ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-6









イオンに譜石を詠ませようとしたモースはレプリカたちを盾にして逃げ出した。
暑い火山から脱出してアルビオールの中。
ここにはいつものメンバーとそれから、アリエッタ。
私の治療を受けるイオンの側、しゃがみ込んでアリエッタは泣きじゃくる。
その背中を優しく撫でるのはナタリア。
ルークとティアは近くのいすに座って、こちらの様子をうかがう。
ガイとジェイドは側に立ち無言を貫いていて。
そしてアニスは誰よりも遠くの場所で立ち尽くしていた。

「イオン様、ごめんなさいっ、アリエッタ知ってたのっ!」

細い肩をふるわせて、ぼとぼとと滴を落として。

「もう、アリエッタのイオン様じゃないってっ!」

その言葉にルークが、ティアが視線を逸らす。
アリエッタの、彼女だけの主様。
彼女を孤独からすくい上げた優しい人

「知ってた、けど!でも、アリエッタには、イオン様しかいなかったの!!」

彼女の唯一で、絶対的な存在。

「アリエッタのイオン様は、そんなに優しく笑わなかったけど、」

アリエッタの言葉に思わず皆、動きを止めた。
他意はないのだろうけれど、あまりにも不釣り合いなタイミングのカミングアウトにガイもそっと目をそらしてつぶやく。

「オリジナルのイオンって・・・」

「興味深いですね」

ジェイドも一言。

「アリエッタのイオン様は、どちらかというと・・・。」

言葉を切ってそっと視線が動いた先。
そこにはもう一人のレプリカ、シンクの姿。

「なにさ」

向けられた視線を振り払うように鋭い視線を返す。

「嫌いだけど、シンクの方がアリエッタのイオン様みたい」

ぺしん。
その言葉にシンクはアリエッタの額をたたく。
小さな声を上げてアリエッタは後ろへと転がる。

「・・・でも、アリエッタのイオン様よりシンク意地悪」

言葉を紡ぎ出す彼女の目は、まだ潤んではいたけれど。
それでも先ほどよりもずっとしっかりとしてて。

「___だましていてすみません、アリエッタ」

穏やかなけれどどこか沈んだ声。
ゆっくりと私の腕の中から体を起こすイオン。
彼はその動きと同じように静かに言葉を続けた。

「確かに、僕はイオンのレプリカです」

困ったように笑う。

「本物ではありませ、」

ぺしん。
思わず、その口を手のひらで止めた。
同時にイオンの頭に手のひらが一つ落とされていて。
私の手とは、別。
すぐ側のシンクが苦々しい顔で、イオンの頭をしばいていて。

「シン、」

呼ばれるのをいやがるように、そっぽを向いて。

「次言ったら、今度は拳が飛ぶからね」

それでもシンクはそういった。

「・・・はい、お兄ちゃん」

先ほどまでとは違う、柔らかな笑みでイオンは再度アリエッタに向き直る。

「アリエッタ」

アリエッタの、イオン様ではない声色。
それでも彼女はしっかりとイオンをみて。

「アリエッタを導師守護役から外したのは、成り代わった僕がばれないようにです」

突然の変化にあのときの彼女はひどく混乱しただろう。
理由も何もなく外されて、遠く、イオンと距離をとらされてしまったのだから。

「けれど、何よりもオリジナルの意志があった」

その言葉にアリエッタはびくりと体をふるわせた。

「”アリエッタは僕だけの導師守護役だから、レプリカになんかあげない”」

少しだけ声色を変えて。
イオンは笑った。

「アリエッタ、イオンがアリエッタだけの存在だけだったように。イオンにとってアリエッタは唯一だったんです。ほかの誰にも、僕らにも渡したくないと、そう思える存在だったんです」

その言葉にアリエッタは先ほどとは違い静かに涙をこぼした。



※※※※※



アリエッタに話を終えたイオンはゆっくりと、彼の導師守護役へと視線を向けた。
まっすぐに向かうその瞳に、アニスは体をこわばらせて。

「アニス」

彼の言葉にあわせて、皆の視線が彼女に向く。
怯える彼女はまた一歩足を後ろへ下げた。

「パメラとオリバーは、今グランコクマにいます」

人質であった、彼女の両親。
アニスの唇がふるえた。

「命の危険を理由にマルクトへ亡命してもらいました」

モースの手から逃がすためにとった方法。
ちょっとだけ強引な手も使ったけれど。

「協力者はとシンク、ピオニー陛下です」

アニスの視線が私へ向いた。
それにゆっくりとうなずいてみせる。

「だから、アニス」

イオンはとてもきれいに、柔らかく笑って

「もう、見張らなくていいんですよ」

アニスに手を伸ばした。










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