ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 2-9
ベルケンドへと向かう道中、アルビオールの中の個室。
大丈夫だと笑うイオンを言いくるめてベッドに押し込む。
指示は私だけれど実行犯はシンクだ。
兄の手によってベッドに詰め込まれたイオンは困ったように、でも恥ずかしそうに笑う。
「なんだか最近、たくさん甘やかされている気がします」
イオンの言葉に虚を突かれる
くすぐったそうに笑う表情は、どことなく吹っ切れたような柔らかさをはらんでいて。
「たくさん、甘やかしてあげるよ」
今までの分を補うように。
慈しんで、愛して、大好きだとこれから何度もあなたに贈るんだ。
ふにゃふにゃに、溶けそうな笑顔。
そんな笑顔を浮かべながら、彼は口を開いた。
「__僕は、あの場所で、あの瞬間、死ぬ覚悟はできていました」
暑い暑い、あの場所。
シンクにとっての恐怖でもあるあの場所で。
あきらめたように微笑むイオン。
それは記憶に新しくて。
「レプリカに、預言はない。___でも詠めないわけじゃない」
イオンがイオンとして死ぬ時を、彼は本当に、知っていて。
「だから、知っていた」
そっと目を閉じて、胸に手をやって。
かみしめるように言葉を紡ぐ。
「でも、が、シンクがきてくれて」
譜石を詠むイオンの姿。
恐ろしいまでに神聖なその姿は、同時に恐怖を感じさせて。
「ルークたちが僕を呼んでくれて」
響く仲間の声。
それに振り向いたイオンの瞳にはかすかな希望
「アリエッタが叫んで」
驚きと同時に止まった言葉
見た目の幼さと相反する聡明さは彼女に対する認識を変えて
「アニスが泣いたとき」
彼の大切な導師守護役が、ぼろぼろと流した涙
それは、彼の想いを変化させて。
「僕は、願ってしまった。まだ、生きていたい、と」
ぐ、と心臓が痛くなる。
イオンの言葉に、想いに。
すべてを受け入れようとした、生まれたばかりの幼子に。
「そして、」
ゆっくりと開かれた瞳。
写るのは私とシンク
「が、シンクが、」
その瞳がじわり、潤んで。
「僕を助けてくれました」
ほとほとと、涙をこぼした。
あまりにも綺麗なそれに、目を見張って。
「あ、れ・・・?」
イオンが自分の頬に手をやって、ぬれていることに驚いたように言葉を発する。
「なんで、ぼく、」
うろたえるイオンがどうしようもないくらい、かわいく見えて。
「かなしくなんか、ないのにっ」
ぎゅう、とその体を抱きしめた。
そうすれば一度、イオンは息をのんで。
控えめに、それでも小さく私の服の裾を握る。
イオンを挟んで反対側。
シンクが音もなくそこに座って。
イオンと背中合わせに落ち着く。
「僕もこの間知ったけど」
後ろ向きに手を伸ばしたシンクは
「悲しくても、うれしくても、涙はでるんだよ」
イオンの頭にそっと優しくふれた。
back/
next
戻る