ドリーム小説

逃げ脚だけは一流です 2-8









「ルーク」

アルビオールの中、少し落ちついたアニスをおいて、イオンは立ち上がった。
そしてそのままルークの前へ。
柔らかくほほえんで、その手に触れて。
そして___

「聖なる焔の光は、汚れし気の浄化を求め、キムラスカの音機関都市へ向かう」

ふわり、柔らかな光と共に、一つの預言を、詠みだした。

「イオン!?」

ルークがあわてて手を引こうとするが案外強い力で。

「そこで咎とされた力を使い、救いの術を見いだすだろう」

そのまま最後まで詠みきった彼は柔らかな笑みをそのままに、やっぱり崩れ落ちて。

「イオン!」

ルークによって支えられたイオン。
あわてて私が、シンクがアリエッタが駆け寄る。

「この馬鹿っ!!」

シンクの罵倒にやっぱりイオンはほほえむだけ。
アリエッタはどうしようかとうろうろして
あわてて紡いだ譜術は、イオンに緩やかにしみこむ。

「ルーク、これは、ぼくから、あなたに送る、選択肢のひとつ、です___」

弱々しいのに、力強い、そんな相反する瞳で、笑顔で。

「数ある未来、その選択をするのは、ほかでもない、自分自身」

ぐったりと私にもたれ掛かるイオンはさっきよりもずっと具合が悪そうで。

「だから、ルーク。捕らわれないで、あなたという存在を、否定しないで」

ルークは掴んだままのイオンの手を力強く握って、うなずく。
それをイオンはとても優しく見守って。

「ダアトに向かいましょう。」

彼の専属医もいるその場所に向かうことを示したジェイド。

「まってください、ジェイド」

皆がうなずいたその中で、たった一人声を上げたのはほかでもないイオン。

「何でしょうか、イオン様」

手をめがねにやりながらジェイドが問いかける。
ふにゃり、先ほどまでの笑みとはどこか違う笑顔。
イオン自身の笑顔を彼は浮かべて。

「僕は、本当であれば、火山で預言を詠んで、消えるはず、だったんです」

どくり、心臓が音を立てた。
イオンは、知っていたのだろうか。
その事実を。
変わってしまった未来の一つを。
ふれている箇所から伝わってしまったのか、イオンがなだめるように私の手をなでた。

「あのとき、途切れたはずの未来。それが続くならば、わがままを言おう。そう思って、いたんです。」

わがまま。
その響きが彼にあまりにも似合わなくて。
だからこそ、次にもたらされた言葉に、
ぎゅう、と胸が締め付けられた。

「僕は、あなたたちと一緒にいたい、一緒に生きたい」

それは、わがままなんていうにはあまりにもささやかな願い。
それでも、彼にとってはとても大きなわがまま。

「足手まといでしかない僕だけど、一緒にいてもいいですか」

ルークが泣きそうになりながらイオンを抱きしめた。
シンクが唇をかみしめながらイオンの頭にふれた。
同じ”作られた者”である彼は、彼らは、その願いの難しさを知っているから。

「イオン」

ガイが柔らかく彼を呼ぶ。

「それがわがままというのなら、私たちはもっとわがままですわ」

続けるのはお姫様

「イオン、私たちはイオンと一緒に生きたいどころか、いつだって一緒にいていろんなことをしたい。いつもそう思ってるよ」

彼女に続いて紡ぎだした言葉は私たちの本当の気持ち。

「イオン様が願う以上に私たちが願っています。あなたと共にいたい、と」

ティアが柔らかく笑う。

「あんたと一緒に生きたい、ってそう言ってくれてるんだから。さっさと受け入れたら?」

そして、シンクはその言葉をつげた後ゆっくりとツインテールへと目をやって。
それを追いかけるように、皆の視線が一人へ向く。
小さく体をふるわせた少女は、それでもまっすぐにイオンを見つめた。

「私は導師守護役です。導師守護役は、導師のためにあり、導師の御身を守り、導師の意思を尊重する。つまり、イオン様の願いをかなえるためにいるんです」

ぎゅ、とトクナガを握りしめて、一度だけ視線を迷わせて。
そして、アルビオールに乗ってから、初めて笑った。

「イオン様のわがままだって、かなえて見せます」

イオンが、泣きそうに笑った。

「では、話がまとまったところで、ベルケンドに向かいましょうか」

「ジェイド・・・」

話をぶったぎったのはジェイド。
つっこみを入れたのはガイ。

「ダアトに向かえば導師であるイオン様はダアトにとどまることを望まれるでしょうから」

にっこり笑いながらもジェイドは話を進める。

「ベルケンドならば診察もできるしね」

以前無理矢理診察をされたシンクが皮肉気に続けた。

イオンが一緒にいること前提ではなされた会話に、彼はゆっくりとうなずいた。



「アニス」

一人ダアトに戻るためアルビオールを降りたアリエッタが鋭くアニスを呼んだ。
かわいらしい瞳を鋭くして、彼女は言葉を続ける。

「イオン様が許しても、アリエッタは許さない、です」

ぐ、とアニスの手が握りしめられる。

「導師守護役が導師を危険に陥れたこと、ゆめゆめ忘れるな、です」

アニスからの返事を待つことなく、アリエッタはライガに飛び乗って。
イオンをみて小さくほほえんだ後、姿を消した。
アリエッタが消えた方向をじっと見つめるアニスにティアが、ナタリアが寄り添う。
ガイはアニスの頭をそっとかすめて。
ルークは逆にがしがしとアニスの髪をかき混ぜる。
ジェイドは一つ、息を吐いてノエルへと指示を出しに。
私とシンクはイオンの側でそれを見つめていた。












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