ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 20
きれいなきれいな紅い色。
それが目に入った瞬間、体は動きだしていた。
「っ、!?」
名前を呼ぶ周りをそのままに、その暖かな体に腕を伸ばす。
さらり、指通りのよい髪を、小さくなでた。
ごめん、ルーク
つぶやいた言葉は音にならず、のどの奥に張り付いたようにでてこない。
物語への介入を決めたのは、ただ、君を助けたいと思ったからなのに。
それなのに君が、なによりも理解者を望んだそのときに、そばにあることができなかった。
あなたの傍に、いられなかった。
何一つわからなくて、周りはどんどん変化していって。
幼い彼に、世界は、周りは変化を求めて。
そんな中、頼ることのできる存在でありたかったのに。
そうなることはできなくて。
ごめんなさい、ごめんなさい
口をついてでるのは、何一つ意味のない言葉たち
何の力も強制力も持たない、ただ自分の罪悪感を減らす為の言葉。
「・・・?」
「そばにいれなくて、ごめん」
「え・・・?」
絞り出した声は、情けなく震えて。
すがりつくように、幼子に抱きつく。
困ったようにさまよっていた腕が、そっと頭に乗せられて。
不器用ながらもなでてくれた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私が救いたいのは、あなたたちがいる世界で
私が生きているこの世界で
だからこそ、あなたに、いちばんに、てをのばしたかったのに。
あなたの傍にいてあげられなくて
ごめんなさい。
「・・俺こそ、ごめんな、。・・・それからありがとう」
ぎゅう、と抱きしめ返してくれたその温もりが、
愛しい。
小さな小さな声で、それでも精一杯込められた感情が、うれしい。
最後にもう一度ぎゅう、と抱きしめる。
「髪、切ったんだね。さっぱりしていいと思うよ」
ゆっくりと距離をとってまじまじと見つめながらそういえば、困ったように恥ずかしそうにルークは視線をさまよわせて。
「・・・ありがとう」
小さな声ではにかみながらそう返事をくれた。
以前であればみれなかったその表情。
崩壊が彼にもたらした影響は、とても大きくて。
手を伸ばして、紅の髪をなでる。
ああ、この子はちゃんと、生きている。
そして、これからも、この世界を生きていてほしい。
「あ、」
ルークの小さな声と共に、ふわり、温もりが、後ろから広がった。
思いかがけないそれに、あわてて後ろを見ようとしたがそれはぐっ、っと頭を抑えられることで拒否されて。
「え?え?」
状況が把握できず思わず声を上げれば、耳元で安堵のこもったため息が聞こえて。
「いき、てた・・・」
こもった音。
感情を押さえつけるように、腕に込められた力は増す。
その声は、その音は、その温もりは、
脳裏によぎる、彼の姿。
「ク、レイ・・・?」
返事の代わりに、ずるずると彼の体は崩れ落ちていって。
体に腕を回されたまま、まるで祈るかのように膝をつく。
「頼むから、俺のいないところで、死のうとするな」
かすれた声が、響く。
ふれたところから、音があふれる。
低く低く、懇願するような色が、混じる。
「ご、めん、クレイ・・・」
心配かけたことは、わかってた、けど。
こんなにも、心砕かれてたとは思ってもみなくて。
クレイは強いから、簡単に割り切ってくれてると思ってしまっていて。
「もう、しないで」
小さく、本当に小さく、私にだけ聞こえた音は、心からの祈りが込められていた
「いいのか、ジェイド?お前のが見知らぬ輩に抱きつかれているぞ」
「いやですね、陛下。あれはすがりつかれていると言うんですよ」
誰もが口を挟むことを戸惑っていた空間に響いたのは陛下の声。
それにあっさりとジェイドさんは返事を返す。
「はっ、!無事だったんだ!」
「けがはないですか??」
パタパタと走りよってきたアニスとイオン。
アニスはべりり、とクレイをひっぺがす。
イオンはいつぞやのように私の体を検分して。
「無事で、よかったわ・・・。」
「また会えてうれしいよ」
ティアがほっとしたように言って、ガイが鮮やかに笑う。
こんなにも素直な感情を向けられると思ってもみなくて、思わず陛下に目をやれば、それはそれは楽しそうに笑っていた。
・・・人事だと思って。
「、もちろん後で話してくださいますね?」
ひんやりと冷気を伴ったジェイドさんの言葉はそっと聞かないふりをしておいた。
「クレイ。あなたが言った、信頼できる友、というのはのことですね」
「ああ。なんであんたたちがを知ってんのか、ってほうが今は不思議なんだが?」
ジェイドの言葉にクレイがうろんげな瞳で返す。
「ジェイド、クレイ。彼女は?」
耳慣れない声に思わず視線をそちらに向ければ金色がふわり、舞う。
エメラルド色の瞳が私をまっすぐに見抜くものだから、ぞくりと背中が泡立つ。
「あー・・・。俺の幼なじみです、姫様」
なんと言えばいいか、そんな表情でクレイは告げる。
「ああ。そういえばナタリアは面識がありませんでしたか。そうですね・・・チームの薬剤師、兼私の協力者、でいかがでしょうか」
ジェイドさんの言葉には、なんというか、間違いではないけれど、素直にうなずきたくないものだ。
「私はナタリアです。、どうぞよろしく」
金色のお姫様は艶やかに笑ってそういった。
※※※
ようやっと再開。
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