ドリーム小説
逃げ脚だけは一流です 25
「・。おまえに武器をやろう」
出発の報告をするために向かった王宮。
そこにいた王様は蒼い水を背に纏い、堂々と王座に君臨していた。
ゆったりと立ち上がり、私の目の前にたつと、それはそれはまぶしいほどの笑みを浮かべた。
そして、そう口にした。
「戦えるすべをもたないおまえに、俺からしか渡せない武器を」
距離をつめられて、腕が、首の後ろに回る。
「?!」
ルークの声を後ろに聞き流す。
端から見たら抱きしめられているように見えるのではないだろうか。
かちゃり、小さな金属音と共に、首に何かがかけられた。
最後に戯れとばかりに、ぎゅう、と抱きしめられてようやっと距離があく。
「俺の民を救ってくれたこと、心から感謝している」
ゆっくりとかけられたそれを見ればそこには銀のプレート。
そこには、文字が書いてあって。
「ピオニー・ウパラ・マルクト九世の名は、おまえを守ってくれるだろう」
彼の、陛下の名が刻まれたプレートには、私のことを認める旨が刻まれていて。
それは確かに私の武器になる。
この国で、これ以上の力を持つものを私は知らない。
同時に、彼が国民に向ける愛情の深さも感じ取れて、じわり、心臓が熱くなる。
「ありがとう、ございます。ピオニー陛下」
身を守るすべを持たない私を確実に助けてくれる武器。
心の底からの気持ちを乗せて彼を呼べば、ふわり、まぶしい笑みを返される。
「ジェイドを、頼むな」
小さく、小さくつぶやかれた言葉。
友の身を案じる、一人の人間。
ぽふり、やさしく撫でてくる手が、温かい。
「任せてください」
同じように笑って返して、ゆっくりと距離をとる。
「」
涼やかな声に呼ばれて振り向けば、そこには金色を纏うお姫様。
ふわり、笑むそれに、同性だというのに頬が熱くなって。
「私からもお授けしてもよろしくて?」
一歩、距離を詰められて。
そのまま、ふわりと腕をとられる。
「王ではない、ただの姫としての名前ですから、役にたつかどうかは保証しきれませんが。それでも、私からもあなたに感謝を申し上げたいですわ。
私の国を、民を、救ってくださったことに。心からの感謝を」
カチャリ、小さな音と共が腕でなる。
そこには金属の文字が入ったプレートがはめられていて。
自国ではないのに、いつの間にそんなものを作ったのか。
驚きと共に彼女を見つめれば、その後ろにいるクレイも目に入って。
クレイが、強かに、笑む。
これが、仕える主だと。
自慢するように、誇らしげに。
「私はまだあなたをよくはしりません。ですが、このクレイが信じるあなたですもの。信じるに足ると、そう思いますわ」
クレイ、あなたは素敵な主を手に入れたんだね。
「ナタリア様、ありがとうございます」
溢れんばかりの想いはうまく言葉にならなくて。
ぎゅう、とうつむく。
そっと撫でてきたのは誰なのか、わからなくても温かいそれに涙が出そうになる。
私のやってきたことが、ただの自己満足だったそれらが、
認められるためにやったわけじゃないけれど。
それでも、誰かのためにあれたのが、うれしくて。
両親が存在した証拠が、確かにここに刻まれて。
「、これからもお前の思うままに進め」
「あなたの手で、あなたにしかできないことを」
そうして、私は二つの最大の武器を手に入れた。
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