弱くなっていく声に、ルークが一歩、足を踏み出して。
おそれるようにとどまった。
「うんわかったよ。約束する、必ず帰るよ」
伸ばした手はティアには届かず、そっとルークの胸元に。
彼の言葉を聞いて、ティアはゆっくりと足を進めだした。
「いきましょう」
ジェイドの言葉に促されるように、皆がティアの後を追う。
アッシュから離れたナタリアもクレイに促されて動き出して。
そんな彼らの最高尾について、もう一度だけ二人をみた。
緑のきれいな瞳が二対。
そっくりで全く違うその二人が、互いにゆっくりとうなずいたから。
「二人とも、行ってらっしゃい」
私は笑ってそう伝えることができたんだ。
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